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一年間の基礎学科中も、何度もテストはある。どのくらい勉強が理解できているのか生徒達に把握させる為に行うらしい。というわけで、入学後初めてのテスト期間がやって来た。
「緊張しますわ……」
朝ごはんを食べながらリヴィアがため息をつく。
「大丈夫だよ、最初だし先生達も多少は簡単な問題を作ってくれるって」
そう思いたい。
「はぁ、そうだといいですわ。学校の成績は両親にも知らせなければいけないので、憂鬱ですわ」
「確かにそれは憂鬱だね……」
前世で通知表を親に見せる時は凄く緊張したのを思い出す。
「それじゃ、これから毎日放課後は一緒に勉強しようか」
「本当に? 嬉しいわスカーレット。私、一人で勉強しているとだんだんやる気が無くなってしまっていって……」
リヴィアがしょんぼりした顔をする。
「うんうん、わかる。それじゃ、夕飯食べたら一緒にラウンジで勉強しようね」
「えぇ、喜んで」
リヴィアが少しは元気になって安心した。
授業中に聞いたテスト範囲をしっかりメモして、スカーレットはリヴィアと寮に帰った。途中で、ローガンとオリバーに会う。実はリヴィアとは初対面だった。
「やぁスカーレット」
ローガンがそう言いながらリヴィアを見る。
「リヴィアもこんにちは。最近、二人は仲が良いみたいだね」
リヴィアと親しげな様子のローガンに、スカーレットは首を傾げる。
「二人は知り合いだったの?」
「そうだよ。一応、俺も貴族の端くれだからね。パーティで会ったり、避暑地で過ごしたり……まぁ幼馴染みたいなものさ」
「そうだったんだ!」
意外な縁に私は驚いた。
「ローガンとは年が近いんで、昔から仲良くして貰っているの。でもあなたと、ローガンがお友達でびっくりしたわ」
「俺も君とスカーレットが友達になってびっくりしたよ。あぁ、もちろん良い意味でね」
「リヴィア、こっちはオリバー。彼も私の大事な友達なの」
「よろしくねオリバー」
リヴィアがにこっと笑うと、オリバーが顔を赤くした。
「よ、よろしくお願いします……」
オリバー恐縮したように体をちぢめた。
「ところで、二週間後にテストだね。二人は勉強どう?」
寮に歩きながらローガンが話す。
「ローガンも知っての通り私はあまりお勉強が得意じゃないんで、不安ですわ。でも、今日から夜はスカーレットとお勉強する事にしましたの!」
リヴィアは嬉しそうに、そう言う。そんな風に素直に喜ばれると恥ずかしいものだ。
「あ、いいなー。僕達も実は不安なんだ」
「それなら一緒に勉強しませんこと?」
オリバーの言葉にリビィアが微笑む。すると再びオリバーは顔を赤くした。オリバーが女の子慣れしていないのか、それともリヴィアが好みなのか今後の経過を観察したい。
「いいね。それじゃ夜にラウンジで会おう」
ローガンはその提案に同意する。
「わかった、じゃあ夕飯の後に勉強会しよう」
そう言って、私達は一度別れた。
夕飯後にスカーレットとリヴィアは勉強道具を持ってラウンジの椅子に座っていた。まだテスト二週間前なので、勉強している生徒の姿はちらほらとしか見えない。先に座って紅茶とお菓子を用意した。コレはラウンジに無料で置かれているので好きに飲食して良いものだった。
「もう、ウェルズ語の文法が全然わからなくて…困っていますの……」
リヴィアは教科書を広げてうなっている。ウェルズ語と言うのは、コノート国の隣にある大陸にある、ウェルズ国の言葉だった。一般人ならコノート国の言葉だけ覚えれば良いのだが、学園に来る程の生徒達は後に隣国の人間と関わる場合もある。その為に、基礎学科にはウェルズ語の修得が必修として入っていた。とはいえ、一年間で習うのは簡単な基礎文法だけだ。本当に真面目にウェルズ語を学ぶ人は、一年語のカリキュラムで更に専門的な勉強をするらしい。場合によっては留学もするのだとか。
「ウェルズ語って難しいよね……」
言葉と言うのは、本来他者とコミュニケーションをとる道具だ。けれど何故、国同士の言葉が違うのか? それは、結局相手に聞かれたくない事が互いの国にあるからだ。若者が大人達には理解できない言葉を使うのと一緒である。そして、隣国であるウェルズの言葉は、文法からしてコノート国と全く異なるものだった。つまり、本当に難しいのである。
「勉強進んでるかい?」
ローガンとオリバーがやって来る。
「ウェルズ語でつっかえてる」
「あぁ、あの国の言葉って特殊だよね。まぁでも基礎的な文法さえ暗記しちゃえば、どうにかなるよ」
ローガンは平然とそう言った。
「もしかしてローガン、ウェルズ語得意?」
「得意ってほどでもないけど、あんまり大変だとは思わなかったかな」
得意なんだ!
「じゃあ、ウェルズ語はローガン先生に聞こう」
「先生って…」
「あと、数学はオリバー先生が得意だそうです!」
「えっえええ! が、がんばるよ」
オリバーが数学得意なのは事実だった。実は、入試の時の数学問題で彼は満点を取ったらしい。あと凄く暗算が早い。さすが商家の息子。
「まぁ、素晴らしいですわ。私、数学も苦手なんで教えてくださいますか?」
リヴィアが数学の教科書を持って、オリバーの方に近づく。
「ど、どの問題ですか」
「これですわ」
リヴィアの隣で、オリバーは顔を真っ赤にしながら問題の解き方を教えていた。
「スカーレットはなんの勉強するの?」
「私は古典をやろうかと思って」
こっちも言葉の勉強である。ただし、かつてこの世界で使われていたとても古い言葉だ。この国ではなく、この世界なのだ。
「じゃあ僕もそれやろうかな」
ローガンがスカーレットの隣で教科書を開く。しばし、カリカリと響くペンの音。紙も、羽根ペンも買える今はノート代わりにミニ黒板を使う事もなくなった。
「ねぇ、スカーレット。君、花は好きかい」
ローガンがスカーレットに尋ねる。
「好きだよ」
スカーレットは突然の質問に驚きつつ答えた。
「じゃあ、今度テストが終わったら花を見に行かないか。トロッポ公園内にある、バラ園が見頃らしい」
「へぇ、いいね」
ローガンはオリバーとリヴィアを見る。
「二人も行かないかい、薔薇園」
「あら、てっきりデートのお誘いかと思って遠慮しておりましたのよ」
「僕もそうかと思って、静かにしてたよ」
二人は気を使ってくれていたらしい。
「い、いや、そういうつもりは無かったんだけど。せっかく知り合ったんだし、みんなでどこかに行きたいと思ってね」
ローガンって、凄く友達思いなタイプなのだ。
「でしたら、是非ご一緒したいですわ」
「僕も行くよ。あの公園屋台も多いし楽しいよね」
「よし、じゃあ約束だ」
テスト明けの楽しい約束をして、四人は再び黙々と勉強にいそしんだ。
あっと言う間に二週間は経ち、テストの日がやって来た。
「緊張しますわ」
隣の席でリヴィアが何度もそう呟く。
「大丈夫だよ、沢山勉強したでしょ。実力を出しきれば大丈夫!」
「が、がんばりますわ」
リビィアは緊張で実力を出し切れないタイプなのかもしれない。まだ、先生は入って来なかったので隣の席のリヴィアの手を握る。
「大丈夫」
「!」
リビィアがスカーレットを見て、目を見開く。そして顔を赤くした。
「ありがとうスカーレット……勇気が出て来ました」
「うん」
先生が来たので手を離した。隣を見るとリヴィアはまだ、ぽーっと顔を赤くしていた。
テスト頑張って欲しい。
一日目のテストが終了する。スカーレットの結果はまずまずと言うところだ。今のとこ全部の回答欄を埋められた。正解か微妙なところは一割くらいだった。
「リヴィアどうだった?」
寮への帰り道で尋ねると、彼女はぎこちない笑顔を作った。
「少しは書けたと思いますけど……あまり自信はありませんわ」
「そっかあ。でも、明日もあるから大丈夫だよ!」
「あ、明日も頑張りますわ!」
二人でえいえいおーっと腕をあげた。ちなみにラウンジで会った、ローガンとオリバーのテストの手応えはまずますのモノだったらしい。
テスト二日目。詩のテストに私は唸った。テストというか、出されたテーマを元に詩を一つ作るのだがコレが結構難しい。前世で所属していた文芸部では『小説』が専門で、詩はあまり読んだり書いたりしていなかったのだ。私は頭をひねらせながら詩を書いて提出した。詩の本をいろいろ読んで勉強して、沢山練習したつもりだけど、こういう芸術的才能は付け焼き刃ではダメそうだった。
そしてテストは終了した。隣の席でどんより沈むリヴィア。
「だ、大丈夫リヴィア?」
「……だめかもしれませんわ。あぁ……」
リヴィアは物凄く落ち込んでいた。しかし、横でテストを解く彼女は一応答案を全部埋めて提出していた。そんなに落ち込む程、悪い結果では無いと思うのだが。長年試験に落ち続けたせいで、あまり気楽に考えられないなのかもしれない。
「とりあえずテスト終わったし、ケーキでも食べに行こう!!」
「ケーキですか?」
「そうケーキ! トルクのお店のブルーベリーケーキが絶品らしいよ!」
オリバー情報である。
「ブルーベリーケーキ!」
「行くよね?」
「もちろんですわ!」
リヴィアは笑顔で立ち上がった。元気になってくれたみたいで嬉しい。
二日後、テスト結果が学校に張り出された。この学校、全員のテスト順位を廊下に張り出すようだった。ちなみに現在の基礎学科の生徒は、全部で五百人いた。クラスは十一クラスある。そして私の順位は、五十一位である。そこそこ良いとこに入った。
「!」
リヴィアが口元を押さえている。彼女の順位は八十一位だった。
「どうしましょうスカーレット。私、百番以内にいるわ……!!」
リヴィアがスカーレットの手を握ってぶんぶん振る。喜びで泣いている。
「うん、良かったねリヴィア」
喜ぶ彼女を見て、スカーレットも嬉しくなった。ちなみにローガンは三十一位、オリバーは六十二位でした。やっぱりローガン凄く頭良いみたいだ。テスト勉強中も聞くと彼は、実にわかりやすく教えてくれていた。
返ってきた答案用紙を見ると、おおよその教科で満点に近い数字をとっていた。しかし、詩のテストだけは赤点ギリギリだった。
「や、やっぱ詩は難しいよ……」
"もっと情緒溢れる文章を"と書かれたコメントを見て、スカーレットは顔を覆った。
つづく




