67
私は竜との契約で、一ヶ月も眠っていた事がわかった。竜の力を体に馴染ませるのに、それだけの時間がいったらしい。久々にコノートに帰ると、多少復興が進んでいた。しかし、ゆっくりする暇も無く私は火の精霊の元に向かった。約束の一ヶ月はとうに過ぎていたのだ。クラビスの話では、アルドルファスがめちゃくちゃ怒ってるらしい。早急に火の精霊と契約して、魔力地盤を安定させなければいけない。
■
再び、クラビスの力を借りて移動する。今度は、火の精霊のいる遺跡だ。転移した後、私は口を押さえた。
「おえっ」
何度やっても転移は慣れないのだった。
「じゃあ、頑張っておいで」
クラビスが姿を消す。私はダーマさんと二人、洞窟の中に入る。なんか最近、ずっと洞窟の中にいる気がする。
「火の遺跡はこの洞窟の奥にある。コノートが建国された時に作られた物だ」
洞窟内には壁に燭台があり、火が灯っていた。
「あの……なんか熱くないですか」
奥に進む事に、洞窟内の空気が熱くなって来る。
「火の遺跡だからな。奥に進めば、マグマが流れている。先に進んだら体を魔力で強化して覆っておかないと、肺が焼けるぞ」
行くのだけでも命がけなんですね。私達は、黙々と進んだ。そして、左右に火の大精霊を象ったらしい石像が置かれている場所にたどり着いた。
「……ここから先は、おまえが一人で行け。大精霊の契約は神聖な儀式だからな。俺はついていけない」
「わかりました」
私は一人、奥に進む。左右にマグマが流れている。これ、落ちたらひとたまりも無いだろうなぁと思いつつ私は肉体を強化しながら進んだ。
そして突き当りで、部屋の中央に大きな赤い塊が浮いているのが目に入った。おそらくコレが火の大精霊なのだ。
「あ、あのう。私、新しく火の特級魔法使いになったスカーレットです。契約に来ました!」
まるで高校受験の時の面接を私は思い出していた。マグマの海が蠢く、そして赤い玉も光始める。
『おう、おめぇが次の俺の主か!!!』
真っ赤に燃える男が姿を現した。鎧を着て、軍人のようだった。実際、火の神は軍神として崇められている。
「そ、そうです」
『ちっせえな! こんなちっこい奴は初めてだぜ!!』
元気な精霊さんだ。
「それで、急で申し訳無いんですが。私と契約をして貰えませんか?」
『おう、良いぜ!』
「本当ですか!」
てっきり何か最後に試練とかあるのかと思っていた。
『そんじゃ、契約するぞ。片手をあげな』
私は右手をあげる。
『火の大精霊コンラッド。この熱き炎に誓って、主との契約を承認する』
私の右手に熱い物が宿る。そして、私は自分の体に大きな力が宿るのを感じた。
「!」
私は崩れ落ちる。全身熱い。まるで燃えてるみたいだ。無理矢理力を押し込まれて、爆発してしまいそうだった。
「ぐっ、くっ……うああああ!!」
私は口から炎を吐いていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
その後、何度も炎を外に出して私は悶え続けた。
どれくらい経っただろうか、私はようやく体の熱がいくらか収まったのを感じた。
「けほっ」
口からまだ炎が出る。
『どうにか、乗り切ったみたいだな』
コンラッドが私を見下ろしていた。
『服は燃えちまったみたいだがな』
見下ろしたらら真っ裸だった。全身熱いなぁと思ったけど、本当に燃えてたんですね私。
『そのまま帰すのは忍びないないからな、おまけしといてやろう』
コンラッドが指を振る。不思議な力で、服をくれたようだ。
「!」
私は着せて貰った服を見て驚愕する。
『よし、これで大丈夫だろう』
「いや、全然大丈夫じゃないですよね!? これ、ビキニアーマーですよね????」
胸と下半身が心もとない水着のような鎧によって隠されていた。腕とか肩に、装備があるけどもっと覆うべきところあるよね? マントに使う布もっと他に使えたよね?
『俺の加護を受けているから、強い防具だぞ』
火の大精霊コンラッドは満足そうに頷いた。大精霊に、人と同じ価値観を願うのは酷なのかもしれない。
「あ、ありがとうございました……」
私は羞恥に震えながら、礼を言った。願わくば、絶対にコレが必要になる日が来ませんように。
「そうだ! 私、大陸の魔術基盤を安定させなきゃいけないんです! 力を貸してくれませんか?」
『ふうむ。やはり最近、大陸の基盤が揺らいでいたのは気の所為では無かったか……よかろう。力を貸そう』
「ありがとうございます!」
私は両手をあげて、大精霊の力を借りた。そして、大陸全体に火の魔力を送った。私一人ではそんな魔力量は無いのだが、火の大精霊にはこの大陸全体の魔力を賄うだけの魔力があった。大陸に流れる魔力の流れを読んで、多すぎるところから引き、足りないところに足した。感覚が拡張して、もはや人の知覚を超えた力を私は行使したのだった。
全て終えた後、私はふらっと後ろに倒れる。
「はぁ……」
脳の糖分全部無くなった気がする。
『よくやった、主よ』
上手くいったようだ。
「はい、こちらこそありがとうございます」
よろよろと立ち上がって、礼を言う。
『では、また会おう』
火の大精霊が消えて再び火の玉になった。本来の彼らはこの姿が普通なのかもしれない。人とコンタクトする時に、あの姿をとってくれるのだろう。
私はよろよろと歩いて、ダーマの元に戻った。
ダーマの元に帰って安心する。しかし、彼は私を見た瞬間に奇妙な顔をした。私は、自分がビキニアーマーな事を思い出して慌ててマントで隠した。
「わっ!」
しかしダーマは訝しい顔をしたままだった。私の側に来て、髪に触れる。
「やはり、変質は免れなかったか……」
私は最初言われた意味がわからなかった。そして自分の短い髪を見て、それが赤色になっている事に驚いた。
「!」
本当に綺麗な赤色になっていたのだ。
「大精霊との契約は人知を超えた大きな力を受け入れる事だ。体に影響が出るのは普通の事だ」
他の特級魔法使い達を思い出す。確かに、特殊な影響を受けている人達はいた。
「髪ぐらいで済んでよかったです……」
「いや、まだわからないぞ。時間が経たなければわからない変質もあるからな。エイブのように」
エイブは子供のまま体の成長が止まっていた。
「そうですね……。でも、とりあえず成功して良かったです。大精霊と契約して、無事に魔力地盤を安定させられました」
私は笑顔を浮かべた。
「そうか……よく頑張ったな」
頭を撫でられる。なんか最近よく頭を撫でられてる気がする。私の背が伸びて、撫でやすい位置に来たせいだろうか。
「ところで、随分斬新な格好をしていなかったか」
ダーマは私が赤いマントで隠した体に視線を落とす。
「気、気のせいですよ! いや、本当!!!」
私は更にマントを強く自分に引き寄せた。
つづく




