第四十三話 嘘だけど実った恋こころ
ドアが開く。
カラン、とベルが鳴る。
「いらっしゃい!」
店の奥から奈緒が笑顔で駆け寄ってきた。
「彬!待ってたよ!」
その声に、奥から男性も顔を出す。
「おっ、来た来た。」
健太だった。
彬を見るなり笑顔を浮かべる。
「久しぶりだな。」
そして、その隣に立つ未来へ目を向ける。
「おっ!」
「珍しいな。可愛い子なんか連れてきて。」
未来は少し照れながら頭を下げた。
「こんにちは。」
その後ろから覗き込んだ奈緒が、未来の顔を見た瞬間――息をのむ。
「えっ……。」
「未来ちゃん!?」
目を丸くしたまま、次の瞬間には満面の笑みになった。
「彬!」
「やっと告白したの!?」
「いつから付き合ってるの?」
「もう、めちゃくちゃ嬉しいんだけど!」
健太も奈緒の言葉を聞いて、吹き出すように笑う。
「なるほどな。」
「何人紹介しようとしても断るわけだ。」
「『大学の後輩で好きな子がいる。』」
「『だから紹介はいらない。』」
「毎回それしか言わなかったもんな。」
「やっと実ったのか。」
未来はきょとんと二人を見比べた。
「え……?」
彬は額に手を当て、小さくため息をつく。
「……余計なこと言うな。」
その一言で、奈緒と健太は顔を見合わせた。
何か様子がおかしい。
二人とも笑顔を収め、彬へ視線を向ける。
彬は静かに口を開いた。
「未来は先週、事故に遭った。」
「頭と足を怪我して。」
「ここ二年くらいの記憶が飛んでる。」
店内の空気が一瞬で変わる。
奈緒も健太も、言葉を失った。
「……そうだったのか。」
健太が静かに呟く。
彬は小さく頷いた。
「だから昔の話は聞かないでやってくれ。」
「今日は髪を切りに来ただけだ。」
奈緒はすぐに表情を切り替え、未来へ優しく微笑んだ。
「分かった。」
「じゃあ今日は全部忘れて。」
「可愛くなることだけ考えよう。」
未来はほっとしたように笑う。
「よろしくお願いします。」
美容室での何気ない会話が、未来の記憶だけでなく、彬自身の気持ちにも少しずつ変化を与えていく予定です。
また続きを楽しみにしていただけたら嬉しいです。




