第四十七話 鍵のありか
未来は鏡の前で改めて頭を下げた。
「奈緒さん。」
「今日は本当にありがとうございました。」
「新しい自分を知れたみたいで、すごく嬉しいです。」
奈緒は嬉しそうに笑う。
「そう言ってもらえると、美容師冥利に尽きるなぁ。」
未来はバッグから財布を取り出そうとした。
「お会計、お願いします。」
すると、彬がすぐに口を開く。
「未来。」
「俺が勝手に連れてきたんだ。」
「今日は俺に払わせろ。」
未来は慌てて首を横に振る。
「彬さん。」
「その気持ちはすごく嬉しいです。」
「でも、これは私が払います。」
奈緒は健太と顔を見合わせると、にっこり笑った。
「未来ちゃん。」
「今日は私と健太からのお祝い。」
「だから受け取って。」
未来は何度も首を振る。
「それは駄目です。」
「奈緒さんたちは、せっかくお店をオープンされたばかりなんですよね。」
「まだお祝いもできていないのに、私が甘えるわけにはいきません。」
少し照れくさそうに笑って続ける。
「それに……。」
「これからも通いたいんです。」
「だから、お客さんとしてちゃんとお支払いさせてください。」
その一言に、奈緒と健太は思わず顔を見合わせた。
奈緒は小さく笑う。
「未来ちゃんらしいね。」
健太も感心したように頷く。
「だから彬が惚れたんだろうな。」
「健太。」
彬が低い声でたしなめる。
健太は肩をすくめて笑った。
「悪い悪い。」
奈緒はレジに手を添えながら、優しく微笑んだ。
「じゃあ今日は、ちゃんとお客様としていただくね。」
「でも次に来た時は、もっと可愛くしてあげる。」
未来は嬉しそうに笑った。
「はい。」
「またお願いします。」
未来は嬉しそうに財布を開いた。
「では、お支払いしますね。」
その瞬間――。
「あれ……?」
財布の中を見た未来の手が止まる。
「どうしたの?」
奈緒が不思議そうに尋ねる。
未来は財布の中から一本の鍵を取り出した。
小さなキーホルダーが付いた、見慣れた部屋の鍵。
「家の鍵……。」
「えっ?」
何度も鍵と財布の中を見比べる。
「どうしたの?」
「この鍵……。」
「なくしたと思ってたんです。」
未来は首をかしげた。
「でも、お財布に入れる習慣なんてなかった気がして……。」
「私、自分で入れたのかな。」
奈緒は安心したように微笑む。
「見つかって良かったじゃない。」
未来はその言葉に、小さく笑おうとする。
けれど、その笑顔はどこかぎこちなかった。
「……そう、ですよね。」
「これで家にも入れます。」
そう答えながらも、胸の奥には小さな不安が残る。
(また……。)
(私の知らない私がいる。)
記憶を失った現実を、改めて突きつけられたような気がした。
その様子を少し離れた場所から見ていた彬は、小さく息をつく。
(よかった。)
(上手くいった。)
未来は不思議そうに鍵を握りしめる。
「なんでお財布なんかに……。」
「でも、見つかって本当に良かった。」
彬は何事もなかったように視線を逸らした。
その表情はいつもと変わらない。
けれど胸の奥では、未来が安心して鍵を握る姿を見て、静かに安堵していた。
私の知らない私が居るって、少し不安になりますよね。
そんな未来の少しの違和感から、
記憶が戻ってくるのか、来ないのか。
続きも楽しみにしていて下さい!




