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二つ目の試練。私は、水着に着替えてザーザー流れる水を前にして固まっていた。水に入った後は、道なりに進んで一番向こうの場所に行って壁にタッチしなければいけないらしい。
「二つ目の試練はご覧の通り、流れるプールを逆走するわけさ」
クラビスがにこにこしている。
「今は夏だけど、この部屋の水はとんでもく冷たい。普通に入って長時間入っている事なんて不可能だ。だから、火の魔術で身体を強化して体温を上げ続けなくてはいけない」
私は目を瞑って、強化を行った。身体がポカポカする。口には空気の吸えるマスクを付けている。
「水に潜って、長時間強化を行う事で集中力と持続力を付けるテストだね。よし頑張ろうスカーレットちゃん」
「がんばります!」
心を決めて、プールの中に飛び込んだ。 予想より水が冷たい!! 私は更に強化を強めて、身体を温めた。
(ぬぬぬぬ)
水流も強くて、なかなか前に進めない。足を踏ん張りながら、少しずつ前へ行こうとする。
(ぐぐぐぐぐ)
私はその場から微塵も動けていなかった。水流が強すぎて、立っているので精一杯だ。
(うわーー!!)
私は後ろに押し流された。ごぼごぼ口から空気が出る。そんな私をクラビスがすぐに引き上げる。
「ぜーぜー」
危なかった。もう少しで溺れるとこだった。この試練、私を殺しに来てる。
「大丈夫かい?」
「あ、ありがとうございます」
「水流が強いから、筋力自体にも強化を施しておいた方が良いよ」
「そうですね」
再び水の中に入って、今度は足に強化をほどこす。そして一歩前に踏み出す。
(やった!)
どうにか一歩歩けた。少しずつ、一歩一歩前に進んで行く。
どのくらい進んだのかわからないが、私の身体が次第に冷えて来た。強化が解けて来る。私は水面に浮いて、リタイアした。
「あぁ、惜しい。もう少しだったのに」
水から上がって残りを見ると、あと二メートル程だった。
「本当だ!」
「でも魔力は空になっちゃみたいだね。今日はこれでおしまいにしよう」
「はい」
タオルを羽織って、クラビスと遺跡の外に出る。
「ところで、実はこの近くに温泉があるんだ」
「え、本当ですか」
「こっちだよー」
遺跡沿いに歩いて行くと、湯気の立った場所が見えた。
「温泉だ!」
「ここで温まって、ゆっくりしておいで。僕はテントに戻っているね」
クラビスが去って行く。私は水着のまま温泉に浸かった。
「わー気持良いー」
ふーと、息を吐く。全身があたたまる。
『お主は、やはり才能が無いのう』
目の前に突然、ググが現れた。
「わ!」
彼女は宙にぷかぷか浮いている。
『魔力量は申し分無いのに、使い方が下手すぎる』
「そ、そうなの?」
『あぁ、魔力量だけは人並み外れている事を認めよう。けれど、それを使いこなせておらぬ』
彼女は腕を組んで呆れている。
『良いか、適正量を見極めるのだ。常にフルパワーで強化に魔力を注ぎ込むのではない。息切れするであろう』
「う、うん」
進むのに必死で、細かい調節が出来ていないのは事実だった。
「教えてくれてありがとう」
私は貰った装飾品を見る。
「あ、あの。このリボンもありがとう!」
彼女が私をじっと見下ろす。
『妾が手ずから選んだものだ。大事にすると良い』
「うん……」
頷いて、リボンを撫でた。
「ググは未来が視えるんだよね?」
『うむ』
「いつから、その能力に気づいたの?」
『……妾が自分の才能に気づいたのは三才の時だった。妾の祖父が木にのぼろうとした。その時、妾には祖父が木から落ちてしまうのが視えた。だから必死に止めたのだ、木に登らないでくれと。しかし祖父は妾の言葉を聞かずに木に上ってしまった。そして落ちて怪我をした』
彼女は遠くを視る。
『それからだ、妾が未来を視る事を意識し始めたのは。両親や村の人間も妾の力に気づいて、認めてくれるようになった。そして、より多くのものを救う為に妾は国に召し抱えられた』
彼女は自分の服を見る。
『妾の仕事は未来を視る事だった。けれど、未来と言うのは視た時点で無数に未来が別れてゆく。おまえの連れの男が言っていたように、妾は不幸を避けた後の不幸を見ながら選択していくしかなかった。例えば、子どもが穴に落ちて怪我をする未来が視えたとしよう。しかし子どもはそこで穴に落ちなければ、その先の川で溺れ死んでいた……。不幸中の幸いという出来事が、世の中には沢山ある……』
彼女は体育座りになる。
「ググは、自分の人生も全部視えたの?」
『視えたとも』
彼女はどこか寂しそうに笑みを浮かべる。
『年があがる事に妾は、はっきりとあらゆる未来が視えるようになった。もちろん視ないようにする事もできた。けれど、未来の枝葉末節を見れば視る程感謝はされなくなっていった。なにしろ、妾は時に不幸な未来も肯定する』
「でも、それは必要な事だから」
『そうは言っても理解してくれる人間は少なかった』
彼女は遺跡を見た。
『あの遺跡の最初にあった宝物庫は妾が趣味で作っ物だ。未来が視えるのなら、ここを訪れる人物に適した贈り物をしようと思った。少しでも良い未来を掴めるようにな……』
「そう……だったんでですか」
私は髪に結んだリボンを撫でる。
「ググさんは間違っていなかったと思います」
ググがスカーレットを見下ろす。
彼女は笑みを浮かべて、消えた。
つづく




