第十九話 罪悪感
数日後――。
「今日で退院ですね。」
医師はカルテを閉じると、未来へ穏やかな視線を向けた。
「退院はできますが、まだ無理は禁物です。」
「少なくとも二週間ほどは、お一人での生活は避けてください。ご家族や頼れる方と過ごすことをおすすめします。」
未来は困ったように笑った。
「実家は遠方で……父も仕事がありますし、あまり頼れなくて。」
「そうですか……。」
医師が言葉を選ぶように視線を巡らせた、その時だった。
「俺のところへ来い。」
静かな声に、その場の全員が彬を見る。
「部屋なら余ってる。」
「バリアフリーだし、仕事部屋もある。」
「リハビリが終わるまでなら面倒くらい見られる。」
未来は驚いたように目を丸くした。
「でも、ご迷惑じゃ……。」
「今さらだ。」
彬はぶっきらぼうに肩をすくめる。
「恋人だろ。」
その一言に、未来は頬を赤く染めた。
「……よろしくお願いします。」
彬は照れ隠しのように咳払いをする。
「礼は回復してから聞く。」
未来は思わず笑った。
「はい。」
看護師から荷物を受け取り、未来は病院のスタッフへ深く頭を下げる。
「お世話になりました。」
病院の玄関を出ると、初夏の柔らかな風が頬を撫でた。
久しぶりの外の空気に、未来は気持ちよさそうに目を細める。
歩きながら、ふと思い出したように口を開いた。
「そういえば……。」
彬は歩幅を合わせながら頷く。
「ああ。」
「真二先輩も、美香はどうしてるかな?」
その名前に、彬の足がほんのわずかに止まる。
「……仕事してるだろ。」
短く、それだけ答えた。
本当は違う。
今日は休日。
真二は美香と約束があることを、彬は知っている。
未来は何も疑わず、小さく笑った。
「そっか。」
「社長ですもんね。忙しいですよね。」
その笑顔が眩しくて。
彬は何も言えなかった。
(……悪い。)
心の中で誰にも届かない謝罪をしながら、
静かに歩き続けた。
ここから、真二のダークな部分が出てくる展開になります!
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