54
コントロールの訓練で散々しごかれて、私はバキバキの身体のままテントで横になっていた。明日も、訓練があるのだから、しっかり眠らなくてはいけない。そうはわかっているのだが、眠れない。
「い、いたい……」
眠れずに、私は起き上がり水を飲みに行った。カップに注いだ水を飲んだ瞬間、遠くで爆発音がした。
「え、なに!?」
私は慌てて遺跡の中を見渡す。すると、遠くで炎が燃えていた。煙が立ち上っている。
「な、なにアレ?」
私は慌てて、クラビスのテントへ行く。しかし、クラビスはいなかった。
「い、いない!」
そこで私は背中に寒気を感じた。慌てて、横に飛び退く。私が立っていた場所に、短刀が空を切る。
「っ」
私は寝間着のまま裸足で遺跡内を走り、追跡者から逃げた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
何かが後ろから追いかけて来ている。
―怖い、だれか、誰か助けて……!
けれど誰も助けに来てなどくれない。遠くで、また爆発音が響く。あそこにもしかしてクラビスがいるのだろうか。スカーレットは、火の手の方に向けて走り始める。スカーレットは、足の身体強化を走りながら行った。身体強化の式をすぐに打つ訓練をしておいて良かった。強化のかかった足で、スカーレットは加速して走る。しかし敵はなおも付いて来た。おそらくあの敵はスカーレットを狙っているのだ。初撃で、スカーレットを殺す気だった。
―盗賊……? それとも、暗殺者?
物盗りなら、これ程執念深く追撃はしないだろう。なら、やはりスカーレットを狙った暗殺者だと見るべきだろう。加速した足で、高く飛びようやく火の元へたどり着く。
「スカーレット!」
クラビスが私の姿を見てすぐに声をかける。
「僕の後ろの穴から遺跡に入るんだ! ココは僕に任せて!!」
クラビスが対峙する敵は、黒いマントを羽織、仮面を付けていた。
「でも……!」
「君を守りながらでは正直苦しい相手だ。どうか、逃げてくれ!」
「わ、わかりました!」
クラビスが、大掛かりな魔術を発動する。浮かぶ、魔法陣。スカーレットは、後ろに響く爆発音を聞きながら小さな穴に潜り込んだ。そこはおそらく、用水路だったのだろう。狭く、本来人が通るようには設定されていなかった。身体の小さいスカーレットだから、どうにか進んで行ける道だった。
「うぅ、暗い……」
スカーレットは短く、詠唱を唱えて灯り代わりの火の玉を出した。これは、探索の時に使われる術だった。
暗い用水路を進み、ようやく広い空間に出た。ここは以前来た、宝物庫の中だ。
『さて、どうする』
ググが部屋の中をふわりと漂う。
「ググ!」
『どうやら敵はまだ遺跡の中に入れないようだ。お主が追いかけられていた雑魚では、遺跡に入る資格を有していないようだな。しかし、クラビスが相手している仮面の奴は十分な魔力量を持っている。おそらく、遺跡は入る事を許可するだろう』
「クラビスさんは大丈夫ですか……?」
『五分五分の戦いだな。クラビスは、この遺跡を守りながら戦っておる。そちらに魔力を割いているせいで、魔力が分散している。負けはしないが、勝つ事も出来ない。どちらの魔力が尽きるのが先かの持久戦だ』
「そんな……どうしよう……」
遺跡から出ればスカーレットは雑魚に殺されるだろう。クラビスのところに行けば、足手まといになって共倒れするかもしれない。じゃあ、ここでクラビスが勝つ事を祈って待つ事しか出来ないのだろうか。
『先に進んだらどうだ』
「えっ、でも」
一応技のコントロールの訓練は頑張ったが、まだビッグベアを倒せる自信は無かった。
『先に進んで、おまえがこの試練全てを踏破したら炎の珠を渡す事が出来る』
「炎の珠? それは何が出来るんですか」
『簡単に言えば、魔力増幅だな。お前自分のステータスは、見た事があるか?』
「学校で一応……」
『どれ、私がもう一度見てやろう』
スカーレット
【特級魔術師見習い】
レベル二一
火1020 水0 風0 土0 雷0
『ふむ、見事に火だけ高いな。今の人間達だと魔力値は普通の人間だと10ぐらいだ。50あれば、お主達が言うところの認定魔術師を勧めるられるな。100あれば、上級間違い無しと言ったところか』
改めてステータスを見て感じるのだが、火の魔力が1000を超えているのは化物なのだろう。ちなみにこのステータスは、学校入学の時も一度見せて貰った事がある。その時は、560だったので心臓移植後に特級魔術師になった影響で上がったモノと思われる。後は、ダーマさんの薬とかタトゥーとかのせいだろうか。本当、日々肉体改造されてる感じがする。
『炎の珠は術者の魔力を二倍にする』
「……に、二倍!?」
既に1000もあるのに、それを二倍にしちゃったら2000になるじゃないか。どんどん、化物に近づいて行ってる。
「そ、そんな火力をあげちゃうんですか……」
『驚いているようだが、大精霊召喚には最低でも5000は必要であるぞ』
「ひえっ」
『ひとまず、外の敵を追い返すのには十分であろう』
私は腕を組む。もう、これはやるしかない。
「わかりました。試練にチャレンジしてみます」
生き残るにはこれしか無い。
『うむ、そうしなさい。ま今回は特別に怪我をした時は回復魔法は妾がかけてやろう』
それは助かる。
「じゃあ、行って来ます!」
ビッグベアの部屋に入る。ビッグベアが、吠える。私は、震えながら自分を叱咤して身体に強化魔術をかけた。
「い、行くぞ!」
ビッグベアの吐いた氷のビームを避けて、火力高めの光弾でビッグベアの首輪を狙う。一発目、当たった。ビッグベアの動きが止まる。私は、その間にビッグベアを攻撃しようとしてふと上を見た。天井に大きなつららがある。私はそちらを攻撃する。しかし、ビッグベアが再び動き始める。慌てて、攻撃を避けて再び首輪を狙う。
「ぐあああ!!!」
大きな声を上げてビッグベアが仰け反る。再び、動きが鈍る。
「うらああああああ!!!」
天井のつららを、最大火力で狙う。すると、つららが折れてビッグベアの上に振って来る。ざくざくざくりと、ビッグベアにつららが次々刺さってビックベアは唸り声をあげて動かなくなった。しばらくすると、幻のように消えてしまった。
「や、やった!!!!」
私はぴょんぴょん飛び跳ねる。しかし、まだ試練は残っている。慌てて、中央の部屋に戻る。
『お帰り、残る試練は一つだ。さぁ、そっちの部屋に入れ』
指さされた部屋のドアを開ける。何故か部屋の中では吹雪が舞っていた。
「な、なんですかコレ!」
外にいても冷気で身体がガタガタ震える。
『この部屋の試練は今までの訓練の全てを使う。吹雪の中を歩き、広いこの部屋で目的の物を見つけるんだ。もちろん、モンスターもいる。そやつらの妨害を避けながら目的の物に触れたらゴールだ。見つけるのは、赤い旗だ。寒さにギブアップして倒れたら、部屋の外に出されてやりなおしだ』
つまり、身体の体温を持って行かれないように魔力で身体を温めながら進むわけだ。
『そら、回復してやろう』
疲労が回復される。
『では頑張って来たまえ』
私は吹雪の中に押し出された。
「さ、さむっ」
急いで、身体を熱の魔力で覆う。身体がポカポカして来た。あまり、長い時間はこの魔術が使えない。急がなくては。私は雪を踏みながら、前に進んだ。しかし吹雪が強くて、全く見えない。旗はいったいどこなのだろう。途中に狼が出て来たが、ビッグベアに比べれば、大した事が無かった。
「どうしよう……」
歩いても歩いても見つからない。私は焦りを感じた。探知魔術用の板は持ってこられなかったので、自分の目を頼りにするしかない。急がなければ、クラビスがやられてしまっているかもしれない。けれど、旗は見つからなかった。
スカーレットは、吹雪の中を見渡した。そもそもこの部屋の吹雪はどこから出ているのだろうか。部屋なのだから吹雪を出す場所があるはずだ。あたりを見渡してもそれらしい物は見当たらない。
クラビスは、正攻法じゃなくてもココの試練はクリア出来たと言っていた。正攻法は、雪の中を探知魔術で旗を探す方法だろう。ではスカーレットが出来る、反則技はなんだろうか?
「やっぱ火だよね」
手に魔力を集める。今まで押さえていた魔力を解き放ち、身体から高熱を出す。すると蒸気を発しながら周囲の雪が溶けて行く。更に火の魔術であたりの雪を溶かす。
「これじゃ、ラチがあかないか」
暫くすれば、すぐに吹雪が床を雪で埋めた。しかし雪を溶かした事で特に強く雪の吹くところを見つける事が出来た。今度は下に向けて炎をぶつけ、その力で浮いた。以前から考えてはいたが、やった事の無い荒業だった。すると浮いた身体が天井にたどり着く。天井周辺は、吹雪が弱い。おかげで、あたりが見渡せる。下を視認する事は出来ないが、天井に付いた装置は見つける事が出来た。この装置が、吹雪を作っていたのだ。スカーレットは目に入った装置を片端から壊して行った。そして、二、三個目の装置を壊した時、ようやく旗を足元に見つけた。
「あった!」
旗のすぐ側に着地する。着地した瞬間に、ビッグベアが雪の中から飛び出して来た。しかし、スカーレットは旗に触れた後だった。ビッグベアが猛然と走って来るが、転移魔術で外に引っ張られて難を逃れた。中央の部屋に戻って来ると。ググがにやっとした顔で笑っていた。
『うむ、試練を達成したな』
「あ、あれで良かったのかな?」
『構わない。超え方は、人それぞれだからな』
すると部屋の中央が光り始め、私の上に赤い珠が下りて来た。
『その赤いルビーの宝石の中に仕舞うがよい』
私が首にかけたルビーの中に珠が入って行く。
『よし、出来た』
満足そうなググ。一方私はいまいち自分の変化がわからなかった。
「とりあえず、外で魔術を撃って来い」
「わ、わかった」
私は用水路を通って、外に顔を出した。クラビスは同じ場所で応戦していた。
「おや、おかえりスカーレット」
クラビスはなんと大きな遺跡全体に完璧に結界を張っていた。
『こやつ、遺跡を壊されるのがよほど嫌らしいな』
「学者として、こういう物は大事に守らないとね。まぁ、おかげで攻撃出来ないんだけど」
あはは、と笑うクラビスの横に私は立つ。
「攻撃は任せてください」
両手を構える。大きなエネルギーが私の両手に溜まるのを感じた。
「いっけー!!!」
突き出した両腕から、炎の玉が吹き出した。そして仮面の敵が慌てて、結界を張ったように思う。炎の攻撃が終わった後に、私は両手を見た。予想以上に大きのが出た。仮面の敵の姿は無かった。
「どうやら逃げたみたいだね」
生きてはいるらしい。
「うん、スカーレットちゃん、なかなかの戦いぶりだったよ」
クラビスが私の頭を撫でる。
「わ、私も驚いています」
予想外の結果となってしまったが、ひとまず私の夏休みの目標は達成されたのだった。
つづく




