第二十六話 優しすぎるから
彬は家の前で足を止めた。
こんな時間に、誰かが自分の帰りを待っている。
そんなことがあったのは、いつ以来だろう。
大学に入って実家を出てからは、
一人で暮らしてきた。
遊び相手はいても、
誰かと真剣に向き合ったことはない。
「おかえり。」
そう言って迎えてくれる相手もいなかった。
小さく息を吐き、玄関のドアを開ける。
すると。
「先輩!」
リビングではなく、玄関に未来がちょこんと座っていた。
「……どうした。」
未来はほっとしたように笑う。
「よかった。」
「帰ってくるの遅かったから、何かあったのかなって心配で……。」
彬は少し呆れたように眉をひそめる。
「怪我人が心配することじゃない。」
未来は申し訳なさそうに笑った。
「でも、私が事故に遭ってから、先輩も仕事に集中できてないんじゃないかなって。」
「電話も長かったし……何か仕事でトラブルでもあったんですか?」
「私でできることがあれば手伝わせてください。」
「休職してる間だけでも。」
「記憶がないから、どこまで役に立てるか分からないですけど……。」
彬は思わず苦笑する。
「……お前らしいな。」
「え?」
「普通は自分の心配をする。」
「なのに、お前は人のことばっかりだ。」
未来は照れくさそうに笑った。
「えぇ?そうですか?」
その問いに、彬は少しだけ目を細める。
「ああ。」
「変わってない。」
それだけ答えると、未来はどこか安心したように微笑んだ。
その笑顔を見た彬は胸の奥が締め付けられる。
(だから真二は、お前の優しさにつけ込んで
甘え続けてるんだよ。)
その言葉だけは、飲み込んだ。
彬は未来が悪いんじゃない。
優しすぎるから利用されてしまう!と気付いていて、
今後、どうしていくのでしょう。




