・ローガンとスカーレット
・北の洞窟の魔物対峙の後ぐらいに入る話です。
魔術の特別授業を終えた後に、三人は雑談をした。二人は村からの迎えが来るのを教室で待っているのだ。
「ローガンの家には、立派な温室があるんだ」
「へー、凄いね」
さすが貴族である。
「まぁ、母さんの趣味なんだけどね……スカーレットも見に来るかい?」
彼はなんでも無い事のように尋ねる。
「えっ、良いの?」
「スカーレットも俺の大事な友人なんだから、家に呼ぶのはあたりまえだろ?」
「で、でも私……平民だし……」
「俺の両親は、そう言うの気にしない人だから大丈夫だよ。母も、元は平民なんだ」
「そうなの?」
「あぁ、村のパン屋の娘でね。父が一目惚れして口説いたんだ」
「ほあ~」
素敵なラブロマンスである。
「それで、いつにしようか?」
「あ、えっと……火曜の昼とかどうでしょう?」
「良いよ。村まで、迎えの馬車を出すね」
「ありがとうございます……」
「ローガンの家は他の国と交流の多い仕事をしているから、家に行くと面白い物がいろいろあるよ」
オリバーが笑みを見せる。
「それは、楽しみだな」
「あぁ、歓迎の準備をしておくよ」
ローガンもにっこり笑った。
火曜の昼過ぎ、私は小綺麗な格好をして、村の前で待っていた。しばらくすると、馬車がやって来る。
「スカーレット様ですね?」
従者の男に頷いて、馬車に乗せて貰う。こんな立派な馬車に乗ったのは初めてである。流れて行く風景を眺めて、スカーレットは何度も姿勢を正した。知らない村に、馬車が入って行く。ミュル村は、スカーレットの村と同じく麦が多く育てられている村だった。対して離れていないのだがら、生活にそこまで大きな違いは無いのだろう。馬車は村の奥にある屋敷に向かって行く。
「ほあ……」
大きな屋敷に驚く。門を潜ると、噴水が見える。屋敷の前で馬車は止まる。
「到着いたしました」
馬車の扉を開けて、従者が手を差し出す。その手を取って、スカーレットは馬車を下りる。
「スカーレット!」
屋敷の扉を開けて、ローガンが大きな声で名前を呼ぶ。
「ローガン!」
スカーレットは綺麗な石畳の道を走り、階段を上って彼の元へ行く。
「凄く大きな屋敷ね! びっくしちゃった!」
「祖父が建てた物なんだ。さぁ、入って!」
彼に促されて屋敷に入る。ふかふかの絨毯、頭を下げるメイド達。
「こっちへおいで」
ローガンに呼ばれて、二階に行く。奥の部屋に一緒に入る。
「わぁ!」
そこには、見た事の無い物が並んでいる。
「な、なにこれローガン?」
村では見た事が無い物ばかりである。
「父が他国に行った時に、貰ったり買ったりした物だよ」
綺麗な布のタペストリー、奇妙な怖い顔の仮面、不思議な異形を形どった石像。とにかく奇妙な物が沢山ある。
「ローガンのお父さんって、交易の仕事をしてるんだっけ?」
「あぁそうだよ。主に、ウェルズに行く事が多い」
「へー」
「まぁ、このあたりはアブト大陸の貿易品みたいだけどね」
彼が指差したのは、木の棚だった。細かい細工が施してある。何というかそれは、中華風味な物だった。コノート大陸は西洋風の物が多いので、珍しい。
「こっちはモリスト大陸の物らしい」
綺麗な模様の箱を開けると、中には宝石の装飾品が入っている。
「本当に、いろんな国の物があるのね」
スカーレットは、目を輝かせてそれらを見る。この世界には未知の事が沢山ある。ローガンに一つ一つ説明して貰った。
「あー面白かった!」
「そう言ってくれて嬉しいよ。話しばかりして疲れただろ? お茶の時間にしよう」
「わぁ! ありがとう!!」
ローガンの部屋で、紅茶とお菓子を楽しむ。
「このスコーンもとっても美味しい!」
この世界でお菓子にありつける機会は少ない。スカーレットは、出されたお菓子をもりもり食べる。
「どんどん食べてくれ」
ローガンはにこにこして紅茶を飲む。
ローガンの部屋は、貴族の坊っちゃんの部屋らしく、綺麗な部屋である。並ぶ品の良い調度品達。しかし棚の上に、蛇の抜け殻が置かれているのが実に男の子の部屋らしかった。しかし、その部屋の中に不思議な物が一つある。
「?」
「どうしたんだい、スカーレット?」
ローガンが首を傾げる。
「えっと、アレ、何かなぁと思って」
スカーレットはベッドの枕元を指差す。
「あぁ、アレか」
彼は立ち上がって、ソレを抱えて戻って来る。ソレは、金の髪をしたお人形だった。綺麗なフリルの服に包まれた女の子である。
「ふふっ、確かに俺の部屋にあるのは不思議だよね」
彼はそれを膝に抱えて座る。
「これはね……俺の妹に贈られる為に作られた物だったんだ」
スカーレットは驚く。ローガンは一人っ子のはずなのだ。
「けれど妹は……二歳の誕生日を迎えた数日後に死んでしまった……。身体の弱い子だたっからね、病気になって高熱を出したんだ……」
「そう……だったんですか」
スカーレットは俯く。医療技術の未発達なこの時代、乳幼児の生存率はとても低い。死ぬ赤子は珍しくないのだ。
「妹が生きていたら君くらいには大きくなってたんだろうなぁ」
「! そ、そうだったんだね」
「妹と、君は良い友人になってただろうね」
彼はそっと人形の頭を撫でる。
「うん……」
少ししんみりした空気が流れる。
「突然、こんな話をしてごめんね。でも、なんだか君に妹の事を聞いて欲しかったんだ。さぁ、お茶会を再開しよう」
彼は立ち上がり人形をベッド横に戻し、帰って来る。
「お菓子、まだまだ沢山あるからね。遠慮せず食べてくれ。それに、何か困った事があったら俺に相談してくれ。出来る限り、力になるからね」
彼はまるでお兄ちゃんのようだった。
「ありがとう。困った事があったら、相談させて貰うね!」
そう言うと、彼は嬉しそうに笑みを見せた。
その後、お菓子をいっぱい食べて、楽しいお話をいっぱいして過ごした。
「今日はありがとうローガン」
「俺のほうこそありがとう。また遊びにおいで」
手を振って彼と別れる。馬車に乗って、村へと帰る。彼が寄せてくれる親愛を、これからも大事にしたいとスカーレットは感じた。
おわり




