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 火の大精霊と契約を終えて、魔力地盤を安定させた私はコノートに帰った。そして、他の特級魔法使い達とすぐに会って報告をする事にした。

 忙しいのか、特級魔法使い全員が集まる事はできなかった。アルドルファスだけが、あの会議室に来て座っていた。私は彼の前に立って報告した。

「まず、期限の一月より遅くなった事を謝罪します。火の精霊との契約が完了し、魔力地盤の安定も終わりました」

 背筋を伸ばして報告すると、アルドルファスが私の顔をまじまじと見た。

「半年はかかると思ったんだがなぁ」

 彼はまずそう呟いた。

「凡人ってわけでは無さそうだ」

 私を見て、にやりと笑った。

「よし、よくやった。これで国は救われた! 後は、復興作業を頑張るだけだな。おまえも、手を貸せ!」

「はい!!」

 アルドルファスが立ち上がり、会議室を出る。私は彼の後を小走りに着いて行く。

「あ、あの。でも私、火の魔法しか使えないので、燃やすぐらいしか出来ませんけど? 何か出来る事ありますか?」

「あ゛? そういや、そんな報告だったな。まぁ、問題ない。必要なのは魔力だけだ」

 アルドルファスは再び、不敵に笑うのだった。


 私が連れて来られたのは、街のど真ん中だった。建物が大きく崩れ過ぎて、復興に手間取っているらしい。そして、そんな崩れた建物の側を見知らぬモノがうろうろと動き回っていた。土の巨人のようなものだ。頭が無い代わりに、人の乗るスペースのようなモノがある。それに乗り込んで、みんなガレキの撤去をやっているのだ。人の手を使うより、確かに楽ではある。

「私もアレに乗るんですか?」

「おうよ、あれはゴーレムだ。まぁ、乗って使い方に慣れろ」

 言われて、無人のゴーレムに乗せられる。

「基本は魔力通しちまえば、後は自由に動かせる。やってみろ」

 私は詳しい説明も無いまま、とりあえず魔力を通して立ち上がる。

「おわわっ!!」

 しかしバランスをとるのが難しくてフラフラする。

「なにやってる、ちゃんと重心をとれ!」

 私はしばらくフラフラした後に、どうにか立てるようになった。

「よしよし。んじゃ、ガレキの撤去頼むぜ」

 アルドルファスが立ち去った後、私は屈んで近くのガレキを持った。ゆっくりと動かないと、尻もちを着いてしまいそうだった。ゆっくりゆっくり運んで、ガレキを木の箱に入れた。

「ふぅ」

 突然、辺りに大きな音が響く。ズシーン、ズシーンとまるで足音のようだ。

『おいおい、スカーレット。そんなんじゃ、日が暮れちまうぞ』

 辺りに影が出来て、見上げると建物より巨大なゴーレムがいた。アルドルファスが乗ってる。

『おし、そんじゃおまえら。チャッチャッと終わらせっぞー!!』

 アルドルファスの声に、他のゴーレム達も手を上げて応じた。


 それから一ヶ月ほど、毎日のように私はゴーレムの操縦をした。どうやらゴーレムは、魔力を通して動くロボットのようなものらしい。土で出来た人形には、複雑な魔術基盤が組み込まれていた。ゴーレムを動かすには魔力がいるのだが、より大型のゴーレムを動かすには操縦者に求める魔力量も多くなった。つまり、大きなゴーレムを動かせる人は限られているのだ。

 私が小型のゴーレムを動かすのに慣れて来た頃、中型のゴーレムを渡された。そして更に慣れて来たら、大型のゴーレムを渡されたのだった。アルドルファスが動かしているのは、超大型で使える人は特級魔法使いと一握りの大学の魔術師くらいらしい。町中でも、五台くらいしか見なかった。

 そんなゴーレムの活躍により、街は少しずつ復興していった。魔術の発展したこの国ならではなのだが、ガレキの撤去は時間がかかるのだが建造は一瞬なのだ。材料を用意して、魔術基盤の式を組めば魔術師は一瞬で建物を作った。魔術の発展していない田舎では、今でも人が手で家を建てる。しかしこの街の建物は、殆どが魔術に寄って建てられた。ただし、主に店と貴族とそれなりに裕福な家に限る。貧民街など治安の悪い場所には復興の手が伸びないので、みんな自分の手で建て直しを行っていた。私はアイリスの案内の元、ゴーレムでオーベール地区の復興も手伝った。


 そうして、震災から三ヶ月後コノートは殆どが元通りになった。けが人達も治癒魔術師が治してしまった。改めて、魔術世界の恩恵を私は感じるのだった。

 復興が一段落ついて安心し始めたその矢先に、それは起きた。



 突如、コノート国内にその声は響いた。

『俺はアブト大陸、王候補が一人、リー・ハオユーと言う。侵略に来た』

 突然響いた声は、コノート中に響いていた。拡声魔術を使った物だろう。私は街中で、ゴーレムに乗ったままその音声を聞いて驚いた。侵略と言ったか?

『無駄な血が流れるのは、こちらも望みでは無い。降伏しろ』

「何言ってやがんだ、コイツは!!」

 アルドルファスが叫んで、城壁の方にゴーレムで駆け上がる。私も慌てて、その後を追う。

「!」

 そして、城の外を見て驚愕した。コノートを囲むようにして沢山の軍勢が集まっていたのだ。コノートは完全に包囲されていた。

『返事は、二時間後まで待つ。降伏しなかった場合、ただちに武力行使を行わせて貰う。では、良き返事を期待する』

 そうして拡声魔術は切れた。

「なんだってんだ」

 アルドルファスが苛立ただちげに呟いた。 


 緊急で会議が開かれた。特級魔術師だけでなく、国の中枢を担う錚々たる人々がいた。突然の宣戦布告にみんな混乱しているようだった。

「み、みな集まってくれた事に感謝する」

 長い机の一番端に座った王様が冷や汗を垂らしながら、礼を言う。

「では、早速議題に入りましょう。進行は宰相の私キプロスが行います」

 王の隣に立った男が、テーブルに座る面々をじろりと睨む。切れ長の目、前下がりボブの黒髪の年若い宰相だった。

「今、国の外にはアブト大陸の者が侵略に来ています。首謀者はリー・ハオユーと言う王候補の者らしい」

 宰相の会話の途中に、手が上がる。

「どうした外務大臣」

「私の部下に、アブト大陸について詳しいものが居ましたので連れて参りました」

 彼の横に座っていた男が頭を下げる。エルナ大陸では珍しい、東洋人風の顔立ちの男だった。

「ソン・ユーゼと申します」

「君はこの宣戦布告どう見る?」

 ソン・ユーゼは険しい顔をした。

「アブト大陸は、王の治世に陰りが見えると新たな王を興そうとする国です。それゆえに、何度も王が代わりました、そして次代の王となる男に求められる資格は『竜』の一族である事です」

 会議室がざわついた

「『竜』か……アブト大陸は、『竜』の者が長につく習わしなんだな」

「はい。それから、王候補として認めて貰う為の英雄的行動を彼らはとります。だいたいが、今の王に対しての義賊のような行動です。しかし王候補は多く、生半可方法では他の王候補達に差を付ける事は出来ません。ゆえに、時に彼らは突飛な行動に出ます」

「それが、今回のコノートへの宣戦布告だと」

「はい。遠征して、西の荒波を超え海を渡っただけでも十分箔のつく行動です。そこに更に、コノートと言う大国に宣戦布告したとあらば勝敗に関係なく彼らは評価されるでしょう。アブト大陸の民は、そのような大きな行動に出る者を王として好むのです」

「なんとも信じがたいですが、それがあちらのお国柄と言う奴ですか……」

 宰相は眉間に皺を寄せる。

「しかし、では相手は勝敗はどちらでも良いのですか?」

「いえ、あれだけの軍隊を引き連れているのです。彼らは、この戦に勝つ気でいます」

 再び会議室がざわつく。

「では、こちらも本気で迎え撃つ必要があるか……。一応聞いておきますが、降伏した場合相手は何を望むと予測されますか」

 ソン・ユーゼはしばらく考え込む。

「おそらく、この国の多くの財を望むでしょう。そして隷属化を望みます。けして、平等な取引きにはなりません」

「そうか……」

 宰相は頷いた。

「こちらに降伏の意思は無い。それでよろしいですね、王様」

「う、うむ。皆の者も、それで良いな」

 部屋にいる皆がそれぞれ同意を示した。

「では防衛大臣、防衛の準備を始めろ。未知の相手だ、民を守る為に最大の防衛を頼む」

「宰相殿!」

 ソン・ユーゼが再び声をあげる。

「アブト大陸の人々は、戦争を何度も繰り返して来た一族です。どうか彼らを侮られませんように」

「あぁ、わかった。軍事大臣、戦闘の準備を頼む。魔術大臣も防衛・攻撃それぞれに人員を割いてくれ」

「了解しました」

 遠くの席に座っていたイサック教授が頷いた。イサック教授は、コノート大学院の教授でありながら魔術大臣でもあるのだ。

「他の大臣も、各々必要な行動を判断して行動して欲しい。天災の影響で民は疲弊している。こんな状況だが、皆の尽力を期待する。では解散!」

 最後は王の言葉で、全体会議は解散となった。そして特級魔法使いだけで再び会議が開かれた。

「全くこの忙しい時に、宣戦布告して来るなんて嫌になるわ」

 ヴェルノが不満そうに言う。

「天災で国が弱ってる、こんな時だからこそ攻めて来たのさ」

 エイブは事もなげに言った。

「……あまり大きな被害が出ないと良いのだけど」

 新しい水槽に入ったシャータが言う。

「戦争なんだ、甘い事は言ってられねぇ! だが、黙ってやられるのはごめんだ。おまえら、絶対あの野郎を返り討ちにするぞ!」

 アルドルファスは大声で言い切った。こういう時、彼の威勢の良さはありがたい。

「シャータは後衛に詰めて怪我人の看護にあたれ、その他の特級魔法使いは城壁に待機だ。状況を見て、俺が指示を出す」

「了解したわ」 

「了解しました」

「わかったよ」

「了解です」

 時計を見れば、開戦の時間まで残り一時間も無かった。会議終了後、私達は武装して急いで城壁に向かった。街に人の姿は無い。皆、家の中に隠れているらしい。どうにか、家の新築が間に合っていて良かった。城壁に向かうと、門の辺りに銀の鎧を着た兵士達が槍と盾を持って集まっていた。その姿を見ながら、城壁に上がる。城壁には弓を構えた兵がずらりと並び、武装した魔術師達も居た。その中に、見知った顔がいる。コノートの元生徒会長のディランと、彼の兄のリリー騎士団隊長のアドニスだ。

「ディランさん! アドニスさん!」

 二人は遠くを見て何か話していた。

「あぁ、スカーレット。やはり君もここに配置されたんだね」

 アドニスが少しだけ微笑む。

「防衛魔術が張られるとは言え、この場所は危険だ。よく注意を払うんだよ」

 ディランが私に言い含めるように言った。

「は、はい!」

 ディランは、卒業後に軍事大臣補佐の仕事にまず就いたのだった。

「おう、スカーレット! 無駄話は終わりだぞ!」

 アルドルファスに呼ばれて私は慌てて、二人に頭を下げてそちらに行った。

「もうすぐ開戦だ」

 アルドルファスが、懐中時計を見る。針が、約束の時間を指した。

『さぁ、答えを聞こう! おまえ達の返事はなんだ!!』

 数秒の後に、コノート側から声が響く。

『我々コノートは、そなたへの降伏を拒否する。侵略して来ると言うのなら、最大の力で防衛と報復を行う』

『はっはっはっはっ!! やはりな、そう来なくては。では、開戦だ!』

 低い笛の音が鳴った。そして、ドラを鳴らすような音が響く。国を包囲していた兵士が声をあげて一斉に、コノートに進軍を開始した。コノート側も、門を開けて兵士達が外に駆け出す。

「構え! 打て!」

 城壁で弓を構えた兵士達が一斉に弓を打った。弓は的の陣地に向かって飛んで行く。しかし雨のように振った弓は、途中ではじけ飛んだ。

「魔術防壁だな」 

 アルドルファスがつぶやく。魔術で防壁を張っているので、こちらの攻撃は届かない。そして、今度は向こうから弓の攻撃がやって来た。矢の雨が、コノートに降り注ぐ。しかしこちらも、魔術防壁を張っているので矢は途中ではじけ飛ぶ。再び、こちら側から弓の雨が放たれた。

「魔術部隊攻撃開始!」

 そこに更に、魔術師達による攻撃が行われる。

 眼前では、互いの兵士達がぶつかり合い戦っていた。負傷した兵士が、門の中に運び込まれているのも見える。どうやら、運んでいるのは簡素な武装をしたコノート学園の男の子達のようだった。学生も、この戦争に駆り出されている。

「アドニス、少々こちらの分が悪いようです」

 先程から何度も連絡にやって来て被害の様子を伝える兵士が、ディランに何か手渡していた。

「どうしたんだ?」

 戦場の様子を見ながら、アドニスが尋ねる。

「あちらの軍の弓矢なのですが、鏃にイングラメタルが使われています。おまけに、手の込んだ障壁破壊の魔術の式も仕込んである……」

 アドニスが鏃を受け取って見る。

「希少なイングラメタルを、攻撃する矢全てに使っているのか?」

「はい。相手は本気でこの国を手に入れる気のようです」

「ど、どうなっちゃうんですか?」

 私は思わずディランに聞いてしまった。

「今、我々は魔術防壁で互いの陣地を守っている状態ですが、相手の使う弓矢の方が攻撃力が高いんですよ」

 再び、こちら側が攻撃を受ける。そして、魔術障壁にヒビが入った。

「つまり、耐久戦をすればいずれこちらが不利になります」

「エイブ! 攻撃に移れ!! ヴェルノは下の兵士達の援護をしろ!! スカーレットは俺と一緒に来い!!」

 アルドルファスの指示を受けて、特級魔術師のみんなが動く。私は言われたように、アルドルファスの後に続いた。

「魔術に秀でた学生を城壁の護りに回せ! 障壁を破られたら甚大な被害が出るぞ!!」

 ディランが叫んだ。この国の学生は、学生でありながらいざ戦争が始まれば前線に立たされる兵士でもあるのだった。

 私はアルドルファスの背中を追いかける。

「ど、どこに行くんですか!!」

「良いから黙って着いて来い!!」

 そうは言うが、アルドルファスと私では歩幅が違い過ぎる。

「ま、まって!!」

 道は慌ただしく兵士達が行き交っている。遠くのアルドルファスを見失ってしまいそうだった。

「たく」

 はぐれそうな私に気付いたアルドルファスが戻って私を肩にかつぐ。そして、猛然と城の方に向かって走り始めた。いったい、本当にどこに向かっているのだろうか。私は通り過ぎていく町中に、負傷者を治療するギネやアイリスの姿を見た。みんな、それぞれの持場で戦っているのだ。


 アルドルファスにかつがれてやって来たのは、城の中だった。そして、突如大きな音が外から響く。窓から見ると、城下に火の矢が落ちて建物が燃えているのが目に入った。

「あぁ!!」

「くそっ、障壁を破られたか」 

 アルドルファスは私を抱えたままエレベータに乗り込んで、不思議なボタン操作をした後に地下へと向かう。

「ど、どこに向かっているんですか?」

「……秘密兵器のある場所さ」

 アルドルファスはようやく教えてくれる気になったらしい。

「秘密兵器?」

「この大国が、戦争の為になんの準備もしてないわけないだろ? まぁ、俺も動かすのは今回が初めてなんだけどよ。なにしろ、国家滅亡の危機でもなけりゃ動かせねぇ兵器だからな」

 長い長い降下の後に、エレベータは止まって扉が開く。ようやく、アルドルファスの肩から降ろされた。暗い部屋に一歩踏み出すと、足元に青い明かりが灯った。どんどん歩いて行くと、この部屋がとても大きい場所なのだと気付いた。

「ここにあるのはな、建国の時に作られた兵器なんだ。コノートがウェルズから独立した時に、戦争に備えて竜族が設計して建造したんだ」

 天井や壁の明かりが点いて、部屋の中に鎮座する大きな何かを照らし出した。

「竜族の知恵と力で生み出された古代兵器フルカス。ついに、こいつを動かせる日が来たってわけだ」

 それは、巨大なゴーレムだった。天を突く程の巨人がそこには居た。小型のゴーレムと違い、頭も付いている。

「こ、これ動かすんですか!?」

「おうよ。これを動かせるのは特級魔法使いだけだ」

 確かに、普通の魔力量では無理だろう。

「本当は特級魔法使い全員でやるんだが、まぁ俺とおまえで大丈夫だろう」

 全然だいじょうぶじゃない。

「あぁ? 俺の魔力量舐めるなよ。他の奴ら四人分くらい賄える量はあるからな」

「そ、そうなんですか……!」

 もはやそれは、この人単独で兵器のようだった。

「まぁしかし、あと一人分の魔力がちっと足りないからおまえを連れて来たってわけだ。よし、乗り込むぞ」

 戦場では一番役に立たないだろう私を、不足を補う電池代わりに連れて来たと言う事だろう。若干不服だが、仕方ない。

 アルドルファスに手を引かれて、ゴーレムの体を登る。お腹に五つの丸い部屋があった。これアレだ、戦隊巨大ロボ。私はその内一つの部屋に入った。丸い球体に触れると、すり抜けて体が勝手に中に入ったのだ。思いの他、中は広い空間になっていた。入って来た壁から、外も見える。

『準備出来たか!』

 アルドルファスの声がどこからか聞こえて来る。別の部屋に入っているが、通信は可能らしい。

「はい!!」

『操縦は俺に任せろ!! おまえは、力を貸せ!!』

「はい!」

 その言い方は少々癪に触ったが、こういった戦闘経験は彼の方が上だろう。失敗は許されない。私はゴーレムに魔力を送る事だけに集中した。 床から、短い二本の台座みたいなのが生えて来た。そこに触れると、魔力が吸い取られた。

『おし、行くぞ!!』

 この巨大なゴーレムをどうやって、外に出すのだろう。もしかして、上が開くシステムなのだろうか? と思っていったら、目の前に巨大なゲートが出現した。なんとこのゴーレムは転移装置を持っているのだ。さすが、国の兵器の隠し玉。大きく開いた紫色のゲートに、ゴーレムが入って行く。そして、瞬きの間に城の眼の前に出た。そんな私達を歓迎したのは、赤い竜の咆哮だった。

「ギョアーーーーーー!!!」

『おいおい、なんだありゃ』 

 アルドルファスのつぶやきが聞こえる。やっぱり、彼であっても竜を見るのは初めてらしい。

『アブト大陸は、代々竜人が王になるって聞いたが……マジだったらしいな』

 そこに居たのは紛れもない竜だった。と言うことは、アレはリー・ハオユーが竜に変わったものなのだ。そして、振り返ったコノートの街はせっかく復興した建物が吹き飛び、崩れて燃えていた。

「ゴアーーーーーー!!!」

『くそっ、やってやるぜ』

 突然現れたゴーレムに威嚇を続ける竜に、ゴーレムは近づき拳を振り上げた。ゴンっと、おもいっきり竜の頭を殴る。しかし竜は固いうろこに覆われていて丈夫だった。ジロリと彼は、睨んで来る。そして、羽根を羽ばたかせて炎を吐いた。

『ちっ、前が見えねぇ』

 炎で視界が遮られる。幸い、中に乗った私達にはダメージは無い。

『シールドセット!』

 アルドルファスがそう言った瞬間に、ゴーレムの左腕に盾が出現した。炎がそれで防がれる。

『ソードセット!』

 更に右手に巨大な剣が出現した。これ本当に、戦隊バトルである。

『行くぜ、くらいやがれ!!!』

 炎が途切れた瞬間に、剣を思いっきり叩きつけた。西洋の剣は、日本刀のように切れ味はよくない。主に、叩きつける鈍器としての役割の方が大きい。この刀も刃は鋭くないらしく、竜を切る事は出来ない。代わりに、重い一撃を相手に与えた。側面から頭を殴られた竜は脳震盪を起こしたらしく、ふらふら後ろに下がる。

「クアッ、クアッ!」

 目を白黒させている。

『このままたたみかける!!』

 アルドルファスが剣で竜を次々殴った。頭を上からボコボコに、そして無防備に空いた腹を突く。最後は、下から振り上げた剣で竜は高く跳ね飛ばされ、そして地に落ちた。

『へっ』

 うろこが剥げてボロボロになった竜は舌を出して虫の息だった。そして、しばらくすると光って小さな人の姿になった。兵士達が、その人間に駆けつける。しばらくすると、彼は立ち上がり私達を見上げた。

「なかなか、すげぇもんを隠してるじゃないか! 俺の負けだ!」

 そう、拡声魔術で言った。

『俺達の勝利だーーーーー!!!!』

 アルドルファスの大きな声が、コノート中に響きわたった。私は耳の鼓膜が痛かった。

「声がおおきい!」

 でも、これで終わったのだ。戦争は終わりだ。コノートの街の火事は既に消し止められていた。水槽に入ったシャータが街の中央で、水の力を使っているのが見えた。建物は随分壊れてしまったけど、また復興を頑張れば良い。私は城下を見下ろして胸をなでおろした。その時、私の耳に高い音が聴こえた。最初、耳鳴りかと思った。けど、それは異質で不気味な機械音に感じた。私は音のする後ろを振り向いた。

「おや、勘が良い」

 仮面を着けた男が、後ろに立っていた。

「もう遅いですがね」

 私の体が崩れ落ちる。力が入らない。なんだコレ。手足が痙攣したみたいに震え始める。

「な、何したの!」

「殺しはしませんので、ご安心を。大事な特級魔法使いですからね。あなたは、このゴーレムを動かす為に必要ですから」

 男は私を見下ろして来る。私の右手に、腕輪がはめられた。魔術を封じられたのがわかった。

「あ、あんたは誰だ……」

 耳鳴りは止まない。男が胸に着けた小さなオルゴールのような機械が大元のようだった。

「……私はスティグマ。この国を恨むものです」

 首根っこを引きずられて、持ち上げられる。片手が無理矢理、台座の上に乗せられた。魔力が、ゴーレムに吸われる。

「や、やめろ!」

「あなたも、この国を恨んでるのでしょう?」

 仮面の男は、私にささやいた。

「貴方は被害者だ。突然攫われて、上の人間達の思惑の元に特級魔法使いにされた。貴方はこの国を恨んでも良い資格がある」

 沈黙していたゴーレムが動き始める。

「アルドルファス!!!!」

 私は、叫んだ。彼に、この危機を伝えなければ。

「あぁ、残念ながら。雷の特級魔法使いは、我が主が制御しました。もはやこのゴーレムは、我々のモノです」

 ゴーレムがコノートの街を振り返る。何をしようとしているのか、わかってしまった。

「やめて、やめて、やめて!!!」

 ゴーレムが腕を振り上げ、城壁を破壊した。衝撃で、近くの民家が壊れる。

「あっあっ、あっ……」

 中から、隠れていた人々が逃げ出すのが見えた。

「わ、私はおまえ達の仲間にならない!! 絶対にならない!!」

 麻痺した体を無理矢理動かして、暴れる。

「それは残念だ」

 しかし、そんな私の行動も虚しく。ゴーレムはコノートの城壁の中に入って行く。歩くだけで、民家や道が崩れて行く。眼下には、逃げ遅れて悲鳴をあげる人々もいた。

「ど、どうして国を恨むの」

「……この国は身勝手だからですよ」

「でも、国を破壊してなんになんになるって言うのよ……」

 呼吸が苦しくなって来た。意識が朦朧として来る。けれど、ここで意識を失えば私は一生後悔するだろう。力の入らない顎で唇を噛み、失いそうになる意識を保った。

「竜の一族に預けるんです」

「アブトの……?」

「いえ、この大陸にいる竜の一族達にこの国を返すのです」

 私の視界が暗くなる。スティグマの声だけが聞こえた。

「かつて建国した時、この国は竜の一族達が興しました。彼らの力で街は飛躍的な進化を遂げて行きました。しかし、人はやがて彼らを迫害し国から追い出してしまいました。なんと、馬鹿な事をしたのでしょう。おかげで、この国の進化速度は落ちました。あのまま竜の一族が治めていれば、この国は今頃楽園のようになっていたでしょうに」 

 私は無理矢理目を開く。既にゴーレムの目の前に城が見えていた。

「我々は、楽園を作りに来たのです。この大陸に危機が迫れば、慈悲深い竜の一族達は必ず助けに来てくれるのですから……」

 ゴーレムは両手を前方に構えて、巨大な魔法陣を出現させた。城を破壊されてしまう……。

「さぁ、コノートよ、崩れされ……」

 その時、鈍い音がした後に私の体は横に引き倒された。スティグマが何故か床に倒れたのだ。

「ぐっ」

 後ろで何かが起きたが、私は痺れた体では見る事が叶わなかった。そして、しばらくすると誰かが私を助けおこした。

「スカーレットさん……」

 なんと、そこに居たのはユーリス先生だった。

「せ、せんせい」

「どうしました。具合が悪いのですか……」

 動けない私の体を先生が診る。

「お、おとが……」

 それだけで、なんの事かわかったのか先生は倒れたスティグマの胸からオルゴールをとって壊した。音が止んだ。しかし、体の痺れはとれない。所詮音は、スイッチでしか無かったのだ。

「ミュージュラス病の初期症状が出ていますね……」

 先生が、私の瞳孔を見て脈を測る。

「あぁ、でも。すぐによくなりますからね……」

 先生は、上着から試験管を取り出して私の口にあてがった。不思議な色をした青い液体を飲む。すると、痙攣が止む。痺れも取れて、手が動かせる。

「貴方が無事でよかった……」

 ユーリス先生が私をぎゅっと抱きしめる。

「せ、せんせい。なんでココに……」

 なんで、ゴーレムの中に乗り込んで来れたんだ。

「説明は後です!」

 ゴーレムが揺れる。

「今は離脱しましょう!」

 ユーリス先生が私を抱えてゴーレムから飛び降りる。高い場所から私達は落下する。

「ひえっ!」

 おへそがひゅっとする。ユーリス先生が風魔法を展開してゴーレムの真下に着地する。そして、強化魔術をかけた足で城に向かって走る。

「コノート大陸の魔術地盤の乱れ……あれは、やはり人の力によって故意に起こされたものです!」

「そんな事が本当に出来るんですか!?」

「本来なら出来ません。しかし、魔術に長けた人間なら可能な事のようです。私はクラビスから相談を受けて、コノートに来ました。おそらく、アブト大陸の連中にコノートの情報を流したのも作戦の一部なんです。全ては、あのゴーレムが目的だったのですよ!」

 後ろのゴーレムは、動かなくなっていた。私がいなくなった事で、動力が足りなくなったのだろう。

「でも、それじゃあ私が下りたからもうゴーレムは動きませんよね?」

「いえ、それはどうでしょうか。アレにはまだアルドルファスが乗っています……」

「そんな! アルドルファスさんなら、私みたいに襲撃を受けても大丈夫ででしょ?」

 彼が簡単にやられるとは思えない。

「いえ……おそらく……、相手はアルドルファスを最大の脅威として想定しているはずです。アルドルファスを必ず止める手段があったからこそ、この勝負に出たんですよ」

 ゴーレムは沈黙したままだ。そう言えば、私がエンブリオの攻撃を受けてからアルドルファスからの通信も全く入っていなかった。

「そんな……!」

 アルドルファスは捕まってしまったのだろうか。不安げに見上げていた私の目の前で、誰かがゴーレムに乗り込むのが見えた。それは、エイブに見えた。そして、ゴーレムの目が光る。

「ゴーレムが!!!」

 沈黙していたゴーレムが再び動き始めた。

「どうして!!」

「おそらく、誰か代わりの人間を取り込んだのでしょう」

 ユーリス先生は私を抱いたまま城内に入った。

「無事だったか!」

 クラビスと、ライアン先生がいた。

「君が無事で良かった!」

 クラビスとライアン先生に交互に抱きしめられる。

「エイブが! エイブがゴーレムに!!」

 私は混乱した頭でゴーレムを指差す。見た物を伝えるので精一杯だった。

「風の特級魔法使いも取り込まれたか!」

 クラビスが舌打ちする。

「とにかく、ゴーレムを城の外に叩き出すぞ。これ以上、コノートを壊されてたまるか!」

「任せたまえ!」

 ライアン先生が、腕を振る。すると、城の一部が巨大な砲台に変化した。

「こんな事もあろうかと。防衛大臣と秘密裏に開発しておいたんだ!」

 砲台に巨大な光の力が溜まる。

「魔術砲撃てー!!!!!」

 今しがた動き始めたゴーレムに向かって、その光の砲弾は放たれた。ゴーレムはコノートの城外遠くに吹き飛ばされた。

「よし!!」

「次の砲弾の装填まで、十分かかる!!それまで持ちこたえろ!!」

「了解!!」

 クラビスがユーリス先生と共に消えた。

「ふ、二人が!」

「あいつらは城外でゴーレム退治だ! 君は安全なところに避難しろ! 城の外で誘導が行われてるはずだ!」

 私はライアン先生の叫び声を聞きながら、城の外に出た。

「ダーマさん!」

 叫ぶと、彼はすぐにやって来た。

「無事か、主よ」

「大丈夫!」

 ダーマは、特級魔法使い関連の仕事では彼らの前に姿を見せないようにしていた。なにしろ、前の火の特級魔法使いの付き人だったので顔を出すといろいろと具合が悪いのだ。しかし、近くで様子は伺ってくれている。

「城の外に行こう! ゴーレムを止めないと!!」

「了解した」

 ダーマが、黒い狼に変化した。

『乗れ』

 私は彼の体に飛び乗った。すると、狼は加速して崩れた街の崩れた道を駆け抜ける。動物への変化魔術は、体を変える事によって時に人の姿より効率よく肉体強化の魔術を通す事が出来た。

「スカーレット!!!」

 城壁の上から名前を呼ばれる。見上げれば、ヴェルノが居た。

「あれ、どうなってるの!」

「ダーマさん、一度上にあがって!」

 城壁の上に狼が飛ぶように移る。ヴェルノの側に、ディランとアドニスも来る。ヴェルノさんは、額から血を流していた。

「あのゴーレムは、敵に奪われました! エイブも取り込まれちゃったみたいです!!」

「エイブ!? 姿が見えないと思ったら」

 ヴェルノが舌打ちをする。

「わかったは、あれは敵なのね! なら、攻撃するわ!!」

 ヴェルノが腕をふるって、立ち上がろうとしたゴーレムの足元の土を砕く。ゴーレムは再び転倒した。

「放て!」

 アドニスが指示すると、ゴーレムに魔術部隊が攻撃を放った。

「私も加勢に行って来ます!!」

「待ちたまえ、味方の攻撃が当たらないように加護をかけておこう」

 ディランが私に、加護の魔術をかける。

「ありがとうございます」

「頼んだよ」

 私を乗せた狼は城壁の下に飛び降り、疾駆する。 私は黒い狼にしがみついて、クラビス達のところに向かった。後ろから次々と、攻撃がゴーレムに届く。ゴーレムは、未だ立ち上がれずにいるようだ。そして、彼らの側にたどり着いた。クラビスは何か、詠唱を行っているようだった。ユーリス先生は、そんな彼を守っている。しかし、疲弊しているのが見えた。

「クラビス! ユーリス先生!!」

 ゴーレムが目から光線を出して、二人を攻撃するのが目に入ったのですぐに二人の前に躍り出て火の魔術でそれを防いだ。

「スカーレット」

「攻撃を防ぐのは私に任せてください!」

 ゴーレムの攻撃を私はなんとか防ぐ事が出来ていた。しかしゴーレムに乗った時に、魔力を随分吸い出されていた。それでも私は、歯を食いしばって攻撃を防いだ。

「ありがとう、君のおかげで準備が完了した!」

 クラビスが叫ぶ。

「我が魔力・我が命を糧にしてその力をここに示せ! 精霊アンヌッカ!!」

 クラビスが呼び出したのは、巨大な女の精霊だった。緑のエネルギーで覆われた女は、クラビスの命令を聞いてゴーレムを攻撃した。倒れ伏していたゴーレムの顔面を殴る。

「うわっ」

 精霊は、次々とゴーレムを殴る。ものすごい肉弾戦である。

 それにしても、あれだけ大きな精霊を使い魔として召喚出来るなんて。クラビスの魔力量は特級魔法使いに匹敵しているのだろう。

 殴られっぱなしだったゴーレムが目の光線を出して、アンヌッカを牽制する。アンヌッカはそれを避けて、再びゴーレムを殴った。一方的である。使役しているクラビスは、直立不動のまま全く動かない。

「今、彼は。精霊と意識を同化させてるんですよ」

 ユーリス先生が、クラビスを守るように、魔法陣をかけ直す。

「そんな事って出来るんですか……?」

「よほど、親密な関係なら可能でしょうね」

 私達が見上げる目の前で、アンヌッカがゴーレムを殴りあげた。そして、そこに二発目の城からの魔術砲が放たれた。ゴーレムにヒビが入る。最後にゴーレムの頭部をアンヌッカが殴り抜く。そしてゴーレムの頭は砕け体は地に落ちた。勝利した精霊アンヌッカは腕を組み、ゴーレムを見下ろした。しかし、動かなくなったゴーレムは赤く光を発し始める。

「な、なに!?」

『まずいぞこれは、自爆する気だ』

 精霊と同化したクラビスの声が響く。

 その時、私の横から黒い狼が走り去って行く。

「ダーマさん!」 

 私の声は、ゴーレムの爆発音にかき消された。そして、眩しい視界の向こうに黒い竜の姿を私は見た。

 


 戦争が終わり、国は再び復興へと動き出した。国民達は疲弊していたが、それでも互いを奮い立たせながら頑張る姿が多く見られた。学生達も、走り回って復興の手伝いをした。私も、大型ゴーレムを動かして日々ガレキの撤去を頑張った。ボランティアが終わった後、私は食料を持ってアジトに向かった。

「ダーマさん、起きてますか?」

 扉を開ければ、ベッドの上で体を起こしたダーマが本を読んでいた。人とのコミュニケーションについての本だった。

「サンドイッチ持って来ましたよ」

「あぁ、ありがとう」

 トマトとレタスのサンドイッチをダーマが、もぐもぐ食べる。

 ゴーレムの自爆の時、私達を助けてくれたのはダーマだった。黒い竜の姿になって、爆発を防いだのだ。しかし竜とは言え、国一つ滅ぼす規模の爆発を防ぐのは難しかったらしい。結果、ダーマは半死半生で見つかった。現在は、回復に努めている状態だ。竜の回復力はすさまじく、焼けただれていた肌は現在ほとんど治っている。ただ、体の中身はまだ十分では無いらいしく、立って歩くのも大変そうだった。

「ありがとうございますダーマさん」

「何度も聞いた」

「何度だって言いますよ」 

 爆発の直後、黒い竜を見たと言う人々は沢山いた。しかし、その黒い竜が何者なのかを知るものは誰もいなかった。だから、私がお礼を言うのだ。この国を救った英雄に。 

「ふん」

 ゴーレムに乗っていた、アルドルファスはその後ガレキの中から見つかった。意外にも、彼はそれ程の傷を受けていなかった。目を覚まして以降は、操られた事に怒りまくって手が着けられなかったらしい。エイブも同じようにガレキの中から見つかった。彼はどうやら敵に操られていたらしい。自分のしでかした事を見て、自ら謹慎状態に入っている。敵のスティグマは残念ながら、見つからなかった。

 ヴェルノは建物の復興、シャータは怪我人の治療と日々忙しそうだった。

「そうだ、今日はみんなと、ヴェルノさんのお店に遊びに行くんです」

「そうか。気をつけて行けよ」

「はい!」

 こんな時だからこそ娯楽が大事だとヴェルノさんは言っていた。


 夜に、リヴィアとオリバーとローガンと一緒にヴェルノのお店に行った。お店では、綺麗な服を着た人達がユーモラスなダンスを踊って観客達を楽しませてくれた。私達はそのきらびやかなショーを見ながら、笑いあった。

 再びこうして、みんなと笑い合える日が来て、本当に良かった。

 私は首にかけたルビーの指輪を撫でる。


 私は長い旅をしている。『幸せ』って永久保存しておけるモノではなくて、失ったり獲得したりを繰り返しながら、生きていくのだろう。

 ひとまず私のお話はコレで終わり。

 私はこれからもスカーレットと一緒に、この世界で生きていくのだ。



おわり

 

  

『転生したので幸せになりましょう』完結です。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。この連載は当初、『とにかく長編小説を書いてみよう!』と言う目標で書き始めた小説でした。しかし、あまりにも長編小説を書くのが難しく、一度無理矢理完結させました。それを再び、連載再開してここまで書き上げる事が出来て良かったです。

 本当、長編小説を書く大変さをしみじみと感じました。作中、いろいろと試行錯誤して迷走しているところもあるかと思います。ですが、ひとまず完結出来て本当に良かったです。


 

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