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五日目。私は、四つ目の試練を目の前にして唖然とした。そこには、鎖に繋がれた大きな蒼い熊が居た。その熊の後ろに、扉がある。きっと、この熊を倒さないといけないのだろう。
『さぁ、ビッグベア相手にお主の火力を見せておくれ』
宙に浮いたググが言う。私は、ビッグベアの吐いた氷の柱を避ける。迫る大きな腕に、冷や汗を垂らしながら私は炎の柱を出して相手を牽制した。走る、走る、走る。とにかく攻撃を避けるのがせいいっぱいだ。ビッグベアは鎖でつながれているおかげで、ある程度の距離しかこちらにやって来ないのだがそれでも逃げるのが精一杯だった。隙をついて、どうにか一発炎の攻撃をあてられたがその頃には魔力切れを起こしていた。走り回った足も、ガクガクしている。ビッグベアが、再び氷の魔術を吐こうとした。
『おすわり!』
ググが間に入って、ビッグベアの動きを止める。
『どうやら、ここまでみたいだのう』
「はぁ、はぁ、はぁ……」
『対策を練って来ると良い。今のお主では、この子には勝てぬ』
私は、身体をひきずるようにしてその部屋から出た。
クラビスに手当を受ける。
「四っつ目の試練、凄かっただろー。いやー、スカーレットくんもっと早く外に出て来ると思ってたよ」
傷薬をたっぷり塗った湿布が、背中や足に貼られる。
「いてて……、いや、本当に死ぬかと思いました」
どうにか逃げ切ってはいたが、危ない場面は何度もあった。
「さて、それじゃあ明日から戦闘面での対策を練って行かないとね」
「戦闘……」
「スカーレットくんは、魔物との戦闘経験はどのくらいあるんだっけ?」
「……バイトして居た時に、城の近くの森で何度か魔物の相手はしました」
「あぁ! ザウルとラスカーのとこで働いて居たんだったね。それじゃあ、戦闘訓練の基礎は出来ているのか」
うつ伏せになった私の頭をクラビスが撫でる。
「それじゃ、明日は応用編だね!」
「が、頑張ります……」
手足がガクガクで、今はとにかく眠りたかった。
次の日、戦闘訓練の授業を受けた。
「さて、まずはなによりも強化の魔術だ。まぁ、前の試練でスカーレットくんも何度か使ってたみたいだからやり方は知ってるね」
「はい。授業で習いました」
「うんうん。ちゃんと、勉強出来てて偉いね。それじゃ質問だ、この世界の魔法系統の仕組みを説明してごらん」
にっこり笑顔で、クラビスはそう言った。私は、焦りつつ頭の中で魔法の授業を思い出した。
「えっと。この世界にはまず、火・水・風・雷・土の属性魔法が存在します。これが基本の魔法で、普通人間はみんなこれらの魔法が大なり小なり使えます」
私みたいな特殊な症例もいるけど、私の場合出力の蓋が閉じてるだけでそれらは身体の中にはあるのだ。まるで血液と同じように。
「それで、これに光と闇って属性もあります。でも、これは特殊な精霊の加護を受けて始めて使えるようになるものだと聞きました」
精霊に認められる為の修行が必要らしい。
「魔術基盤を用いた魔術は、詠唱を式として仕組み化していて、使う魔力は大気から吸収すると聞きました。なので、使用者自身の魔力量の有無には関わらないと」
「そうだね。属性魔術が魔術師自身の才能から威力が変わるのに反して、魔術基盤を用いた魔術には才能の有無は関係ない」
「はい。更に呪術や、肉体強化のステータスアップ等は魔術基盤の式と、属性魔術を複合した存在だと習いました」
「うんうん」
「私の場合だと、身体に肉体強化をかける時に詠唱式と一緒に自分の火の属性魔力を練り込んでいます」
「そうだね。肉体強化や、魔術は術者自身に式を打ち込む魔術だ。まぁ、大気から魔力をとる事も出来るんだけど……それ程、複雑な式となると式を組み込むのに時間がかかるから普通は自分の魔力から引っ張って来る事になる。純粋に、エネルギーとしてね」
「はい」
私は頷いた。
「さて、スカーレットちゃんは今まで授業で習った方法で式を組んで肉体強化を行っていたと思うけど。これからは、僕がより強力な式を教えてあげよう」
にっこり笑うクラビスに、スカーレットは恐る恐る手を上げた。
「先生……自分に式を打ち込む、肉体強化系って式が切れた後の反動が凄いって聞きました」
「まぁ、確かにね。最初は身体が付いて行かないと思うよ。それに、下手な内は不十分な式で身体を動かす事になるしね」
「うっ」
「まあ、慣れてくれば身体の負担も減らした式が作れるようになるよ」
スカーレットは再び手を上げる。
「先生、戦闘中に複雑な式を組むのって命がけじゃないですか」
「まぁ、それは。成せば成るだよ!!」
クラビスは最終的に根性論になった。
クラビス先生のスパルタ授業によって、私は複雑な式を組めるようになった。確かに、これが使えれば大幅なステータスアップが見込める。ただし、戦闘中にちゃんと組めればの話しだ。
「はい、じゃあ実戦行くよー」
クラビスが、手に持ったランタンを揺すると模擬戦闘用の小人達が飛び出して来る。小人達はぴょんぴょん跳ねる。
「肉体強化を使って、五分以内に小人を捕まえて!」
私は急いで、肉体強化の式を組んで身体に打ち込んだ。急いだけれど、式を組むのだけで一分はかかった。
「できた!」
急いで、小人を捕まえに行く。強化したおかげで足が凄く早い。私は、小人に飛びついた。しかし、もう少しのところで減速する。
「あ、あれ?」
「うーん、式が抜けたみたいだね。継続タイムが短か過ぎる。はい、やり直し」
慌てすぎて式が抜けたらしい。一応、暗記しているものの長い記号の羅列のような式は完璧に組むのだけでも難しかった。魔術基盤を書く時にも聞いたのだが、複雑な式は仕組みを理解した人間ならより短縮して行く事が出来るらしい。残念ながら私のレベルでは、これ以上短縮した式を理解する事は出来なかった。なので、今はただこの式をより素早く正確に組んで打ち込む練習をするしかない。
私は再び式を組んで、身体に打ち込んだ。
強化が途中で解けたり、半端に力だけ強くなったり、失敗して半身が麻痺したりと沢山の失敗を繰り返した。しかし日数を重ねる内に、私は式を正確に素早く組めるようになった。今では二〇秒あれば式を組む事が出来る。しかし、今度は強化が解けた後の身体への負担に難儀した。強化後とても身体が疲れるのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
たった、五分強化魔術を使っただけでこの息切れである。全身、疲労で起き上がる事も出来ない。おまけに、毎日強化魔術の訓練を行っているので疲労はどんどん蓄積していた。
「や、やばいですよクラビスさん。これ、本当に戦闘で使えるのかな」
強化が成功しても、五分以内に倒せなければ私はその場に倒れる事になる。
「うーん。僕としては、もっと負担の少ない式を君が組めれば良いかなぁと思うんだけど。それを理解する為に、まずコノート学園で習う魔術の授業を一通り修めておかないと無理なんだよなぁ」
私は聞きながら、遠い目をした。このカリキュラム相当、私には早かったんじゃなかろうか。
「しかし、それが出来ないとなるなら後はある物で頑張るしかない」
「つ、つまり?」
「五分以内でビッグベアを沈める」
私は、遠い目をした。
「無理って顔してるね。しかしだねスカーレット。この僕を誰だと思っている。魔物研究もこなす学者だぜ」
私は起き上がる。
「えっと、つまりビッグベアの弱点を探すんですか?」
「弱点もそうだけど、行動パターンを読むって感じかな。獣だからね。行動に一定のパターンがあるはずだ」
その言葉に私は首を傾げる。
「はず? クラビスさん、ビッグベアを倒したんじゃないですか?」
「倒したよ。でも僕、倒すのに苦労した記憶が無くてね。普通に倒せたから」
「あぁ……なるほど」
クラビスさんがレベル九九の冒険者とするなら、私はレベル一五でレベル二五のボスに挑む駆け出し冒険者と言ったところだろうか。なんだろう、この低レベル縛りプレイ感。 私もレベルを上げて、物理で殴りたい。
「というわけでちょっとビッグベアのところに行こう」
「一緒にですか?」
「僕は見てるだけだよ。手わ出さない」
「わかりました」
二人で、第四の試練に向かう。
ビッグベアは相も変わらず吠えていた。
「わー、元気そう」
「それじゃ、行っておいで。強化が切れるまで走り回ってくれ、僕は観察してるから」
「す、スパルタだぁ!」
私は泣きながら式を組んで肉体強化を行った。一番最初の時よりはビッグベアの動きに付いていける。正直、悪くないんじゃないのかと思った。離れた場所にいると、氷を吐いて来て、近寄ると爪の攻撃が来た。逃げるだけで良いと言われたが、試しに私は火の魔法でビッグベアを何度か攻撃してみた。その最中に気付いたのだが、ビッグベアは首に付いた首輪を攻撃すると痺れてしばらく動けなくなった。どういう仕組なのかわからないが、アレが縛る働きをしてくれるらしい。
肉体強化が切れた後は、早足で部屋から出た。途中、疲労で膝からくずれ落ちた私をクラビスが背中にかついでくれる。
「どうだった、二回目の戦いは?」
「思ったよりも、動けました」
「そうだね、僕にもそう見えたよ。それから、良い弱点を見つけられたね」
「はい、あの首輪使えますね」
「けど、火力が強いとコントロールが悪くなるみたいだね」
弱い火の魔法だと当たるのだが、強めの火の魔法だと私の攻撃は当たりずらくなった。特に、ビッグベアは動きが早くてある程度予測して打たなければいけないので難しかった。
「まずはそうだね、戦闘中のコントロール力を上げる訓練をしようか」
「はい……頑張ります」
戦闘面での課題はまだまだ、沢山ありそうだった。
つづく




