第六十一話 女の嫉妬と黒い思惑
真二は、ここ最近明らかに苛立っていた。
その様子を見ながら、美香は小さくため息をつく。
(どうして……。)
(どうして、いつも未来なの?)
美香は昔から、未来が嫌いだった。
未来よりも、自分の方が才能があると思っていた。
人一倍努力もしてきた。
自分を磨くことだって、誰より頑張ってきた。
それなのに――。
高校の頃から。
美香が欲しいと思ったものは、いつも簡単に未来の手に入っていった。
好きだった男の子も。
成績も。
周囲からの信頼も。
高校時代に好きだった人も。
大学時代に好きになった人も。
なぜか、みんな未来を好きになった。
(私は、あんなに頑張ってるのに。)
友達と遊ぶ時間さえ削って勉強した。
自分を綺麗に見せるために努力した。
誰よりも人に好かれるように振る舞おうとした。
それなのに。
いつも未来の方が成績が良かった。
それだけじゃない。
美香が嫌味を言っても、未来は怒ることもなく、控えめに笑っていた。
周囲の空気を読んで、何もなかったように振る舞う。
そんな未来の態度に救われたことだって、何度もあった。
だからこそ――。
余計に腹が立った。
(どうして、そんなに何でも持ってるの?)
そして大学に入り、美香は真二に一目惚れした。
けれど。
真二が見ていたのは、自分ではなかった。
いつも目で追っていたのは未来。
未来が笑えば嬉しそうに笑い。
未来が困れば、誰より先に気づく。
大切に。
壊れ物を扱うように。
そんな真二の視線を、美香はずっと見ていた。
そして――。
真二が大学を卒業してすぐの頃。
仲の良かった大学のサークル仲間で飲み会をした帰り道。
未来が男たちに襲われかけた。
そこへ駆けつけた真二が未来を助けた。
そして、その出来事をきっかけに二人が付き合い始めたと聞いた時。
美香は、この世の終わりのような気持ちになった。
(どうして……。)
(また未来なの?)
けれど。
誰にも言えない秘密があった。
あの事件を仕組んだのは、美香だった。
未来を傷つければ。
真二が自分の方を向いてくれるかもしれない。
そんな歪んだ考えから、未来を襲わせようとした。
なのに――。
皮肉にも、その事件がきっかけで。
真二と未来の距離は、さらに近くなった。
(私が……。)
(私があんなことをしたのに。)
真二は未来を守り。
そして、未来を愛するようになった。
それでも、美香には一つだけ入り込める隙があった。
真二は、未来を大切にしすぎていた。
結婚するまで、未来には手を出さない。
そう決めていた。
だからこそ。
美香は、その隙につけ込むことができた。
「いつまでも二番目でいい。」
「真二の側にいられるだけで幸せだから。」
そう言って。
捨てられそうになった可哀想な女を演じた。
そして――。
結婚まで決まっていた真二から別れ話をされた時も。
泣いて。
縋って。
「それなら最後に、普通の恋人みたいにデートしたり、旅行したりして過ごしたい。」
「それさえ叶えてくれるなら、未来には絶対にバラしたりしない。」
「未来は私にとっても親友なんだから……。」
そう訴えた。
その姿を見て、真二は完全には突き放せなかった。
だから今。
未来が記憶を失っている間だけ。
美香には、まだ入り込む余地がある。
(こんな形で、私の夢を叶えてくれるとは思ってなかったけど……。)
(未来から、真二を奪ってみせる。)
美香は、苛立ったように拳を握りしめた。
けれど、ふと――。
最近の彬の様子を思い出す。
未来を見る目。
未来を守ろうとする姿。
以前の彬とは、明らかに違っていた。
(……前から、未来を好きなのは分かってた。)
美香の口元に、ほんの少し笑みが浮かぶ。
(彬も……。)
(真二から未来を奪い取ることにしたのかしら。)
それなら――。
都合がいい。
もし未来が記憶を取り戻して、真二のもとへ戻ろうとしたとしても。
その時、彬が未来を手放さなければ。
二人の間には、必ず亀裂が生まれる。
(未来。)
(今まで欲しいものを、何でも手に入れてきたあなた。)
(好きな人も。)
(成績も。)
(周りからの信頼も。)
(私がどれだけ頑張っても、いつもあなたの方が先に手に入れてきた。)
美香は静かに笑う。
(だから今度は――。)
(大切なものを失う苦しみを、あなたも味わえばいい。)
そして、真二へ視線を戻す。
(真二は、私のもの。)
(未来には……彬がお似合いよ。)
それが、美香にとって都合のいい未来だった。
――少なくとも、今は。
現時点を整理すると、
美香は「彬が未来を奪う」と思っている。
彬は「未来を真二に返さなければ」と思っている。
真二は「彬に任せておけば大丈夫」と思っている。
そして未来だけが、誰も想定していない感情を持ち始めている。と言う形になっています。
今後、このままの形で行くのかいかないのか。
とても気になりますね。




