第十八話 優しくなんかない
未来は少し照れくさそうに笑った。
「この二年間は、ちゃんと接してくれてたんですね?」
その無邪気な一言に、彬は固まる。
(……勘弁してくれ。)
本当は。
その二年間、一番近くにいたのは真二だった。
俺は遠くから見守ることしかできなかった。
それなのに今、未来は何の疑いもなく俺に笑いかけている。
「……まあな。」
胸の奥が痛むのを隠すように、彬は短く答えた。
未来は安心したように微笑んだ。
「よかった。」
「大学の頃の先輩しか覚えてないから、少し怖かったんです。」
その笑顔に、彬は何も言えなかった。
しばらく二人で風に揺れる木々を眺める。
静かな時間だった。
未来がぽつりと口を開く。
「でも、不思議です。」
「何がだ?」
「先輩の隣は居心地が良くて安心します。」
彬の肩がぴくりと動く。
「覚えてないはずなのに……。」
「こうして一緒にいるのが、すごく自然な気がして。」
彬は小さく苦笑した。
「……。」
言いかけて、言葉を飲み込む。
“お前が誰よりも心を寄せた相手は、本当は俺じゃない。”
その言葉は、胸の奥へ押し込めた。
未来は空を見上げる。
「記憶って、不思議ですね。」
「思い出せないのに、心だけが覚えてることってあるのかな。」
その何気ない一言が、彬の胸を締めつけた。
(違う……。)
(お前の心が覚えてるのは、俺じゃない。)
そんなことを思ってしまう自分が嫌になる。
その時だった。
未来のお腹が、小さく鳴った。
「……。」
「……。」
二人は顔を見合わせる。
未来は耳まで真っ赤になった。
「き、聞こえました?」
「盛大にな。」
「もうっ!」
未来は恥ずかしそうに顔を隠した。
彬は思わず吹き出す。
「笑わないでください!」
「悪い。」
「病院のご飯、すぐお腹空いちゃうんです。」
彬は立ち上がった。
「待ってろ。」
「え?」
「売店で何か買ってくる。」
「でも……。」
「医者に怒られない程度のやつな。」
そう言って歩き出す彬の背中を見送りながら、
未来はふっと笑った。
「黒沼先輩は優しいんですね。」
その言葉を背中で聞いた彬は、小さく目を閉じる。
「……優しくなんかない。」
誰にも聞こえないほど小さな声で、そう呟いた。
なんとも切ないですよね。
複雑な2人の展開を今後も応援して貰えると嬉しいです!




