第六十七話 誤魔化せない思い
やがて彬も。
未来の寝息を聞きながら。
二人は、いつの間にか眠りに落ちていった。
――翌朝。
カーテンの隙間から、柔らかな朝日が差し込んでいた。
「……ん。」
未来が、ゆっくりと目を開ける。
そして。
自分のすぐ隣にある温もりに気づく。
「……あ。」
今も彬に抱きしめられるような形で、朝を迎えたことに気づく。
未来は、少しだけ頬を赤くした。
そして、隣で眠る彬の顔を覗き込む。
(……彬の顔って、整ってるな。)
(モテるんだろうな……。)
そんなことを考えながら。
そっと彬の顔に触れようと手を伸ばす。
すると。
その手を、彬が眠ったままのように見えて、そっと絡め取った。
「……未来。」
低く、少し掠れた声。
「おはよう。」
「……おはよう。」
彬は目を開けると、優しく未来を見つめる。
二人の視線が重なる。
一瞬。
どちらも何も言わなかった。
「……よく眠れた?」
彬が尋ねる。
「うん。」
未来は小さく笑う。
「彬が隣にいたからかな。」
「……。」
彬の心臓が、大きく跳ねる。
「そ、そうか。」
「うん。」
未来は布団の中で小さく伸びをする。
「なんだか、今日から一人で寝るのが、ちょっと寂しいかも。」
「……未来。」
「ん?」
彬は一瞬、何かを言いかける。
けれど。
すぐに、いつものように笑った。
「ほら、もう時間だぞ。」
「今日は会社復帰の日だろ。」
「……あ。」
未来が時計を見る。
「本当だ!」
そして、慌てるように布団から出る。
「簡単な朝ごはん食べて、会社に行こう!」
「昨日の残りのスープと、ご飯を温め直すね。」
「未来は、せっかく買った化粧をするんじゃなかったのか?」
「あ……。」
未来が固まる。
彬が、くすっと笑った。
「温めるだけだろ。」
「俺がやるから、支度しておいで。」
「……ありがと。」
未来がベッドから起き上がる。
その背中を見つめながら。
彬もゆっくりと起き上がる。
そして。
部屋を出ようとした未来の背中に、そっと腕を回した。
「……彬?」
「もう少しだけ。」
「……。」
未来は何も言わず、その腕にそっと手を重ねた。
しばらくして。
彬が静かに腕を解く。
「……行こう。」
「うん。」
未来が振り返る。
その笑顔を見た瞬間。
彬は、昨夜の問いをもう一度、胸の奥にしまい込んだ。
――本当の彼女だったら。
そんなことを、考えてしまう。
真二の彼女である未来を。
親友の大切な人である未来を。
それなのに。
自分は今――。
こんなにも未来を好きになっている。
二股をされているから。
未来が記憶を失っているから。
そんな理由で、自分の気持ちを正当化することなんてできない。
それでも。
もう、後戻りできないところまで来てしまっている気がした。
(……俺は。)
(どうしたいんだ。)
答えは、分かっている。
分かっているからこそ。
怖かった。
大学に入ってきた、あの日から。
ずっと。
「……この先も。」
彬は、小さく呟く。
「隣にいたい。」
未来には聞こえないほどの声だった。
けれど。
その想いだけは、もう誤魔化せなかった。
ここまで読んで下さって、ありがとうございます!
次回からガラッと変わって会社での様子にかわります。
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