第二十二話 思い出の写真
「……どうだ?」
彬がパスタを一口運ぶ未来を見つめる。
未来は真剣な顔で何度か頷き、
「美味しいです。」
と言ったあと、少し首をかしげた。
「でも……。」
「ん?」
「先輩。」
「塩加減がちょっと足りません。」
一瞬の沈黙。
彬は呆れたように笑う。
「お前なぁ。」
「作ってもらっといて、ダメ出しかよ。」
未来は慌てて両手を振る。
「ち、違います!」
「すごく美味しいです!」
「あと一つまみで、もっと美味しくなるかなって……。」
「注文の多い味見係だな。」
「えへへ。」
未来は照れ笑いを浮かべる。
彬は小さく笑いながら塩をひとつまみ加えた。
「これでどうだ。」
もう一度味見をした未来は、ぱっと笑顔になる。
「美味しい!」
「最初からそう言え。」
食卓には、穏やかな笑い声が流れた。
食後、彬はコーヒーを淹れながら思い出したように口を開く。
「そうだ。」
「明日、携帯買いに行くぞ。」
未来はきょとんとする。
「携帯?」
「ああ。」
「真二が修理には出してくれたらしい。」
「でも、水没と衝撃でデータの復旧は難しいって連絡があった。」
未来の表情が少し曇る。
「そっか……。」
「携帯の写真を見たら、何か思い出せるかなって期待してたんだけど。」
少し間を置いて、未来は彬を見た。
「先輩の携帯には……。」
「私との写真、ありませんか?」
その言葉に、彬の動きが止まる。
本当は、一枚もない。
未来と二人で写真を撮るような関係ではなかった。
ほんの数秒の沈黙。
彬は静かにコーヒーカップを置いた。
「……俺は写真が嫌いなんだ。」
「だから、ほとんど撮らない。」
未来は少し残念そうに笑う。
「そうだったんですね。」
「残念だなぁ。」
「先輩との思い出、見てみたかったです。」
その無邪気な一言に、彬は胸が締めつけられる。
(悪い……。)
本当は。
思い出がないんじゃない。
残せる思い出が、一つもなかっただけなんだ。
この一言だけで、彬がどれだけ未来を遠くから見守ってきたのかが伝わりますし、後で二人が本当に写真を撮るような関係になったら、余計切なく感じてしまうかもしれませんね。




