↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/21

ぬらりひょん


「…お乗りくだしゃいませ、主しゃま〜」


気付いたら神輿《みこし》が私の直ぐ側に置いてあった。

ただの神輿かと思ったが、可愛らしい声が聞こえてきたので、そこでようやく付喪神《つくもがみ》だと気付いた。

辺りは妖怪だらけになっていて、祭囃子のような音もどんどん大きくなっていた。


「当然でございまし、主様は総大将でございますよ。さあさあ始まります!私どもの愛する主様の為だけの、世にも奇怪な百鬼夜行!」


ろくろ首と産女が手を取ってくれて、私は神輿に乗り込んだ。


古びた神輿が誰に担がれるでもなく、独りでに宙へ浮き上がる。飾り金具がしゃらしゃらと鳴り、屋根の鳳凰《ほうおう》の目に、ぽつりと灯りが点った。

とても癒される木の香りがした。


「浮いたっ…!」


神輿は静かに確かな力強さで、宙を進み始めた。垢嘗めと一つ目小僧が、脇を守るように併走する。


「あっ!ちょっと待って。城から離れていってるけど、これであってる?酒呑《しゅてん》さん達、置いてっちゃってる!」


「主しゃま。酒呑童子《しゅてんどうじ》様、茨木童子《いばらきどうじ》様、九尾《きゅうび》の御方《おんかた》は、それぞれにお役目が御座いましゅ」


「そう、なんだ…」


突然、神川リオンが一太刀のもとに、一つ目小僧の首を断ったことが頭をよぎる。

宙を舞う頭。他の三人も千切られた。その瞬間がフラッシュバックしてしまい、息が苦しくなった。冷や汗が額に滲んで動悸が止まらない。


(くるしい、くるしい!)


みんなが生き返ってホッとした心の隙間。恐怖は一般人の私の心に付け入り、棘を刺しながら絡みついてくる。

自分の胸にまた剣が突き刺された感覚がした。


(息が、できない、こわい!)


その時、一つ目小僧がお神輿に乗り込んできた。にっこりと微笑むと、私の手を握って隣に座る。


〘そばにいるよ〜〙ファサッ


神輿の外では唐傘お化けもくるくると回転して、おどけてみせる。


(…みんな、ごめんね。総大将がこんなで)


自分の情けなさに嫌気が差す。酸素過多で目も開いていられず、申し訳ないと思いながらも一つ目小僧の頭に寄りかかった。


「黙っていーよー?」


一つ目小僧がコソッと喋った。

大妖怪を置いて百鬼夜行は進んでいく。



──



王城にて。




「なんか外、すごい音しない?」


夜になっても続く歓迎パーティー。そこへ出席し、立食会が開かれている会場で、板垣美子(みこ)が外を気にしていた。


「ほんとだ。なんか、太鼓みたいな音するね」


それを聞いた山田櫻子(さくらこ)も音に気付いた。


「わわわっ、なんかすんごい振動した。花火かな」


「こんなに歓迎されても、なんか逆に怖いね」


そんなことを話している二人だが、城の兵士がざわついていることに気付いた。

食事や接待に夢中になっていた、他のクラスメイトも異変に気付き始めている。


その時、メイドに話しかける見覚えのない老人が目にはいった。


「ひゃっひょ。もっと美味い酒を用意しぇ。今宵は大事な宴ぞ。皆も、もっと飲んで騒いで踊れやせんかあ。あ、それ、ヨイヨイ」


尊大な態度で給仕に絡んでいる老人に気を取られ、気付けば外の音のことを皆忘れていた。


「ひゃっひょ。つまらん音を奏でるにゃあ!肉を焼いて来い。それとついでに湯も沸かせぃ。湯浴みに酒を忘れてはならぁぬ」


突然現れた老人は、オズモ王国の関係者らしく、しかもかなり位の高い人物のようだった。


「あれ、だれよ」


「知らなーい。見たこともない」


「王族だったりして」


「んなわけあるか」


「俺は王様より上。先代の王だと思うな」


「あんな和装の貴族いるかね、異世界に」


クラスメイトがみんなその老人に注目していた。見た目の年齢とは裏腹に、バクバクと並んでいる料理を平らげていく。戸惑う給仕を他所に、給仕の持つお盆に並んだワインを次々と飲み干していく。


「それにしてもさ、めちゃくちゃ頭長くね?」


「…病気かな?」


「なんか、あの爺さん――」




――ぬらりひょん、みてぇ




その時、会場に兵士が流れ込んできた。ただならぬ雰囲気を出している。その中には兵士の中でも階級の高い者も多数いた。技能開示の儀にも出席していたその兵士が声を上げる。


「パーティーは中止です。大罪人、赤木メアリが脱獄しました!既にカンナバリカ様により対処はされておりますが!皆様、危険ですので部屋に戻ってください」


会場がざわついた。


「ッ!?その人物から離れて下さい!」


そう言うと兵士は剣を抜き、武装もしていない老人を囲い出した。


「貴様!どうやって城内へ入った!!何者だ!」


老人は問われると、しゃぶりついていた鳥の骨を咀嚼《そしゃく》もせずにごくりと飲み込んだ。


「儂か?」


――儂はこの城の城主である


「なに、をっ……」


剣を構えていた兵士の切っ先が、微かに震えた。


「儂が、この城の主だと言うておる。まさか、この儂を忘れたとは言うまいな」


ぬらりひょんは、金属製のコップに入った酒を飲み干すと、そのまま放り投げた。


カラン、と乾いた音が床に響いた。


「城主……?」


兵士は止まった。止まらざるを得なかった。

問おうとした瞬間、頭の中に様々な記憶があることに気が付いてしまったからだ。

この老人が長い事、この城に住んでいたという記憶が。幾度となく話した感覚が。

今朝も、昨日も、一年前も。この老人はここにいた。もちろん、城主として。


「……失礼いたしました、城主様」


「うぅむ!苦しゅうなあい!!」


剣を下ろし、深々と頭を下げる兵士。

つられるように、周りの兵士たちも次々と膝をつき始めた。


「なんで頭下げて……って、あっそうか。城主だからか」


「…なぁんだ、城主様か」


板垣美子と山田櫻子が、困惑したまま立ち尽くす。頭ではわずかに疑問を抱いているのに、体が勝手に納得してしまっている。まるで、最初からそうだったかのように。

そして、その疑念はやがて溶けて消えていった。


「ひゃっひょ。よいよい、面をあげよ。今宵は宴ぞ。」


満足そうに笑うぬらりひょんの頭が、松明の灯りに照らされて、ぬらりと光る。


――


Side 新田 茜《あかね》・大塚 心子《ここ》


「あぁ〜、極楽だわ…浄土系の風呂かと思ったわ。しらんけど」


「つーか、風呂長すぎ。よくのぼせないね。召されてもしらんぞー」


茜の長風呂に付き合っていられなくなった心子は、一足先に風呂を出ていた。

脱衣場でメイドに、ドライヤーのような魔道具で髪を乾かしてもらっていた。


仕方なく浴槽から上がった茜は、全身をメイドに拭かれながらも、それを相手にもせず、止まることなく歩き続けた。

水が床にぼたぼたと垂れているが、気にした様子はない。


「冥土の土産にこれをおーくれっ。メイドだけに。って私の手で包めるんかーい」


「なっ!やめい、茜!折角《せっかく》、乾いたのに!また濡れるだろ!」


茜は心子を背後から抱きしめると、両の胸を掌《てのひら》で包んだ。心子は濡れるからやめろと口にしたが、内心は茜に苛立っていた。


(手で包める?また馬鹿にしてんの?自慢ですか?ただの脂肪袋のくせに、うっざ)


へらへらと笑顔を装い、茜を手で制していた。

その時だった。



――なッ!?



心子の瞳が、大きく見開かれる。

手のひらから、ぽとりと化粧水の瓶が滑り落ちた。


「んあ……心子?どしたん、急に。冗談だってばよー。怒んなよー」


「ちょ、ちょっと待って……え、なにこれ」


心子は鏡の前で固まっていた。

それは鏡に映る自分を見ているわけではなく、頭の中に勝手に流れ込んでくる映像を観ているからであった。


【自己中心的普遍予知】


視えたのは、今この瞬間の光景ではない。これから訪れる、心子自身の未来だ。

広間に立たされる自分。他のクラスメイトたちと並んで、頭を垂れている。

目の前には、老人の姿をした何か。剃り上げたように伸びた後頭部。人間の皮を被った人ならざる気配。


「ねー、ここっちー。なんなん?」


「まって、ガチのやつ。技能発動中!!ヤバいヤバいヤバいヤバいエグいって!!!」


更に場面は進み、老人が持ってる杖を床に打ちつけたシーンから始まった。

すると床から巨大な蜘蛛の形をしたモンスターが現れ、クラスメイトが笑顔のまま食われていく。

更には、他にもモンスターが現れこう言った。


「感謝する。ぬらりひょん」と。


ゆっくりと迫る蜘蛛の口の中。そのあまりの迫力に心子は現実との境が分からなくなり、大声で叫び声を上げていた。


――


しばらく放心した後、心子は事の真相を茜に喋りだした。


「えっっっぐすぎ。城、乗っ取られるわ…」


「なに言ってんの。他の奴らだって技能持ってるし、城の面子も強いみたいだし、そんな事ないっしょ。とりま落ち着きなよー」


「落ち着けるわけないじゃん!言ってなかったけどさ!!私の予知、自分に関係ある事にしか発動しないの。それが今、勝手に発動したんだよ!?全部これから起こること見たの!!信じてよ!!茜だって……美味しく頂かれてたんだよ!?」


茜の表情から、笑みが消える。


「なーる……ガチのやつか」


「マジ。ガチ。初めて発動したけどさ。なんかもう、勝手に脳に流し込まれてくる感じ。あんなキモい映像初めて見た。ん…そういえば、あの爺さん。ぬらりひょんって呼ばれてたな」


それを聞いた茜は、大きく育った胸を張り、少し首を横に傾け左手だけ腰に当てると、軽くため息をついた。



「ほーん……んなら、そいつ――」



傷んだ金色の髪から、雫がぽたりと滴り落ちる。



――壊すか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。