開拓!メアリ村!
洞穴の入口に朝日が差し込む。
「さて」
メアリは腰に手を当てて集まった仲間たちを見渡した。
一つ目小僧、垢嘗め、唐傘お化け、網切り。猫又。そして、足元にひしめくコロポックルの群れ。葉耳兎は少し離れた岩の上から、こちらの様子を窺っている。
「これから、いろいろ考えなきゃいけないことがあるんだけど……」
言いかけてメアリは、ふと大事なことに気づいた。
「そもそも、みんなってご飯食べるの?」
「にゃ?」
猫又がきょとんとした顔で首を傾げた。
「主様、それはまた唐突な」
「だって気になったんだもん。垢嘗めくんとか、何食べて生きてるのかなって」
「なめなめ?」
垢嘗めが自分を指差して不思議そうにしている。
猫又が尾を軽く揺らしながら答えた。
「妖の多くは人間のようにきっちり食べねば死ぬ、というわけではございません。垢嘗め殿などは、その名の通り、垢や汚れそのものが糧になりますし」
「あ、なるほど……」
「一つ目小僧殿や網切り殿のような妖は、そもそも食事という概念自体が薄うございます。ただ」
猫又はちらりと、遠い空を見上げるような仕草をした。
「酒呑童子様のような、位の高い御方となりますと、話は別ですな。あの方々は酒や馳走を嗜むこと自体が、力の一部でもございますので」
「……あ、じゃあ、いつかお酒とか用意した方がいいのかな」
「そうなさると、きっとお喜びになるかと」
想像すると少しおかしくて、メアリは小さく笑った。
「じゃあ、コロポックルたちは?」
「彼らは人間に近い形で食を取りますにゃ。おっと失礼。畑のものを、自分たちで育てて口にいたしますよ」
「ぽっく!」
足元のコロポックルの一体が、元気よく手を挙げた。他の何体かもそれに続いて、ぽくぽくと跳ねる。
「じゃあ、畑は早急に必要になりそうだね」
「ですな。それと」
猫又がすっと表情を改めた。
「食料の確保だけでなく、住処の周りに簡単な結界か、目印のようなものを張っておいた方がよろしいかと」
「結界?」
「はい。この山に何が棲んでいるかまだ分かりませぬ。…また新しい仲間も増えましょうし、百鬼夜行を行えば賑やかになる為に、外からも気づかれやすくなります」
その言葉に、メアリの表情が、少しだけ引き締まった。
「……そうだよね。ずっと、ただ平和なままとは限らない、よね」
「今すぐにでも、というわけではないかもしれませぬ。ですが、備えるに越したことはございません」
猫又はそう言って、金色の瞳を細めた。
「ワタクシが周りの警戒を担いましょう。人間や、他の魔物の気配があれば、真っ先に気づいてご報告いたします」
「ありがとう、猫又くん。頼りにしてる」
「勿体なきお言葉。ワタクシが警戒している間は、主様には指一本触れさせないと約束致しましょう」
猫又が、優雅に一礼する。
(ん?どこかで聞いたような言葉)
――
その日の午前は、とても慌ただしく過ぎていった。
コロポックルたちはメアリの指示を受けると、驚くほどの手際で動き始めた。
「あそこ、平らにできそう?」
「ぽっく!」
「じゃあ、あそこを畑にしよっか」
「ぽぽっく!」
小さな鍬を手に、土を耕し始める者。木の実や、山菜らしきものを摘んでくる者。中には、洞穴の入口付近の岩を、器用に積み上げて、雨の流入を防ぐ簡素な囲いを作り始める一団もいた。
垢嘗めは、洞穴の中の湿った壁を、嬉しそうに舐めて綺麗にしていく。
「なめなめ〜」
「垢嘗めくん、お掃除係が天職だね」
唐傘お化けは上空を飛び回り、周辺の地形を確認しては、〘あっちにみず、あるよ〙と念話で知らせてくれた。たまに風に飛ばされてるけど。
網切りは木の枝をハサミで手際よく切り揃え、囲いの材料を量産していく。
シャキン、シャキンと小気味よい音が山の中に響いていた。
――
昼が近づく頃、メアリは少しの休憩を取りながら辺りを見渡した。
まだ何もかもが仮のもので、粗末な囲いと、耕したばかりの土くれが並んでいるだけだ。
それでも朝には何もなかった場所に、少しずつ暮らしの形が生まれ始めていた。
「……本当に村みたいになってきたね」
「これも、始まりでございますね」
隣に控える猫又が、静かに答える。
葉耳兎はいつの間にか、コロポックルたちの作業を興味深そうに眺めていた。時折、ぴょこんと跳ねて、邪魔にならない範囲で手伝おうとしている素振りも見える。
メアリはその光景を、しばらく黙って見つめていた。
平穏な時間。そんな当たり前のことが、今は何よりも尊く思えた。
(このまま平和でいてくれたらいいな)
そう願う一方で、猫又の言葉が耳の奥に残っていた。
賑やかになるほど外からも気づかれやすくなる。
(大丈夫。まだ、大丈夫……なはず)
自分に言い聞かせるように、メアリはそっと目を細めた。




