第三十二話 優しい気遣い
しばらくすると、真二と美香が注文した料理が先に運ばれてきた。
「お待たせしました。タラコパスタとマルゲリータピザです。」
「ありがとうございます。」
美香は取り皿を受け取り、真二とピザを分け合いながら食べ始める。
その様子を見て、未来はメニューを閉じながら笑った。
「デザートも美味しそうですね。」
「季節限定の桃パフェだって。」
「食べられるかな……。」
彬はメニューをちらりと見て、呆れたように息をつく。
「お前は。」
「食い意地だけは張ってるからな。」
「えぇ!?」
未来は思わず頬を膨らませた。
「失礼ですよ!」
「昨日も腹鳴らしてただろ。」
「あれは……事故の後でお腹が空いてただけです!」
「同じことだ。」
彬の口元が、わずかに緩む。
「食えるってことは元気な証拠だ。」
未来も照れ笑いを浮かべた。
「……そういうことにしておきます。」
二人の他愛ないやり取りを見つめながら、真二は静かにコーヒーカップへ手を伸ばす。
(……なんだ。)
胸の奥に、小さな引っ掛かりが残る。
その頃、店員が料理を運んできた。
「お待たせしました。ビーガンライスボウルと、季節野菜のピザ、フィッシュアンドチップスです。」
「ありがとうございます。」
料理が並ぶと、彬は慣れた手つきで取り皿を手に取る。
ライスボウルを取り分け、ピザを切り分ける。
フィッシュアンドチップスも食べやすいように未来の皿へ取り分けた。
「はい。」
「あ……ありがとうございます。」
未来が皿を受け取ろうとすると、彬は静かに首を振る。
「足、まだ痛むだろ。」
「無理して動くな。」
「……うん。」
未来は素直に頷き、小さく「いただきます」と手を合わせた。
その光景に、真二の手が止まる。
(……なんだ、この違和感。)
彬は未来を気遣っているだけだ。
俺が頼んだから。
恋人のふりをしてくれているだけ。
そう分かっている。
それなのに。
二人の空気は、不自然なほど自然だった。
まるで最初から、恋人だったかのように。
(いや、大丈夫だ。)
(記憶が戻れば、全部終わる。)
(未来は俺の婚約者だ。)
(彬は、俺が一番信頼してる男なんだから。)
何度もそう言い聞かせる。
だが胸の奥に芽生えた小さなざわめきだけは、どうしても消えてはくれなかった。
「彬は、俺が一番信頼してる男なんだから。」
真二が彬を全く疑っていないけど、
今後どうなっていくのでしょう。




