23
「思ったより型を覚えるのが早かったな。寮でも練習していたのか?」
見学していたザウルが尋ねる。
「はい。自分の命を守る為に必要な事ですし」
「うん、いい心がけだ。その調子で訓練を続けるように」
ラスカーがにかっと笑う。
「じゃあ、今日は早速採取の方に行ってみるかな。なに、コノートから一番近い森に行くだけだ。あの辺なら大して強い敵も出ない」
ザウルが立ち上がって、工房に戻る。
「そうだ、プロテクターを用意していたんだった」
ラスカーも隣の家に入って行く。
「そら、付けてみろ」
渡されたプロテクターを左胸に付ける。ファンタジーキャラクーとかでよく見る、心臓だけを守る防具だ。
「よし行くぞ」
ザウルさんが、マントを羽織って出てきた。まるで古めかしい魔法使いのようだ。右手には杖まで持っている。
「おぬしはこれを持て」
手渡された横かけの鞄は思いの他軽い。
「風の祝福がかかった鞄だ。中に入れた物は重さを感じ無くなる」
この世界の魔術事情は目にする度に驚きがある。私は二人の後に着いて行って、門の前へ行く。
「身分証は持っているな」
「はい」
門を通る時は身分証がいる。これは入学が決まった時に学校から送られて来たものだった。自分の身分を証明する大事なものなので、基本的に肌身離さず持っている。スカーレットの場合は、それは青色の石が埋め込まれた腕輪だった。学校の生徒達には、同じ装飾品が配られていた。
門を通って国の外に出る。外に出るのは本当に久しぶりだった。
「国の近くは騎士団が定期的に巡回しているから、殆どモンスターは出ない。まぁ、しかし気は抜くなよ」
ラスカーの言葉に頷く。
「遠い場所なら馬車を使うんだが、今日は歩いても一時間かからない場所だ」
ザウルさんが先にズンズン歩いて行く。今日は日差しが強く暑い日だった。
「!」
突如私達の前に何かが飛び出して来た。角の生えたうさぎだ。
「トウツだ!」
ラスカーが腰の袋から石を取り出して投げた。しかし、石は突然火花を散らす。しかし音と見た目が派手なだけで、攻撃力は無い。驚いたトウツというモンスターは、跳ねて逃げて行った。私はオスカーの方を見る。
「どうして、殺さなかったのか不思議か?」
私は頷く。
「この国の周りでは無駄な殺生は厳禁なんだ。食う為になら殺して良いが、特に理由が無いのならこうして閃光石で脅かして散らすのが普通だ」
ラスカーが石の入った袋を手で軽く叩く。
「まぁ、命の危険がある奴は間髪入れずに殺すけどな」
「そうなんですか」
「いたずらにモンスターを殺すと生態系が崩れるんだ。近辺のモンスターを殺したら、より強いモンスターが町の周辺に現れるようになったという話しがある。何事もバランスは大事だ」
スカーレットは頷いた。
一時間と少し歩くと、森へとたどり着く。そこは、人の手が加えられた森だった。鬱蒼としていないのだ。森の中に人の道もある。
「目的地はここの少し奧にある。歩いて三十分程だ」
私達は再び歩き始めた。獣道では無いので歩きやすい。森への探索が初めての私の為に、ザウルさんが気を使ってくれたのだと思う。森の中だと日差しもいくらかましになる。
「ついたぞ」
緊張していたせいか、三十分の道のりのもあっという間に着いてしまう。私達がやって来たのは森の奧に小さな湧き水の湧く場所だった。ザウルさんがマントの中から道具を出す。暗いマントの中は見えないのだが、まるで四次元ポケットのようにいろいろなものが出て来る。そういう魔道具なのだろうか。
マントの中から大きな皮袋を取り出した。
「スカーレット、この袋の中に水を入れてくれ」
スカーレットは革袋を受けとけって、湧き水を入れる。
「ザウルさんの研究対象って薬草じゃないんですか?」
「そうだとも。今やっているのは、この湧き水が薬草に及ぼす影響を調べる為の採取だ」
「へー」
ザウルは周りに生えている草達を眺めて、目ぼしいものが見つかれば採取していく。ラスカーは辺りを伺って魔物が出て来ないか警戒した。革袋がいっぱいになった。
「ありがとう」
ザウルさんは、重い革袋をマントの中に入れる。やっぱりあのマント、四次元マントなのだ。
「これは、魔法のかけられたマントだ。マントの中に仕舞ったものは、好きに取り出す事が出来る」
「便利ですね」
「買うと平民の生活費一生分ぐらいだよ」
ラスカーが教えてくれた。
「ひょえ」
スカーレットとはしばらく縁の無さそうなマジックアイテムである。
「スカーレット、この草を見たまえ」
指さされた草を見る。村でもよく見た事のある雑草だった。
「これはイアマという薬草だ。煮詰めてエキスを取り出すと、目の疲れが取れる目薬になる」
「へー目薬!」
この世界にも、目薬があるのか。
「それから、これは甘いので甘味料にも使われる」
「本当ですか?」
スカーレットはイアマの葉を千切って口に入れて噛んだ。
「本当だ、甘い」
サトウキビを思い出す甘さだった。
「そっちの草は、染料に使われる草だ。良い青色がとれる」
指さされた草は白い花を付けていた。
「これが青色になるんですか?」
「煮詰めると色が変わるんだ。これは、昔薬学の研究をしていた学者が偶然発見したらしい」
「なるほど、研究の副産物ですね」
「そうだ」
「ザウルもたまに妙な発見をするぞ」
「どんな発見ですか?」
「切ろうとしたら突然歌いだした花があった」
「歌?」
「妙な草だろ? そいつは歌うだけで特に攻撃はして来なかったんだ。魔物か植物なのか判断に困ったザウルは、一月間その花の場所に通って観察した」
「それで?」
「一月後に花は枯れた、それ以降歌う花は現れなかった」
「えー謎なままじゃないですか」
「いや、この話しには続きがあってな、実はその花は妖精の植物だったんだ」
「妖精の植物?」
ザウルが咳払いする。
「この世界に妖精がいる事は、知っているな」
「はい……」
しかし、本当にいるのかわからない曖昧な存在として扱われていた。
「彼らは時に、種を運んで彼らの土地に住む植物を我々の領域に咲かせる事がある。私が見たのは、その植物だったらしい」
「へー、凄い発見じゃないですか。でもよく妖精の植物だってわかりましたね」
「そりゃあ数日後に、妖精が訪ねて来たからな『自分達の植物を大事にしてくれてありがとうって』。お礼の木の実が窓辺に置かれていたそうだ」
ラスカーがにっと笑う。
「この世界で、妖精に会った人間なんてレア中のレアだと思うぞ。な、ザウルは凄いだろ?」
「確かに、それは凄いですね」
私もいつか妖精に会ってみたいものだ。
「ほら、無駄話しをしてないで仕事するぞ」
ザウルさんは作業に戻った。
山の中を歩いて、私達は採取を行った。ラスカーは魔物への警戒。ザウルは、私に指示を出して薬草を一緒に探させた。研究の為に沢山欲しいらしい。一日草むらをかきわけて薬草を探してわかったが、コレは確かに助手が必要な作業である。
無事に仕事を終えて私達は工房に帰った。
「お疲れさん」
「まぁ、そこそこ使えたな」
「それは良かったです……」
初めての外での仕事に緊張していた私は胸を撫で下ろした。
「では、引き続き明日も頼むぞ」
「はい!」
私は頷いて寮に帰った。
寮に帰って夕飯を食べているとアイリスが声をかけて来る。後ろにギネもいた。
「隣良いか?」
スカーレットが頷くと、二人が前の席に座った。
「仕事どうだった?」
アイリスがパンを千切りながら尋ねる。
「緊張したけど、とりあえず大丈夫だったよ」
私は笑みを浮かべた。
「そっかー、良かったな」
アイリスがシチューを食べながら笑う。
「本当に良かったですね」
ギネは夕飯ではなくデザートを食べていた。ピンク色のゼリーをすくって口に運ぶ。
「二人も仕事?」
「おうさ。おれは、親父の仕事の手伝いしてた。つっても彫るのはやらせて貰えないけどな」
そう言いながらも、彼女の目は輝いている。父の仕事を見るのは一番勉強になるようだ。
「私は高級レストランのウェイトレスをして来ました。帰りにまかないをいただいてとっても美味しかったです」
「良いな~」
この世界の高級レストランってどんな料理が並ぶのだろうか。
「おれなんか、家に帰ると絶対親父に飯を作らさられるんだぜ。おれあんまり料理得意じゃねぇのによ」
彼女は大盛りによそっていたシチューを食べ終わる。隣の皿にはパンが五つ盛られている。
「私もあんまり料理得意じゃないんだよね……」
「あら、料理なんて回数をこなせば自然とうまくなりますよ」
「それもそうだね……」
しかし、何事にも向き不向きがあると思うのだ。
「それに後期では、女の子は料理の授業もあるそうですよ」
「げっ、聞いてない」
「まじかよ」
私はアイリスと顔を見合わせた。ちょっとだけ憂鬱なため息をついてしまった。
つづく




