第七十三話 決裂
レストランを出ると。
夜の冷たい空気が、火照った頬を撫でた。
未来はスマートフォンを取り出す。
『今、終わったよ。』
そう送ると。
すぐに返信が返ってきた。
『分かった。』
『レストランの前に車をつけるよ。』
未来の表情が、ふっと緩む。
「彬?」
隣にいた真二が尋ねる。
「はい。」
未来は頷いた。
「もう近くにいるみたいです。」
「……そうか。」
真二は。
それだけを答えた。
けれど。
その声は、どこか硬かった。
しばらく待つと。
彬の車が目の前に止まった。
「未来、待った?」
「待ってないよ。彬、ありがとう。」
未来が笑う。
その顔を見た瞬間。
真二の胸の奥が、強くざわついた。
「彬、ちょっとだけいいか。」
真二が低い声で言う。
彬は未来を見る。
「ん?」
そして。
未来に向かって言った。
「未来は、先に車に乗ってて。」
「少し離れたところに停めるから、車の中で待っててくれる?」
「うん。」
「未来も悪いな。」
真二が続ける。
「彬に少しだけ話がある。」
未来は二人を見比べた。
「……分かりました。」
未来が車に乗り込む。
彬はレストランから少し離れた場所に車を停めると。
真二と一緒に。
未来の視界から消えていった。
その頃。
真二は彬の肩を掴み。
思い切り叩いていた。
「お前、何やってくれてんだよ。」
彬の表情が変わる。
「……何の話だ。」
「とぼけるな。」
真二は声を抑えながら。
けれど。
怒りを隠せない様子で言った。
「未来は俺の女だって。」
「お前が一番分かってんだろ。」
「何、彼氏みたいな顔してんだよ。」
「……。」
彬は。
しばらく何も答えなかった。
「未来が怪我してるの、分かってて。」
やがて。
低い声で言う。
「それをほったらかしにしてるのが、彼氏の役目なのかよ。」
「……っ。」
真二の表情が歪む。
「お前……。」
「何言ってんだ?」
真二は。
信じられないものを見るように彬を睨んだ。
「未来のこと。」
「ずっと嫌ってると思ってた。」
「それなのに。」
一歩。
彬へ近づく。
「本当は、俺を油断させて。」
「未来を奪うためだったのか?」
「……。」
「ずっと好きだったってことかよ。」
彬は。
ゆっくりと真二を見る。
「だったら、どうする。」
「……は?」
「俺が未来を好きだったら。」
「お前は、どうするんだよ。」
真二の言葉が止まる。
「未来に。」
彬は続ける。
「全部、話すのか?」
「お前たちが恋人だったこと。」
「美香と浮気してたこと。」
「未来が事故に遭った日に。」
「お前がついた嘘のことも。」
「……っ。」
真二の顔から。
一瞬で血の気が引いた。
「……それは。」
「言えないのか。」
彬の声は冷たかった。
「じゃあ。」
「俺に何をしろって言うんだよ。」
真二が拳を握りしめる。
「お前さえいなかったら。」
真二は。
感情を抑えきれないように言った。
「未来は。」
「俺を頼ってたはずだ。」
「お前に彼女がいると知ってて。」
「甘えるような女じゃないことくらい。」
「お前が一番分かってるだろ?」
真二の視線が。
未来のいる方向へ向く。
「元に戻そう。」
「……。」
「美香には明日伝える。」
「関係を清算するよ。」
「もう限界なんだよ。」
「……。」
「俺の未来を返せよ。」
その言葉に。
彬の表情が変わった。
「あいつは。」
彬が低い声で言う。
「未来は、物じゃないんだ。」
「感情だってある。」
「選ぶ権利だってある。」
真二は黙って彬を睨んだ。
彬は。
さらに続ける。
「お前が美香と別れたからって。」
「それだけで。」
「全部が元に戻ると思うな。」
真二の眉が寄る。
「何が言いたい。」
「お前がついた嘘が。」
彬は真二をまっすぐ見た。
「今の未来にとっては、現実なんだよ。」
「記憶が戻ってもいないのに。」
「お前が話す過去を。」
「未来が簡単に受け入れられるはずがない。」
真二は。
何も言い返せなかった。
「未来は。」
彬は静かに言った。
「もう、お前が知ってる未来じゃない。」
「……。」
「少なくとも。」
「今の未来は。」
車で待っている。
自分を信じて。
自分が迎えに来るのを待っている。
彬は。
一度だけ。
未来のいる車の方へ視線を向けた。
ここで。
真二と決裂することになっても。
渡したくないものがある。
彬は。
再び真二を見る。
「俺は。」
「未来を手放すつもりはないから。」
「お前……何言ってるんだよ。」
真二の声が低くなる。
けれど。
彬は引かなかった。
「お前は。」
「美香の方がお似合いだ。」
彬は。
真二の目をまっすぐ見た。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
とうとう決裂してしまいましたね。
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