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寮に帰って夕飯を食べる。ほとんど人がいない寮でも、夕飯を作ってくれる料理人さんが来てくれるのでありがたい。ちなみに夕飯にはいつもデザートが追加で付いて来た。今日はココアのシフォンケーキである。
「ね、隣良い?」
夕飯のスープを飲んでいると、知らない少女に声をかけられる。本当に知らない。同じ一年生でも三百人以上いるので把握は難しい。
「私はギネ。ブロッサム組よ」
ブロッサム組ならオリバーと一緒だ。
「スカーレットです。隣どうぞ」
彼女が隣に座る。
「家には帰らないの?」
パンをちぎりながら彼女が首を傾げる。
「あ、はい。家まで遠いし、お金も勿体無いので」
以前はオリバーの馬車に乗せて貰ったのだが、今回オリバーは別の町に仕事の手伝いで着いて行くので村には帰らないらしい。
「そう……どの村の出身なの?」
「ルルス村です」
「……ごめんなさい、聞いた事ないわ。私は北の出身なの、他の地方に疎くて」
私達の住んでいる大陸は『エルナ大陸』と呼ばれている。コノート国は大陸の丁度真ん中にありルルス村は南の方にある。北からやって来た彼女が小さな村の名前を知らないのは当然だ。
「うんうん、大丈夫。私も他の地方の事はまだ全然わからなくて勉強中なの」
「……ありがとう」
「それで、できればあなたの村について教えて貰えるかな。北の方の生活って想像がつかなくて」
「そうね……私も中央に来て驚いた事ばかりだったわ」
彼女は少し考えるように下を見る。
「私の村、カリナでは一年の半分以上雪が積もっているの。冬の時期なんて全く身動き取れない程、積もって、とても寒いわ」
彼女の髪は白かった。スカーレットの髪も白いのだが、彼女のは少しだけ薄紫が混ざったような綺麗な色をしていた。肌も白く、目の色素も薄くよく見ればそちらも少しだけ薄紫色をしていた。なんとも儚い雰囲気の少女である。彼女のかけた眼鏡が、つややかに光る。
「でも、白い雪景色はとても綺麗なの。一人で静かな雪の世界を見ていると、凄く不思議な気分になるわ。まるで自分がこの世界と一体化しているような気持ちよ」
ルルス村でも雪は降ったが、厚く積もる程では無かった。
「それから、外が寒い分家の中がとっても暖かいの。外に出られない日は、暖炉の前に集まってみんなで内職をやったりカードゲームをやったりして過ごすのよ。私、あの時間がとても好きだった」
ギネが穏やかに笑う。
「仲のいい家族なんだね」
「そうね。父も母もとても優しいわ。三才の妹もとってもかわいいし、姉さんもとても元気が良くて大好きなの」
暖かい家庭の様子が見えるようだった。
「どうして実家に帰らなかったの?」
「……あなたと同じ理由よ。私の家、あまり裕福ではないの。奨学金も貰っているけど殆ど仕送りしてるから、家に帰るには足りないの」
「そう……」
それぞれの家庭にいろいろな事情がある。
「夏の間はいっぱいアルバイトしようと思っているの。そしたら、冬のお休みには家に帰れるかと思って」
ギネがそう言って笑う。
「なんのアルバイトするの?」
「昨日はね、朝からパン屋さんでパンをこねたわ。それから昼過ぎは花屋でブーケを作った。夜は居酒屋で働いてる」
大忙しである。ちなみにこの国ではまだ微妙に子供の人権というのが認められていない。親も他の大人達も、子供を労働力として見ている割合が多い。なので、子供が夜働いても規制がかかる事もない。
「大変だね」
「そんな事ないわ。村にいた時もこれくらいやってたし、いろいろ経験を積んでいたおかげで今はすぐにどのアルバイトに入っても働けるの。慣れって大事ね」
ギネが明るく笑う。
「スカーレットもアルバイトしてるんでしょ? アイリスから聞いたわ」
彼女がスカーレットに興味を持ったのは、アイリス経由だったらしい。
「うん。まだ、訓練中だけどね」
「学者様のお手伝いよね。大変じゃない?」
スカーレットは頬を掻く。
「いや、まだ全然手伝えてないから、なんとも……」
毎日護身術の稽古をしていた。
「そう、それじゃ本格的にお仕事が始まったらまたお話しましょう」
「うん、その時はよろしくね」
ギネと別れてスカーレットは、ザウルの工房に向かう。
カリナが声をかけて来たのは、寮生でアルバイトしている子が珍しかったかららしい。この世界は、男尊女卑の世界なので全体的に見てコノート学園の入学生の男女比は7:3だった。圧倒的に女の子が少ないのである。
村で見ていて思ったのだが、この国では学問面で女性の社会進出率は低いのである。学校の先生も全員男性だった。おそらく、仕事を決める際にも性別を理由に不当な差別を受けるのだろう。
「でも、覚悟は決めないとね」
どんな差別を受けたとしても、スカーレットは幸せになる為の努力をやめはしない。
つづく




