14
初めての授業を受ける。全体的な内容が中学レベルになり専門性が上がった分、この世界独特の習わしの要素が増えて来た。数学に難はない。しかし新たに加わった帝王学に眉を寄せた。完全に、軍人向けなのだ。人材を育てると言っていたが、この国まだ戦争する気マンマンなんじゃないか。それから詩の授業も少し苦手だ。古典を読んだ方が良さそうだ。
魔法学の授業も更に奥深いものになる。魔法がそもそもどうやって使われているのかの仕組みは興味深かった。この世界では、魔力と言うのは私達の身体に宿るものではなくて、地面・大気・空などの外側から受け取っているものらしい。だから魔力の多い少ないは、その人が受け取れる魔力量恩恵の差という事らしい。魔力量を増やす研究も日々進んでいるらしい。
昼休憩で私はリヴィアと昼食を食べる。リヴィアの食べているスパゲティが美味しそうなので、今度私も食べよう。
「はぁ、困ってしまうわ」
リヴィアはため息をつく。
「何に困ってるの?」
「必修科目が終わった後、どの専門授業を取ろうか悩んでいるの」
この学園は入学後の一年間で基礎必修科目をやる。その間は、クラス分けをして同じカリキュラムに取り組む事になる。その後、クラスは解散されて今度は各々の好みでカリキュラムを組む事になる。例えば、商学を専門で学びたい子はそちらの授業を多く取る。騎士を目指す子は、帝王学や剣の授業を中心とした方に進む。コノートには学校が一つしか無い。だから、その学校の中でより細かく専門性が別れているのだ。また、貴族のような立場の人間は専門性より総合的な理解を深める為に様々な専門の授業を一通りこなしたりするらしい。立場や目指すところに寄って、カリキュラムは様々だ。
「うーん。私もまだ悩んでる」
「それに、まず基礎学科の試験で合格しなければならないわ。私今からそれが怖くって」
試験に落ちた場合、受かるまで再試を受ける事になる。基礎くらい収めて上に上がって来いという事だろう。
「まぁ、頑張るしかないよ。それよりデザート食べない? クレープケーキがあったよ」
「本当? 是非食べましょう!」
リヴィアは気持が落ち込みやすい子なのかもしれない。
午後の授業の後に私は外に出た。配達屋に手紙を出しに行くのだ。きっとユーリス先生が、心配しているだろうから。それから両親にも手紙を書いた。
「はい、二通で280ギルね」
私はお財布からお金を出して代金を支払った。毎月奨学金で50000ギル貰うのだが、食事代が免除されて、寝るところもある。服も制服なので頻繁に買う必要が無い。50000ギルも必要なんだろうかと思った。まぁ、余ったお金は貯金しておく事にする。
帰り道、お菓子屋が目に入る。色とりどりのお菓子。さすが大都市、ディスプレイ戦略も完璧である。誘惑された私は、ガラスの向こうを睨んでいた。
「こんにちはレディ」
突然声をかけて来たのは、紫髪の生徒会長だった。
「飴を見ているのかい? ここの飴はとっても綺麗だよね」
「そ、そうですね」
なんの気配も無く現れた生徒会長に私は内心ビビる。前回もそうだったけど、この人忍者なんじゃないか。
「中はもっとかわいいよ」
生徒会長がナチュラルに私の手を引いて店内に入る。
「いらっしゃいませー。あ、生徒会長さん、こんにちは」
かわいい服を着た店員が挨拶をする。生徒会長、常連なのか。それにしても店内、本当に凄い。そんなに広くは無いのだが、その分上から下まで綺麗なお菓子で埋め尽くされている。お菓子のテーマパークである。こんなとこ入ったら、買うつもり無くてもお財布が緩んでしまう。チョコで出来た巨大な鹿のオブジェを見上げて、私は口を開けていた。
「はい、レディにはこれをどうぞ」
手渡されたのは、棒キャンディ。青い飴の中にハートのラムネが入っている。
「このお店初めて? ぜひ、また遊びに来てね」
たぶん、生徒達の間でも人気の店なのだろう。私はレジの側にあった、チョコレートを一つ買って外に出た。外に出てから、チョコを生徒会長さんにあげた。
「僕にくれるの? ありがとう」
生徒会長さんが屈んでチョコを受け取って食べる。
「これ、ありがとうございます」
「いやいや、気にしないでくれたまえ」
私は棒キャンディを開けて舐める。
「ところで、スカーレットくんはいくつだったかな?」
「今年で十一です」
「そうか十一か。ご両親と離れて寂しい事もあるだろうね」
そう言われるとそうでも無いのだが、否定はしないでおいた。
「僕は学園の生徒会長だから、生徒の事には気を配る義務があるんだ。君も困った事があったら、頼ってくれて構わないよ。どんな些細な事でも良いからね」
そう言いながら生徒会長が私の頭を撫でる。良い生徒会長さんらしい。
「ありがとうございます」
私達は、一緒に学園に帰るった。私くらいの年で飛び級して来る子は珍しいから、生徒会長さんも特別、気にかけてくれているのかもしれない。
朝からそわそわしていたリヴィアが、休み時間に私の横で声をひそめる。
「あなた、生徒会長さんと昨日話していたんですって」
「え、うん」
「この学園の生徒会長と言えば、リリー騎士団長の弟君って有名じゃない。玉の輿ね!」
リリー騎士団は、この国が建国する際に作られた騎士団だった。ここの騎士団長は代々、同じ一族が団長を務めているらしい。
「た、玉の輿は狙ってないかな……」
スカーレットを、自立した女の子に仕上げるのが私の今のところの目標なわけだし。
「あら、どうして?」
「結婚したくないってワケじゃないんだけど、男の人に養われるだけなのも嫌なの。何か、一人で身を立てられる術を手に入れたくて」
それを聞いたリヴィアが目を見開く。
「そうなのね。えぇ、そうよ。自立した女。私の亡くなったばあやもずっとそう言っていた。私、恥ずかしいわ。私も自立した女になれるように努力するわ!」
最初はひそめていた声が、いつもの声量に戻った。彼女の大きく、よく通る声は隣クラスまで聞こえた事だろう。
「うん、頑張ろうね」
この世界で女性の自立ってどれくらいまで進んでいるのだろうか、ふと疑問に思った。
つづく




