・オリバーとスカーレット
・こっちも北の洞窟の魔物対峙の後ぐらいに入る話です。
今日は珍しく、ローガンが特別授業を休んだ。なんでも、家に偉いお客さんが来るので挨拶しなければいけなかったらしい。
「貴族って大変だね」
私は腕を組む。
「仕方ないよ、人脈って大事だからさ」
オリバーは小石を蹴る。授業も終わり、私は村の外でオリバーの迎えの馬車が来るのを待っている。
「遅いね」
もう二十分以上、待っている気がする。
「……たぶん、仕事が長引いてるんだ」
オリバーは草むらに座る。
「何時になるわからなから、スカーレットは帰っても大丈夫だよ」
彼は申し訳なさそうに笑みを浮かべる。私は、少し考える。そして、彼の隣に座る。
「うんうん、一緒に待ってるよ」
「え、でも……」
「せっかくだから、お話しよう?」
オリバーと話せる機会は少ない。
「……そうだね」
彼は頭を掻く。
「そうだ、これあげるよ」
彼がポケットから出したのは、赤いアメだった。
「わぁ」
アメなんて、初めて見る。
「綺麗」
一つつまんで眺める。
「食べると甘いんだよ」
オリバーはにっこり笑う。私は、アメを口に入れる。
「うん、美味しい!」
口の中にじんわり、甘い味が広がる。
「よかった」
彼も、 アメを一つ食べる。
「これ、この間お菓子を卸しに行った時に、お店の人から貰ったんだ」
「役得だね」
「ふふっ、本当に」
彼は無邪気に笑う。
「オリバーはよく仕事の手伝いをしてるの?」
「うん、そうだね。学校に行ってない時は、だいたい仕事の手伝いをしているよ」
この世界に『子供』と言う概念は無いように感じる。大人達は子供の事を『小さな大人』のように扱って、労働をさせる。
「ふーん、仕事、楽しい?」
「とっても!」
オリバーは嬉しそうに笑う。
「父さんと一緒に、いろんな村を回るんだ。村で特産品を買いつけたり、日用品を売ったりする。新しい商品を見るのは楽しいし、日用品を売ってお客さんに感謝されるのも嬉しい」
彼の目はキラキラしている。
「オリバーは商人である事を誇りに思ってるんだね」
「あぁ! もちろんさ。それに、同じ商品でも場所が違えば高くなったり、安くなったりするのが面白いんだよね。その時の、状況次第で相場がまた変わって来る」
「交易だね。山間部では、塩は貴重品だから高く売れるけど、だからって商人が塩を沢山持ち込めば、その村での塩の相場は下がってしまう」
オリバーがきょとんとした目をする。
「あ、ごめん……突然」
「いや、その通りだよ! そうなんだ! 商人は儲け話には敏感だ。だから情報が大事なんだよ。みんなに儲け話しが広がれば、君の言ったように相場はすぐに下がってしまう!!」
オリバーは興奮気味に言う。
「だから、情報にも値段がつくわけだね」
「そう! 商人とっては、形の無いモノも商品になっちゃうんだ! これって、凄い事だと思わないかい?」
「思う、思う」
スカーレットは頷く。すると、オリバーは興奮気味に商売の話しを続けるのだった。現代日本の教育のおかげで、基本的な経済知識のあるスカーレットはその話しを興味深く聞く。
(富には限りがあるものだけど、この世界は大陸全体に情報を共有するネットワークが出来てない。だから、国民全体での大きな消費が無いんだなぁ。大きな需要は富裕層に限られるから、資源の枯渇も無い……まだまだ、経済の行き止まりは程遠いんだろうなぁ)
スカーレットはオリバーの話しに頷きつつ、この世界の経済の程度を推測するのだった。
そんな話しをしていると、遠くにオリバーの家の馬車が見える。
「あ、来たみたいだ」
彼が立ち上がって、草をはらう。
「ありがとうスカーレット。おかげで、楽しい時間が過ごせたよ」
「こっちこそ、ありがとう」
スカーレットは笑みを浮かべる。
「君ってもしかして商人志望なのかな?」
「え」
「もし、そうならいつでも言って欲しいな! 俺が父さんに話しを通すよ! スカーレットなら、きっと立派な商人になれるよ」
「ありがとう、考えとくよ」
スカーレットは笑みを返す。
「それじゃ、バイバイ」
「ばいばーい」
手を振って、別れる。彼の後ろ姿を見送って、スカーレットも日のくれた道を帰る。まだまだ自分の将来は不透明だけれど、ひとまず沢山情報を集める事にしよう。その中に一つくらい、スカーレットに適した仕事もあるだろう。そしてオリバーみたいに、毎日楽しく仕事をしたいものである。
おわり




