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次の日も仕事に行く。
「今日は工房で作業するぞ」
ザウルさんが白衣を着ていた。昨日採取した水や薬草を作業台に置く。昨日は三種類の薬草をそれぞれ五〇本ずつ計一五〇本を採取してきていた。
「まずは、試験管の中に薬草を入れていく」
作業台の上にずらりと並んだ試験管に一本ずつ薬草を入れる。ザウルさんは、その試験管に昨日湧き水で採取した水を入れる。一五〇本その作業を繰り返す。
「これから言う事を、このラベルに書いて試験管に貼れ。まずは、日光」
私は手渡されたラベルに万年筆で字を書く。千切って瓶に貼る。
「次は暗闇」
同じように書いて貼る。
「次はツノウサギの毛」
「……いろいろな条件を付けて薬草の様子を見るんですか?」
「そうだ、確かな情報を書かなければ行けないからな」
なかなか気の遠くなる作業だ。
ラベルを書いて、それぞれの瓶を対応する場所に置いたり物質を加えた後に作業は終わった。丁度よくラスカーが入って来る。
「ただいま先生。スカーレットもお疲れさん」
彼は片手にツノウサギを持っていた。
「良い食材が手に入ったから、すぐに飯を作るぞ」
ラスカーさんはそう言って引っ込んだ。以前は逃したツノウサギ。今度は食べる分だから殺したのだろう。かわいそうだと思うが、私達が生きるには仕方のない事だ。しかし、フランが同じように村人に殺されて食べられる姿は想像したくなかった。
「ラスカーが来るまで少し話しをしてやろう」
ザウルさんが目を揉みながら椅子に座る。目薬を一滴さす。この間教えて貰った、イアマの目薬だろうか。
「君はコノート学園に通っているんだったな」
「はい、そうですよ。まだ一年生です」
「そうか、将来どんな道に進むのか決めているのか?」
私はその問いに黙った。恥ずかしながら、未だに私は決めていなかった。
「すいません。私はまだ決めていなんです」
「……老婆心から一つ忠告させて貰う」
彼は一口、冷めた紅茶を飲む。
「コノート国は建国からまだあまり経っていない国だ」
コノートは建国してから三百年以上経っている。国としては、けして短い方では無い。しかしこの世界の歴史を学ぶ上で、スカーレットは他の大陸にもっと長く続く国があった事を知っている。
「世界は今、休戦状態にある。好戦的なイローナ国が滅んでから、大きな戦争は起きていない」
ただし、アブト大陸内部での内戦は相変わらず続いているらしい。あくまで他の大陸同士の戦争の話しだ。
「しかし国は警戒しているんだ。いずれ戦争を仕掛けられた時の為に防衛する術をこの国は常に探している」
長く戦争は無かったが、いつまでもその平和が続くとは限らない。
「わしがコノート大学から籍を抜いたのは兵器開発に関わるのが嫌だったからだ」
「兵器……」
「薬草には毒物も多い、彼らはわしの知恵を欲しがった。だがわしはそんな事の為に研究をしているのでは無いのでな」
ザウルさんは肩をすくめる。
「大学に行けば嫌でもこの話しは耳に入れるだろう。一応ワシは忠告したからな」
スカーレットは頷いた。まだ大学に行くかわからないが、心に留めておこう。
扉をノックする音が聞こえる。開けると、ラスカーさんが入って来る。
「ほい、照り焼きピラフだぞ」
美味しそうに焼けたうさぎ肉は良い匂いがした。ザウルさんがスプーンを受け取って食べる。
「うむ、うまい」
「そりゃ良かった」
私も食べる。
「美味しい!」
寮の料理も美味しいのだが、ラスカーさんの料理はシンプルながら毎度とても美味しいのだ。
「うまいだろ。この男は傭兵家業をしながらレストランのヘルプにも入る男だからな」
何故かザウルさんが胸を張って自慢してくれた。
「そう言えば、お二人はどうやって出会ったんですか?」
ただ凱旋で仕事を紹介して貰う仲だとしても、隣同士に住む事になるきっかけはなんだったのだろうか。
「うーん、わしらか、まぁちょっとした縁でな。山でこいつが倒れてたんで、手当をしてやったんだ」
「へー!」
命の恩人って奴なのか。
「そうそう。俺はその時、毒消しが足りなくてね。まぁ無理すれば帰れない事も無かったんだが、通りすがりのこの人が毒消しを分けてくれたんだ。研究用に採った奴を渋々な」
ラスカーはにっと笑う。
「おまえに使った毒消しは特殊な実験を行って採取したものだったから、手間がかかっていたんだぞ…満月の夜に毎晩聖水を捧げて一年育てたものだったのに……はぁ」
「手当してる時もこんな具合だったから、この人が何やってる人なのか気になってな。それで、礼も兼ねて仕事を手伝い始めたんだ。まさか、こんな長い付き合いになるとは思っていなかったけどな」
ラスカーさんが、ガハハと笑う。
「いつから隣同士に住んでるんですか?」
「何度か仕事を手伝って貰った後に、こいつが街では安宿暮らしをしていると聞いてな。なら、この先も助手をする気があるなら隣の空き家を貸してやると言ったんだ。元はワシの住居用に購入したんだが、この通りワシの生活は工房で事足りたのでな」
ザウルさんは、たまに工房でご飯を作ったりしてしまう人だった。
「へーなるほど」
仕事仲間であり、友人である二人の関係が私は羨ましかった。
つづく




