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曖昧な記憶の、その隣で  作者: はる乃


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第六十ニ話 もしかして

真二は、ここ最近。


何もかもが、上手くいかなかった。


仕事もそうだった。


未来がいなくなってから、思うように回らないことが増えていた。


表向きには、真二の成果だと思われていた仕事。


けれど、その裏では未来が細かなところまで気を配り、先回りして動いてくれていた。


そんなことに、今さら気づかされる。


「……未来。」


思わず名前を呟く。


こんな時になって初めて。


自分がどれだけ未来に支えられていたのかを思い知らされていた。


そして、もう一つ。


どうしても頭から離れないことがある。


未来があんな状態の時に。


どうして自分は、美香の彼氏のふりなんてしてしまったんだろう。


(美香との身体の相性は、確かに良かった。)


それは否定できない。


けれど――。


今になって思えば。


それを理由に、未来が一番苦しんでいる時に美香の側にいた自分が、どうしようもなく卑怯に思えた。


美香は普段、真二に無理なことを言ってくることもなかった。


だからこそ――。


最後に一つだけ、と言われた時。


断りきれなかった。


『それなら最後に、普通の恋人みたいにデートしたり、旅行したりして過ごしたい。』


あの言葉が、今も頭に残っている。


(美香の大切な時間を、一年半も奪ってしまった。)


(それを考えれば……。)


(最後に一度くらい、彼女として扱ってやってもいいと思ってしまった。)


真二は目を伏せる。


(未来は、俺のことを一番に思って、大切にしてくれていた。)


(だから……記憶が戻れば、最初は怒っても、きっと許してくれる。)


そう思っていた。


いや。


そう思いたかっただけなのかもしれない。


けれど――。


今、一番怖いのは別のことだった。


(未来が……。)


(彬を、本当の恋人だと思ってしまうこと。)


記憶が戻らないまま。


彬と一つ屋根の下で過ごしている。


自分が未来の側にいられない時間を、彬が埋めている。


もし、その間に。


未来の中に、彬への情が芽生えてしまったら。


(……そんなこと、あるわけない。)


そう思おうとする。


けれど。


最近の彬の様子を思い出すと、どうしても胸騒ぎがする。


(彬は……。)


(未来を嫌ってるように、今までは見えていた。)


(けど……。)


(未来を好きだから、困らせたり、意地悪なことを言っていただけだったとしたら?)


真二は、ゆっくり息を吐いた。


(俺は……。)


(ライバルに、愛する人を預けたってことになるのか?)


そこまで考えて、すぐに首を振る。


(……いや。)


(彬に限って、そんなことはない。)


そう思いたかった。


怖かった。


いろんな感情が頭の中を駆け巡る。


仕事のこと。


未来のこと。


美香のこと。


そして――。


自分がしてしまったこと。


ここ数日は、まともに眠れていなかった。


そんな時だった。


ふいに。


後ろから甘い香りがした。


「真二。」


振り返ると、美香が立っていた。


「今日、マンションに行ってもいい?」


真二は少しだけ眉を寄せる。


「……どうした、急に。」


美香は少しだけ笑った。


「だって。」


「私、真二の彼女なんだから。」


「会いに行くのは、普通のことじゃない?」


「……。」


真二は何も言えなかった。


美香はそんな真二の表情を見ながら、少しだけ首を傾げる。


「最近、全然会ってくれないし。」


「仕事が忙しいのは分かってるけど……。」


「少しくらい、私との時間を作ってくれてもいいでしょう?」


その言葉に、真二は視線を逸らした。


(……そうだ。)


(美香の言う通りだ。)


今の自分たちは、周囲から見れば恋人同士。


それなのに――。


未来のことばかり考えて、美香との時間を避けている。


「……分かった。」


「今日、来ればいい。」


美香は嬉しそうに微笑んだ。


「本当?」


「ああ。」


「じゃあ、仕事が終わったら行くね。」


そう言って歩き出す美香の背中を見ながら、真二は小さく息を吐いた。


(これでいい。)


(これが、俺が選んだことなんだから。)


そう自分に言い聞かせても。


胸の奥に浮かんだのは――。


彬の隣で笑う、未来の姿だった。


「……未来。」


小さく名前を呟いた。


その声を聞いた美香が、振り返る。


「……何?」


「いや。」


真二は首を横に振った。


「何でもない。」


美香は少しだけ真二を見つめる。


「……そう。」


そう言って、再び歩き出す。


けれど。


その口元に浮かんでいた笑みは、ほんの少しだけ消えていた。

真二の後悔が始まりましたね。


そして未来が仕事を始める頃には、

会社内での美香からの当たりが強そうで心配ですね。


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