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 テスト期間も終わって、だいぶ学園生活にも慣れて来た。スカーレットは時間を作っては、一人街中を見て回るようになった。美味しいケーキ屋さんも、古めかしい本屋さんも、かわいいアクセサリー屋さんも見ていて飽きない。ルルス村とは規模の違うこの街には、何件も同じ系統のお店があってしのぎを削っていた。複数あるケーキ屋さんは、それぞれが得意分野も持って店をやっていた。スカーレットはその中の店の一つに入って。噂のお美味しいシュークリ―ムを一つ買った。紙袋を受け取って、軽い足取りで街を歩く。そして寮への帰り道、大通りから見える路地裏に見知った人がいたように思って足を止めた。

「あれ?」

 他人の空似かと思ったけど、随分よく似ていた。スカーレットは路地裏に入って、その人の後を追う。奧に入ると、人の騒がしい声が遠のいて行く。二つ角を曲がった後に、ベルの音と、ドアの閉まる音がした。寂れたビルに、地下に続く階段が見える。看板が出ていて、そこが喫茶店だとわかった。スカーレットはしばし、その店を見下ろす。

「やっぱり気のせいかな」

 少し悩んでから引き返した。危ない事には首を突っ込むべきじゃない。しかし、振り向いたスカーレットの後ろには大きな男が二人立っていた。

「どうした嬢ちゃん、入らないのか」

「あ、えっと……」

 人間ってこういう時、すぐには身体が動かないものだ。

「ほら遠慮せず入りな」

 スカーレットは男達に腕を引かれて店内に入った。店の中は全体的に落ち着いた色合いの喫茶店だった。古く質の良い調度品が目につく。

「いらっしゃい、あれ、どうしたのその子」

 黒いリボンタイを付けて右目に眼帯を付けたマスターがグラスを拭きながら首を傾げる。

「店の前で立ち往生してたから連れて来た」

「ここに座りな」

 大きな男の人は片方が金髪をして、もう片方は銀髪だった。双子みたいに、よく似ている気がする。けけど話すのは金髪の男性だけで、銀髪の男性はにこにこしたままずっと黙っていた。

「この店に来るなんてお嬢ちゃん通だね。お目当ては、アレだね」

「えっと、アレってなんですか」

 ダメだやっぱり怪しい店に入って来てしまった。

「そんなのもちろん決まっている、当店オリジナルメニューのイチゴパフェだ!!」 

「へ」

 スカーレットは間抜けな声を出した。イチゴパフェって何かの隠語だろうか。

「すぐ作ってあげるか待ってなよ」

 マスターが後ろの棚からパフェグラスを取って、冷蔵庫から切ったイチゴをグラスの底にたっぷり入れる。上にヨーグルトをかけて、その上に赤いイチゴシロップをかけ、再びヨーグルをかけて地層化する。更に丸いバニラアイスが乗って、グラスのフチからはみ出すように、綺麗にイチゴが並べられ最後にクリームホイップでかわいいデコレーションがなされた。そしてスカーレットの前に差し出される。

「はい、どーぞ」

 どう見てもただのイチゴパフェです。みんなの視線を一身に受けながら、スカーレットはパフェスプーンを手にしてクリームとイチゴをすくって食べた。

「!」

 ただのイチゴパフェじゃない。ものすごく美味しいイチゴパフェでした。ふわふわのクリームが口の中でとろけ、甘酸っぱいいちごの味が口の中で広がる。そして私の胃の中に落ちた後に、身体の魔力が湧きたつ。

「どうだい、うちの新メニューのイチゴパフェは。このイチゴは魔力の濃い土地で育てられたものだ。ヨーグルトの原材料である牛乳を出した牛も同じ土地で作られている。おまけにこのイチゴソースは、オレお手製の魔力調合がなされている! この完璧なイチゴパフェがたったの1200ギル! お得だろ?」

 眼帯で少し強面のマスターがにこにこ笑っている。まぁ、ちょっと値段が高いけど手間暇かかけてこの値段なら良いメニューなじゃなかろうか。というか、さっきから身体の魔力が元気満々なんですけどコレ本当に食べて大丈夫なものだったのかな。

「どうした嬢ちゃん。もしかして、マジック料理は初めてだったか」

 金髪の大男を見る。

「マジック料理なんて初めて聞きました」

「おぉ、まじか。マジック料理は、食べると魔法の効能が得られる良い料理だ」

「そうなんですか。ちなみにこのパフェの効果ってなんですか?」

「MPアップだよ。食べると、最大の魔力値が一時的に上がると言われている」 

 マスターが説明を引き継ぐ。

「永続的なものでは無いんですね」

「ん、一応効果が切れた後も少しは最大魔力値が伸びる場合もあるらしいよ。正確なところは知らないんだけどね。しかし、毎日魔力がたっぷり含まれたにわとりの卵を食べた男は後に有名な魔術師になったという話しもある」

「そうなんですか」

 でも、この料理高いし継続して食べれるのは余程裕福な人間か、偶然魔力の濃い土地で生まれた人間だけだろう。

「世界の外れの森には、魔力の濃い土地があり、そこで生まれ育った村人は皆が一様に強い魔法を使うのだと聞いた事があるよ」

 店の奥の黒いカーテンを開いて、店の奧から見知った人物が出て来た。

「クラビス!?」 

「やぁやぁ、こんなところで会うなんて奇遇だね」

 私達がルルス村を出た後、彼も村を出て再び放浪の旅に出たと聞いていたけれど、まさかコノートに来ているとは思わなかった。

「おや、クラビスの知り合いかい」

「へ~顔が広いなおまえも」

「ルルス村にいる時に会ったんだ」

 大きな箱を抱えたクラビスがスカーレットの隣に座る。マスターがすぐに、彼の前に赤色の飲物を出す。常連さんらしい。

「いつ、コノートに来たんですか?」

「さっきだよ」

 彼がウインクする。

「クラビスは神出鬼没なんだ。あっちに居たかと思えば、こっちにいる。かと思えばいつの間にかいなくなっている」

 スカーレットはクラビスをじっと見る。

「そいつは根っからの変人だから、あんまり関わらない方がいいぞ」

 マスターから忠告を受ける。

「ははは、いやはや酷いな」

 気にせずクラビスは笑っている。

「届け物は大丈夫か」

「うん、しっかり受け取ったさ」

 クラビスは手に抱えた箱を見下ろす。

「届け物するの?」

「そう、知人に頼まれてね」

 旅をしている事が多いせいか、そういう頼まれ事もするみたいだ。

「何が入ってるんですか?」

 聞いちゃまずいかなぁと思いつつ、好奇心にかられて聞いた。

「見るかい?」

 クラビスは特に気にせず箱を開け始める。巻きつけられたベルトを外し、布を開く。ガラスの入れ物の中に、綺麗な青いバラが咲いていた。

「ブルーローズ…!」

「おや、知ってるんだね」

 少し前に友人達に説明を受けたばかりだった。

「このバラが魔力で咲くのは知ってるかな?」

「はい」

「それじゃ、効能がブルーローズによって違う事は知ってる?」

 スカーレットは首を横に振った。

「ふふっ。ブルーローズは魔力の浸透性が高くてね、それでいて加工しやすい花だ。ブルーローズという大きな魔力を持った花を材料にして、更に手を加えて力の方向性を決めてやるといろいろ便利な花になる」

 スカーレットは首を傾げる。

「つまり、安眠効果抜群なブルーローズもあれば、贈った相手に惚れてもらう惚れ薬効果のあるブルーローズもあるわけさ。面白いだろ」

 なるほど理解できた。

「これは、どんなブルーローズなんですか」

 ガラス瓶の中で神秘的に輝く青いバラを見る。

「これは、安産祈願かな」

「赤ちゃん?」

「そうそう、知人の奥さんがおめでたなんだ。無事に赤ん坊が生まれるように、このバラが力をかしてくれるわけさ」

「へぇ」

 私はまじまじと青いバラを見た。これはどういう職業の人がやっているんだろうか。

「興味があるみたいだね」

「はい」

「ちなみにこれは、誰が加工したかわかるかな?」

 スカーレットは再び首を傾げる。こういう質問するという事は、スカーレットが知っている人物なのだ。しばしの空白の後に驚きで目を見開いた。

「ユーリス先生?」

「あたり。あいつは、調合やマジックアイテムの力の変換が得意な奴なんだ」

 よく薬を作っていたけれど、こんなものもユーリス先生は作っていたのか。

「君がもしもこの分野に興味があるなら、ユーリスに弟子入りしてみるのもありかもね。彼は謙遜するけど、この世界じゃちょっとした一人者だからね」

 そっか、そんな道もあるのか。薬の調剤だけでなく、マジックアイテムの生成。

「面倒見が良いんだなクラビス」

「そりゃ、一度は勉強を見てあげた教え子だからね。先を生きるものとしては、知恵を惜しまないよ。将来を決める為にいろいろ知っておいた方が良いからね」

 以前、私が彼に“コノートで自分の生きる道を見つけたい”と言った事を彼は覚えていてくれたらしい。だから積極的に、いろんなものを見せて教えてくれる。

「ふーんなるほど。スカーレットちゃんは、大人になってからの仕事に悩んでるわけね」

「はい」

 私はマスターを見る。

「マスターはどうして、このお店を開いたんですか?」

「む、大事な質問だね。少し待って考えるから」

 マスターが頬を掻く。

「オレは元々田舎の出でね。たぶん、ルルス村よりもっと小さい村の出だ。そんで、村を飛び出してコノートにやって来たわけだ。最初は右も左もわからなかったが、偶然この店の前の店主に拾われてな。そんで一から仕込んでもらって今じゃ、オレがこの店のマスターってわけだ。別に最初からこういう店を開こうと思ったわけじゃない。ただ、毎日が楽しめる場所にいたかったんだ。そんで、今の現状にオレは満足してる」

 マスターは少し恥ずかしそうに、にっと笑った。

「素敵なお話でした」

 隣に座った金髪の男がスカーレットを見る。

「俺達の話しもしてやろうか、嬢ちゃん」

「俺は孤児でな。気づいたら一人で草原の草を食ってた」

 いきなり壮絶である。

「まぁ、死にたくはねぇから毎日食えるもんを見つけて食う。モンスターに襲われたら倒す。何度も死にかけた事もある。そんで気づいたら仲間が増えていた」

 彼は隣に並んだ銀髪の男を親指で指さす。

「二人で仕事してふらふら生きてて、気づいたらコノートの国にやって来た。ここは仕事が沢山あるからな」

 男はビールを呑む。

「そんで今は嬢ちゃんの隣にいるわけだ」

 男はがははと笑った。彼もその人生に満足しているみたいだった。

「勉強になります」

「そうだろそうだろ」

 男がスカーレットの背中をばしばし叩く。 

「さて、それじゃそろそろ行くかな」

 クラビスが椅子から下りる。パフェを食べ終わったスカーレットもお金を置いて椅子から下りる。

「ごちそうさまでした」

「はいはい、良かったら友達にも紹介しておいてね。裏路地に美味しいパフェの店があるって」

「はい!」 

 スカーレットはクラビスと外に出る。

「なかなか愉快な店だろ」

「そうですね。パフェも美味しかったです」

「常連客は多いんだけど、裏路地のせいか新しい客が来ないのをマスターは気にしているみたいだ」

「それで新メニューにパフェを作ったんですか?」

「うん、若い子達のお客さんをターゲットにしてるみたいだね」

 しかしあの店内、全体的に強面な客が多いので入るのに度胸のいる店だと思った。

「それじゃこの辺で別れよう。気をつけてお帰り」

 大通りまで送って貰って、スカーレットはクラビスに手を振って別れた。

 いろんな人生があるのだと、改めて考えた。そしてどんな場所に置かれても、その人が満足しているのならそれは幸福な事なのだと思った。



つづく



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