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19

 朝、起きると外はごろごろと雷の音がして暗かった。最近、雨の日が多いのだ。洗面所でリヴィアと一緒に髪を整える。彼女は、今日も髪と悪戦苦闘している。

「リヴィアはどうして、髪を縦ロールにしたいの?」

「え、それは。その方が淑女として品があるってお母様が言っているから……」

 生前の私の同級生にも、母親の言葉に縛られている子は沢山いた。

「リヴィアはせっかく綺麗なストレートの髪なんだから、くるくるさせない方がかわいいんじゃないかな……」

 一応、友人として意見を伝えておこう。リヴィアの元の髪は全く癖っ毛の無い、綺麗なストレートなのだ。

「そう、かしら……」

「試しに今日はストレートでいてみたら?」

 リヴィアは悩んだ後にアイロンを置く。

「そうね。たまにはそんな日も良いかもしれないわ」

 彼女はハーフアップで髪を結んで、白いリボンを付けた。

「どうかしら」

「うん、かわいいと思うよ」

 二人は下に降りて朝食を食べた。食べていると、前の席にローガンとオリバーが座る。

「おはよう」

「おはよう二人とも」

 ローガンがリヴィアを見る。

「あれ、今日はいつものくるくるじゃないんだね」

「変かしら」

 リヴィアは、まだ少し恥ずかしいようだ。

「うんうん、そっちも良いと思うよ」

「本当? 嬉しいわ」

 ローガンとリヴィアって、5~6歳からのお付き合いらしい。昔から知っている幼馴染の言葉にリヴィアは勇気付けられたようで安心している。実際、彼女はストレートの方が似合っていた。

 ちなみに、オリバーはリヴィアを見てからずっとぽーっと顔を赤くしていたので感想を求める必要が無かった。

 

 学校に行くと、数人の子がリヴィアの事を見る。

「リヴィア、ヘアアレンジ変えた?」

「えぇ、たまには気分を変えてみたの!」

「とってもかわいいよ!」

 離れたグループからわざわざ声をかけてくれた子がいる。彼女の名前はアイリス。だんだんとクラス内のグループや立場が出来て来た中で、目立った子の一人だった。男女どちらのグループにもよく混ざっていてみんなを引っ張って行くリーダーのような存在だった。以前のようにスカーレットを虐める子はいない。貴族の子達の中には、平民の子と会話もしない子もいるけど、おおよそは心地よいクラスだった。顔見知りになってから挨拶すると、挨拶を返してくれる。

「リヴィアの言う通り、私はストレートの方が似合うのかもしれないわ。今度、家に帰ったらお母様にこのままで良いか聞いてみますわ」

 彼女は嬉しそうに笑った。

 

 学校から出ると、空が晴れていた。久々に太陽を見た気がする。

「ねぇ、お二人さん。一緒にクレープ食べに行かない?」

 振り返ると、アイリスが後ろに立っていた。

「え、いいの?」

「まぁ、喜んでご一緒しますわ」    

 スカーレットは少し緊張しながら、彼女の誘いにのった。

 三人は水たまりを避けて歩きつつ、クレープ屋を目指す。

「雨が降った日はね、クレープ屋が安くなるのよ」

「そうなの?」

「そうなの! 半額になっちゃうの」

「すごい」

 それは格安だ。てこてこ歩いてクレープ屋に着く。

「おれはチョコバナナクレープにする。これ一番好きなんだ」

「私はベリーアイスにします」

「じゃあ私はバニラマンゴーにしよう」

 いつも違う味を頼むスカーレットはこのクレープ屋のメニューをいずれ制覇しようと思っていた。クレープを受け取って席に座る。

「スカーレットは、ルルス村出身なんだよね」

 彼女とはあまり話した事が無かったのだが、スカーレットの出身地を知っていて驚いた。

「そうだよ」

「あそこはね。麦が名産だよね」 

 あまり考えた事が無かったが、確かに村の四方には麦畑が広がっていて麦農家が多かったように思う。

「リヴィアは、キルシュ家の御息女だよね」

「そうですわ」

 彼女はもぐもぐチョコバナナクレープを食べる。

「おれもね、この街出身なんだ」

「コノートの生まれなんだ!」

「そうそう。生まれも育ちもコノートで育ったの。まぁ、と言っても下町なんだけどね」

 コノートの国の中にも身分差はある。城下付近には貴族の家が多く、町の外側に近いところに平民が住んでいる。外側に近い程、土地は安く治安も悪くなるらしい。更に東・西・南・北で治安の悪さにも差がある。

「おれはオーベール地区の生まれなんだ!」

 東北に位置するその場所は、けして一人では行くなとオリバーに以前教えられた場所だった。その場所での犯罪率が一番高いらしい。

「それで、父親は彫師をしてるんだよ。ほら」

 彼女は服をめくって二の腕を見せた。小さなハート型の模様が描かれている。

「まぁ、綺麗な模様ですわね」

「お父さんにやって貰ったの?」

「もちろん! うちのパパは凄く腕が良いって評判なんだ。これはね、加護のタトゥー。おれが小さい時にパパが描いてくれたんだ。大きい奴は大人になってから、入れて貰うの」

 彼女は嬉しそうに、そう言った。

「タトゥーって、加護の効果があるの?」

「そうだよ。初めて見た?」

「うん」

 小さなタトゥーは、確かに暖かい魔力を帯びている。アイリスのパパが娘の為を思って、丁寧に彫ったのだろう。

「タトゥーにもいろいろ種類があってさ、魔力の最大値を上げたい魔術師なんかが大掛かりなのを入れに来たりするよ。あと、もちろん物理的な攻撃力を上げたい奴とかね」

 この国では、服を脱いだらタトゥーがある人が多いのかもしれない。

「おれのこれは、不幸を遠のかせる効果がある」

 運を左右するタトゥーなんてのもあるのか。

「凄い、技術だね」

「そうさ。この模様が大事なのはもちろんだけど、腕の良い彫師は掘る人間の皮膚の下に流れる魔力の流れを視て彫るんだ。魔力の流れを視て描かれたタトゥーは、大きな力が宿る。うちのパパの目と技術は一級品なんだ!」

 父親の話しをするアイリスは嬉しそうだ。

「アイリスも将来、彫師になるの?」

「えへへへ、うん。そのつもりなんだ」

 彼女は顔を赤くして頭を掻く。この子もまた、将来を決めた女の子だった。

「ただ彫師になるってだけなら学校なんて行く必要無いんだけどさ、魔力の流れがちゃんと読める一級の彫師になるにはやっぱり学校での勉強が必要なんだってパパが言ってた」

 確かに何事も基礎はあった方が良い。

「なんか、おれの話しばっかりしちゃったな。二人の話しも聞かせてくれよ」

 彼女は顔を赤くしてそう言った。そうして三人は、しばらく楽しく話しをするのだった。


 寮に帰ってから、隣のベッドにアイリスが来る。

「交換して貰ったんだ」

 彼女は目をキラキラさせて笑った。

「お隣さん、よろしく」

「よろしくお願いしますね」

 リヴィアとスカーレットは、新しい隣人に笑みを返した。


つづく



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