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異世界へ

はじめまして!

本作は下書き完結済みですので、安心して最後までお楽しみいただけます!


心優しい少女と、個性豊かな妖怪たちが織りなす物語。

どうぞ、メアリたちの旅を見守ってあげてください!

「はあ、はあ……もうやめてっ!」


息が苦しい。

肺が焼けるように熱く、足はもう動かない。

それでも走るしかなかった。


背後から複数の追手の気配が迫る。


「お前らは邪魔をするな。俺がやる!」


神川《かみかわ》リオンの声が響いた。


「『閃耀《せんよう》の矛盾《むじゅん》』」


その瞬間、リオンの手に剣と盾が現れた。制服姿には不釣り合いな、鈍い光を放つ銀色の剣と盾。

見た瞬間、背筋が凍る。


(嫌だ、なんでこんな!)


彼に捕まったら、全てが終わってしまう。もつれながらも必死に足を動かす。だが――


「『断罪者の鎖』。赤木メアリを捕縛しろ」


地面から無数の鎖が飛び出した。


「ッ!!」


ジャラッ、ジャララ


鎖が足に絡みつき、腰と腕を締め上げる。そのまま身体を引かれ、転倒した。


「いやっ!」


逃げなきゃ。必死に地面を掻くが、鎖はびくともしない。初めて使うとは思えないほど滑らかな発動だった。走っていた私を、数秒とかからず捕らえた。


「カンナバリカさんの指示だ。悪く思うな」


「神川くん、離してっ!お願い!!」


叫びは届かなかった。

銀色の剣が、胸を貫いた。


「――っ」


何が起きたのか理解できない。胸の奥に熱いものが入り込み、焼けるような痛みが広がる。息が吸えず、喉からはひゅう、という音しか出ない。

血が肺に入っているのだろう。


(苦しい、痛い、怖い)


剣が胸に刺さったまま、上へと動かされた。

ぐっ、と持ち上げられ刃が心臓を壊したのがわかった。


視界が揺れ、目の前の神川くんが遠ざかっていくのが見える。


(死ぬ、の?)


意識が暗闇へ落ちていく。最後に浮かんだのは


(どうして…)


そんな疑問だった。


――


時は遡《さかのぼ》ること、二日前。


私が私立三笠《しりつみかさ》高等学校に転校してきて、二ヶ月目。その日は文化祭の準備で、教室をお化け屋敷に改造していた。


原案を提案したのは私だった。


「文化祭だし、お化け屋敷とか定番かな」


軽い気持ちだったが、まさか本当に採用されるとは思わなかった。

メイドカフェを希望していた学年カースト上位のギャル二人組、新田さんと大塚さんの機嫌を、私は盛大に損ねた。


思えば、転校初日から私は目立っていた。銀色の髪と、ロシア人とのハーフというだけで視線を集める。珍しがる目、好奇の目、露骨に嫌悪を示す目。


気にしないようにしていたが、毎日のように嫌味を浴びせられれば気づく。特に敵意を向けてきたのが、新田さんと大塚さんだった。


私がメイドカフェを邪魔した。ただそれだけ。

書けと言われたから、希望を書いて提出しただけで、無理に押し通したわけでもない。

決定は多数決だったし、そもそもメイドカフェをやりたい人がいる事さえ分かり得ないのに。


それでも誰も二人に逆らえないから、私は標的になった。

誰もお化け屋敷の準備を手伝わない。内容を決めようとしても意見は出ず、一人で作業していると遠くから笑い声だけが聞こえる。

先生が入ってきたときだけ、みんな急に動き始めた。


「俺たちが作っておくよ」


「ここ、私たちがやります」


さっきまでスマホをいじっていた人まで働き始める。


(……すごいなあ)


私は一人で傘おばけを作っていた。ビニール傘に目と口を描く。一反木綿も作った。白い布を切り、顔を描いて天井から吊るす。

そして今日は、一つ目小僧を作成中だった。


それを見つけた神川リオンが笑った。


「半人は、お岩さん役な。ほぼそのままだし」


一瞬、意味がわからなかった。周囲から笑い声が上がり、私のことだと気づく。

神川リオン。勉強もスポーツもでき、顔もいいらしい。背も高く、学校中の生徒や教師から評価される人気者。


そして私にとっては、ただの陰湿ないじめっ子だった。本人が直接手を出すことは少ない。

だが、彼が笑えば周囲も笑い、私を馬鹿にすれば周囲も同じことをする。


「うわっ、ほんとだ。ガチでそのままだわ。ぶっさー」


大塚心子が笑った。


「なんなら殴っとけば変装いらなくねー?」


新田茜が続ける。

次の瞬間、肩を強く押された。身体がよろめき、顔から一つ目小僧にぶつかった。


「痛っ……」


頭がもげている。しかも、一つ目小僧の坊主髪に使った絵の具が私の目の上についていた。鏡を見るまでもない。これでは本当にお岩さんだ。


「ぎゃははははっ!ほんもんやん!リアルお岩!!」


大塚心子が指をさして笑い、周囲も続いた。

私は何も言えなかった。恥ずかしい。悔しい。それでも、床に転がった一つ目小僧の頭が気になった。


(ごめんね、一つ目小僧)


相手にせず、しゃがみ込み頭を拾う。落ちてしまった目玉を拾い貼り付け、剥がれた絵の具を塗り直し、壊れた頭を身体に戻す。


「……よし」


呟いた、そのときだった。

爆弾でも落ちたような轟音が教室を揺らした。


ドンッ!


まばゆい光が視界を埋め、身体が浮く。


「きゃあっ!」


誰かの悲鳴が聞こえた気がした。


――


「皆さん、オズモ王国へようこそ」


目を開けると、見知らぬ場所にいた。

目の前に立つのは、二十代後半に見える長身の男。


「あなた方は、この国の兵士として徴兵されました」


……徴兵。その言葉が引っかかった。


「つきましては、シングラーとの戦争までに、世界を超越したその力を鍛え上げ、オズモに勝利を齎《もたら》して下さい!」


仰々しい口調で、とんでもないことを言っている。

男の名はカンナバリカ。

この国の高位の魔法使いらしい。私たちは異世界へ連れてこられたのだ。


説明によれば、転移者にはSクラス、又はAクラスの、この世界でも最高峰の技能が複数備わるという。


クラスメイトは驚いていたが、なぜか大きく反発しなかった。


「異世界だって!」

「マジ?」

「え、なにそれ。映画みたいじゃん」


女子の一部は「イケメン外国人だ!」と黄色い声を上げる。

私はその様子を見て思った。


(なんで納得できるの?)


本人の意思に関係なく連れてこられ、帰れる保証もない。しかも、兵士として徴兵された。


(強制的な徴兵だよ)


口に出せる雰囲気ではなかった。


「まずは技能開示の儀から。では、あなたからどうぞ」


カンナバリカに従い、クラスメイトが一人ずつ前へ出る。地面から突き出た棒には、いびつな水晶がいくつも飾られていた。手を翳《かざ》すと、技能が表示される。


「素晴らしい!」


カンナバリカは、技能が開示されるたび大げさに喜んだ。


「なんだよ、この能力!」


「すげえ!」


盛り上がる輪から離れ、私は嫌な予感を覚えていた。


「最後ですね」


カンナバリカがこちらを見る。


「そこの銀髪の少女」


「……私?」


「そうです」


促されるまま、私は水晶の前に立った。


「手を翳《かざ》しなさい」


言われた通り手をかざす。


「では…賜《たまわ》れし技能を開示せよ」


水晶が光った。


【赤木メアリ】

Sクラス『百鬼夜行』

Sクラス『八魂輪廻』

Sクラス

『Волков бояться — в лес не ходить』

(ヴォルコフ・バヤーツァ・ヴ・リェス・ニェ・ハジーチ)


一瞬、静まり返った。


「Sクラスが、みっつ!アッメーイジーーングッ!!!!」


大声に、私は肩を震わせた。だが、次の瞬間、彼の表情が変わる。


「……むぅ?」


水晶が赤く染まっていく。


「計測神具が赤く染まったッ」


何が起きたのかわからない。ただ、さっきまで喜んでいた彼の顔から、笑みが消えていた。


「赤木、メアリ」


「はい……」


「残念だが――今、我が国において貴様は最重要大罪人となった!」


「……大罪人?」


意味がわからない。


「世界に仇《あだ》なす者。向こう側につくもの。わかるのだよ」


カンナバリカは私を見つめた。


「精神性までね」


ぞくりとする。


「人は見かけによらないものだな」


「待ってください!私、何も――」


言い終わる前に、カンナバリカが杖を横へ振った。


「捕らえよ」


扉が開き、兵隊がなだれ込む。


「な、なんでっ!」


腕を掴まれた。何もしていない。なのに、誰も聞いてくれない。


そのまま私は捕らえられた。


――


「おい、赤木」


牢屋へ連行される直前、神川リオンが私の前に立った。


「お前、キモいよ。場合によってはこっちまで巻き込まれるところだ。迷惑なんだよ。僕の邪魔をするな」


彼の目にははっきりと嫌悪が浮かんでいた。


技能は、

Sクラス『断罪者の鎖』

Sクラス『閃耀《せんよう》の矛盾』

この世界を統べる側の、チート級の力だ。


(こんな時にまで…酷すぎる)


考えても、今さらどうしようもない。


「折角、異世界に来たってのに、ばぁか、ブース、ざまぁ!」


「ぎゃはははは!」


リオンに続いて前へ出たのは、新田茜《にったあかね》だった。金髪のおさげに、胸元の緩い制服。派手なギャルだ。


技能は、

Sクラス『改変《かいへん》と壊変《かいへん》』

Sクラス『暴虐《ぼうぎゃく》の青い夢』


「あんたの技能三つ、ハーフだからって特別扱いされたんでしょ?きしょいんだけど、そういうの。抜け駆けウザい」


さらに睨みつける。


「あと前から思ってたけど、イケメンと喋るなよ、お前」


「……どうしてそんな事を言うの」


思わず聞くと、新田さんは鼻で笑った。


「は?」


それ以上は答えなかった。


続いて大塚心子が口を開く。茶髪に派手な化粧とピアス。一見クールなギャルだ。


技能は、

Sクラス『自己中心的普遍予知《じこちゅうしんてきふへんよち》』

Sクラス『嫉妬独白《しっとどくはく》・戦乙女《ヴァルキューレ》』


「調子乗ってんじゃねーよ、能力三つも持っといて。他の人の気持ち、あんたにはわかんないだろうけどさ。教えてあげる、死ね」


低く、吐き捨てるように言う。茜とはまた違う、粘つくような棘があった。


私は三人を見た。転校してから、ずっと苦手だった人たち。それでも、いつか普通に話せるかもしれないと思い、笑われても嫌味を言われても我慢していた。


だが、もう違う。私は何もしていないのに犯罪者にされ、捕まった。これからどうなるかも知らされない。目の前のクラスメイト達は、心配するどころか笑っている。


カンナバリカは、クラスを転移させて兵士として徴兵し、技能だけで私を大罪人と断定した。おかしい。絶対に何かある。技能開示のときから感じていた。この人は危険だ。

なのに、反論できない。私はそのまま牢屋へ連れていかれた。


――


牢屋の中で、私はクラスメイトの顔を思い浮かべた。

神川リオン。男。

新田茜。女。

大塚心子(ここ)。女。

板垣美子(みこ)。女。

新妻《にいづま》和真。男。

大室真司。男。

山田櫻子(さくらこ)。女。

大谷陸(りく)。男女。

二階堂美玖(みく)。女。

葉山大河(たいが)。ほぼ女のつもり。

西園寺ひかり。女。

喜多院元春(もとはる)。漢。

原西賢人《けんと》。男。


そして、初めてはっきりと思った。


(こいつら…全員、敵)


幽閉してきたやつらも、全員敵だ。今の私には、それ以外の判断ができなかった。私は何もしていないのに捕まり、理由も説明されず、助けてくれる人もいない。


目隠し、手枷、足枷、口枷。牢屋の中で身動きも取れず、何も見えない。


(どう甘く見積《みつ》もっても……)


詰んでいる。


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