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学校内にある図書館は知識の宝庫だった。この世界で生まれて初めて見る図書館。ユーリス先生の家で沢山本を読んでから、私はすっかり生前の活字中毒をぶり返していた、常に読める本を一冊手元に置いておかないと安心出来ない。
「『まことの心』……哲学書かしら、『コノート王物語』面白そうね。『魔術基盤を使った熱装置の開発』やだ、絶対面白い奴だわコレ」
私は次々本を手に取って積んだ。なにしろ、蔵書量は十三万冊である。どんどん読まなければ、在学中に読み終わらない。そして人とぶつかった。
「わっ」
散らばる本。
「ごめんなさい!!」
私は謝って、相手を見た。そこに立っていたのは、担任のライアン先生だった。切れ長の目が怖い。
「いや、俺も悪かった。君が視界に入っていなかったようだ」
ライアン先生は背が高いので、小さい私が視界に入らなくても仕方ない。先生は一緒に本を拾い上げてくれる。
「……ずいぶん、いろんな本を読むんだね。本が好きなのかい?」
「沢山の事が知りたくて……、私まだ自分の行きたい方向が決まっていないので……」
先生は私と視線を合わせて、にこっとわらう。
「勉強熱心なのは良い事だ。ちなみに俺は、魔術装置の基礎基盤研究を主にやっているから、興味があったら研究室に来ると良い」
「はい、その時はよろしくお願いします!」
私は図書館を出て、寮に帰った。
消灯の時間まで本を読む。先生の言っていた魔術基盤の本は、魔法というより科学だった。科学の電子基板の世界である。専門用語と、意味不明な記号の羅列。設計図を見てもチンプンカンプンである。『よく出来た科学は、魔法と見分けがつかない』そんな言葉を思い出した。
次の日の魔術の授業で私は大恥をかいた。風の魔法を使った、竜巻の起こし方の授業だったのだが……私は火以外の魔法が全く使えなかった。認定試験でやるのは、あくまで魔法の出力調整がちゃんと出来ているかのチェックである。私のように火だけしか使えなくても通過出来るのだ。けれど、こういう場所に来ると私のような奴は目立つ。
「本当に火の魔法だけしか使えないのかい? 珍しいね」
力の大小に関わらず普通全部の属性が使えるものなのだ。ライアン先生は口元に手を当てる。
「ふーん。君、少し診て貰った方が良いかもね。大学に人体の魔力の流れに詳しい先生がいるから、今度行こう。良いね?」
私は頷いた。
一週間は七日あり、学校は週五日で休日は二日ある。週休二日って素晴らしいと思いつつ、私はライアン先生に連れられて大学に行った。コノートの国は、十三才~一七才が通うコノート学園と、それより上の年齢の人が通うコノート大学と呼ばれる場所がある。こちらに進む人は、より専門分野を学ぼうとする研究者が多い。
私は先生に連れられて来た大学内をキョロキョロ見渡す。大きな建物に人の気配はない。
「学園と違って、大学に行く人間は少ないんだ。たぶんこの建物内の人間を全部合わせても三〇〇人くらいかな」
意外と大学に所属している人間は少なかった。
「こっちだよ」
先生は箱の中に乗り込んで、金属の板に触れる。もしかしなくても、コレはエレベーターである。この国の技術はかなり進んでいるようだ。箱は滑らかに止まって、先生は再び歩き始める。一つの扉の前に来てノックする。
「イサック教授、失礼します」
返事が聞こえる前にライアン先生は中に入る。中は、恐ろしく汚かった。天井付近まで届く書類と、謎の道具達。その中にある細い通路を通って、ライアン先生は進む。
「ぶつからないように、雪崩が起きたら生き埋めになるぞ」
私は細心の注意を払いながら先生の後を追った。
「教授。連れて来ましたよ」
絵に描いたような魔法使いがそこにはいた。白いヒゲを伸ばして、ちょこんと丸眼鏡をつけている。机に座って、羊皮紙になにやらペンで書いていた。チラリとこちらを見る。
「君か、まぁかけたまえ。もう少しで区切りの良いとこまでいくんじゃ」
かけろと言われても、座る場所は無かった。イサック教授はペンを置いて伸びをする。あの年で長時間の書き物は疲れるだろう。彼は手元に置いた飲物を飲む。茶色い液体の中に乾いたトカゲが入っていたような気がするが、見なかった事にしよう。
「それで、その子が偏った魔法しか使えない子かね」
私は手招きされる。
「口を開けて」
あーと口を開けると、喉の奥を明るい石の付いたライトで照らされる。
「お腹を見せて」
私は戸惑いつつも、服を持ち上げてお腹を見せた。教授がお腹を触る。
「もういいよ」
私は服を戻す。お医者さんの触診みたいだ。
「この子はアレだね。すごく珍しい症例だ。なにしろ、火魔法以外の出力先が全部閉じてる」
「完全にですか?」
「あぁ、完全に。ぴったりくっついてしまって、一生開かんだろうな」
絶望である。私は火魔法しか使えないのだ。
「まぁ、先天的な障害みたいなもんだね。だが、その代わり利点もある。この子、火の魔法の火力がすさまじかろう?」
先生は頷く。生徒達の魔力ステータスは数値化されて先生達にも渡されていた。
「本来は満遍なく分散されるエネルギーが全部火魔法に傾いておるんじゃから、自然そうなる」
教授が私を見る。
「名前はなんと言うんじゃ」
「スカーレットです」
「ふむ、スカーレット。君の身体は健常な人間からしたら、障害のある身体だ。人によっては君の事を不足した人間と捉える事もあるだろう。だが、何か欠ければその分補強するように別の物が強化されるのが自然界の掟じゃ。欠点ではなく、自分の武器をどう活かすか。よく考えてみると良い」
私は頷いた。
「ところで、首から下げているものを見せて貰ってもいいかね」
私は母から貰ったルビーを見せる。
「これはルビーじゃな。ルビーは炎の特性を強化する。良いものだ、大事にしなさい」
「ありがとうございます」
私は礼を行って部屋を出た。廊下を歩いて、エレベーターに乗る。
「これから、スカーレットさんには魔術学の授業では火だけに重点を置いて練習して貰います。それで良いですね」
「はい、ありがとうございます」
柔軟に対応してくれる先生に礼を言った。
火の魔法しか使えないのが完全に確定してしまったけど、それなら火の魔法をとことん極めてやろうと私は心に誓うのだった。
つづく




