↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/23

ギルティ・メアリ

目隠し、手枷、足枷、口枷。

身動きひとつ取れないまま、私は冷たい石の床に転がされていた。


「おーい、罪人ハーフ!まだ生きてるー?」


新田茜と大塚心子(ここ)の声だ。

牢の外からわざわざ覗きに来たらしい。楽しそうな声色が、何よりも腹立たしい。


「大罪人だってさ。まじウケるよあんた。最高に気分良くて、ここに来たらもっと気分よくなってきちゃったー!」


「スマホがあればな〜、めっちゃ発信したいわぁ。今さっき食事出たんだけどさー、この世界やばいよ?レベル高すぎ。あんなうまいもん食べたことない。聞いてんの?」


楽しそうに笑いながら心子が続ける。


「あっ喋れないのか。国を挙げての、私たちの歓迎パーティーは夜通し続くらしいよ!三食飯付き昼寝付きお風呂付き〜メイド付き〜」


「それな。あ〜っ、そういえば私優しいんだったわ〜。これ一番美味しかったケーキ持ってきたの。ここに置いとくね!」


新田茜が、牢の前にケーキを置く。


「たべてね!!檻を出れたらだけど。ばいばいきーん。あっ、ばい菌はお前か」


その隣で、大塚心子が腹を抱えて笑っていた。

二人の笑い声が遠ざかっていく。

何も言い返せない。声を出そうにも、口枷のせいで唸ることしかできなかった。


(どうして、こんなことになったんだろう)


既に自由に動くことさえ出来ないまま、数時間は繋がれていた。

体の痛みも随分《ずいぶん》前から限界のままで、いつまで続くか分からないこの状態を思うと、頭がおかしくなりそうだった。


(助けて、誰か。なんで誰も助けに来てくれないの?同級生がこんな目に遭《あ》ってて、どうして平気なの?)


せめて自分の行く末を考えて、明日は我が身と、そんな言葉を誰か一人くらい思い浮かべてくれてもよかった。

けれど、その後、結局誰も助けには来なかった。


神川リオン率いる最強カースト上位組が、国と手を結んでいるのだから。

誰もが余計な思考は放棄していた。


(技能………。技能ってなんだろう。助けなんてもう来ないだろうな。地面が硬くて痛い。こんなところで死ぬのかな)


神川リオン、心子、茜。他の人達。ニタニタと笑ってる顔が浮かぶ。

そしてその隣にはカンナバリカ。


(このまま何されるのかな。殺されるのかな。悔しい。せめて、何かできること。私の技能どうやって使うのかな)


技能開示の儀の際に目にした技能。その中の一つが頭に浮かぶ。それは言葉が意味もなく存在しているのではなく、行使すれば現象として何かが起こるのが明確に予感された。



【百鬼夜行《ひゃっきやこう》】



文字が浮かんだ瞬間、どこからか鈴の音がした。


チリン。


牢の外ではなく私の耳元でそれは鳴った。

続いて、石の床を何かが近づいてくる。


(なに……?)


すると床に転がる私の目隠しがめくり上げられた。


(ッ!?)


そこにはお化け屋敷の為に作ったものとは似ても似つかない、本物の一つ目小僧がいた。和装に羽織を纏《まと》い、背丈は約一メートル。

一つ目小僧はそのまま口枷もずらしてくれた。


「ぷはっ……ありがとう。もしかして百鬼夜行って、あなた?」


「黙っていーよー!」


某青いロボアニメの声優、大山様の喋り方や声を彷彿《ほうふつ》とさせる何だか可愛らしい声で言われた。


(静かにしろってことかな)


今度は後ろに回りこみ、手枷の縄をほどこうと爪でカリカリしてくれている。


「…」


かりかり。


かりかり。


かりかり。


「取れないの?」


「黙っていーよー!」


(この子…戦闘要員じゃないかも?)


するとまたしても鈴の音が聞こえた。


チリン。


とん。


背後で地面を強くたたく音がした。何かが上から落ちてきたような音。

後ろを見るとこれまた、学園祭で作った経験のある、唐傘おばけがいた。


さすがにビニール傘ではないが、ディテールはほぼほぼ一緒で、和傘から生えた立派な一本足に、目は一つ。


「…」


喋らない。一応ぷるぷるの舌が飛び出てるから、喋ろうとしていないだけかもしれない。

しかも、この子…手がないタイプの唐傘お化けだ。


懸命にかりかり手枷を解こうとしている一つ目小僧を見下ろして、ファサッファサッと傘を開閉している。


「…もしかして、風送ってくれているの?」


〘すずしい?〙ファサッ、ファサッ


「あっ、涼しいです」

(やっぱり喋れないのか。念話みたいなのは出来るのね)


「黙っていーよー!」カリカリカリカリ


「あっ、ごめんね」

(ど、どうしよう。この子達、縄解(ほど)けない系の子だ…)


――


Side 新田茜・大塚心子


「はぁ、天国だわ」


二人はパーティーを一度抜け出して、大浴場に来ていた。

三十人は余裕で入浴できるであろう豪華な浴槽の中心で、茜の代名詞でもある、金髪と巨乳がぷかぷかと浮いている。

タイルで飾られた謎の壁画、良い香りの石鹸。体はメイドが勝手に洗ってくれるという贅沢。


「ほんとえぐい。もう帰れない。メシウマだし、髪つやつやすぎて、生きるのが快適すぎる」


大塚心子(ここ)は染めている茶髪が見えなくなるほどに、使いたい放題の異世界美容液を塗りたぐっている。

地球では有り得ないその即効性に、歯止めが効かなくなっていた。


「それな。メイドカフェなんてやらないで最高だったわ。ここっち、あいつの技能見たっしょ?」


「あいつって、ばかハーフ?」


心子は、名前さえも出さず、ここにいないメアリをわざわざ侮蔑した。


「それなー」


「百鬼夜行だっけ?お化け屋敷とか提案して邪魔するから、天罰下ったんよ。ハーフ滅殺!ってね」


「それなー。……それ考えると、危なかったかもね。メイドカフェなんてやってたら、技能がメイド系かカフェ系だったかも?」


「うわっ、あっぶね。ご主人様ぁ〜♪ってのはリアルじゃ死ねる。愛しのメアリ様って呼ぼうかしら」


心子は手を留めずにひたすら髪をとかしながらまたしても侮蔑していた。


浴槽に浮いていた茜は、ざばーんっと起き上がり、心子の横に移動して座った。

そして、「あぁ、愛しのメアリ様。わざわざ地獄に自ら行ってくれて、ありがとうございました」と言い放つと、わざとらしく手を組み、宙を見上げていた。


「めっちゃ聖女だわ」


「ありんちゅ〜」


「つーかさぁ、さっきからなんか外うるさくね?太鼓みたいな」


「ん?…がちだ。パーティーも終盤かねー」


外の様子も気になったが、心子にはもっと気になる話題があった。


「そういえばさー、茜さー」




――あんたがやったっしょ




「…………やっぱ流石だわ、ここっち。持つべきものは以心伝心大親友♪」


「だと思ったYO♪技能開示の儀のとき、やけにしつこく質問してると思ったわ。カンナバリカ、押しの強さにひいてたYO♪」


「それなー。技能説明見た瞬間、これやべーやつやんけ。ってわかったからね。ここっちにだけは言うけど、リオンより主人公なの、私」


自信満々といった表情を浮かべて茜がドヤ顔で語る。薄っすら長い付き合いから感づいていた心子は、若干疑心暗鬼になっていた。


茜は自尊心の塊。邪魔者は許さない。そんなやつにとんでもない力が降って湧いたのだから、行使しない筈がないことは明白だった。


「『改変と壊変』はね。一つで二つの能力なの。まじお得中毒」


「…教えなさいよ」


「いいよー、でもめんどっちいから一つね。『改変と壊変』の一つ目の改変はね、因果の改変。原因と結果を変えちゃうの」


「ガチ?それ主人公ってか、ラスボスじゃん。それで?」


「カンナバリカがさぁ、ポロったんよ。「叛逆《はんぎゃく》の可能性も見ています」って。それ聞いたらもう止まらんよね、あたしゃ」


「それで何かを改変したってことね」


「そうそう。赤木メアリの結果を『GUILTY』になるようにしてみたんよ〜!原因は勝手についてくっからさ〜、まじ楽勝!!」


茜はけらけらと声を出して笑った。


「茜最強じゃん。愛しの方は茜様じゃん!」


「それな。崇《あが》め仕《つかまつ》り給《たま》え〜」


「ははぁ〜」


わざとらしくひれ伏すポーズを取った心子を茜がくすぐった。

ひゃはははと心子は笑っていたが、躊躇《ためら》いもなく技能を行使する実行力と胆力に少し恐れも抱いていた。

もちろん、立ち位置の確立、信頼関係の維持の為におくびにも出さないが。


(でも大丈夫。茜だけじゃない。私にだってSクラス技能があるんだから。誰が何を仕掛けようとも、問題はない)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。