第十五話 初めての温もり
未来はしばらく俯いたままだった。
やがて、小さく息を吐く。
「……ありがとうございます。」
「え?」
「私。」
「目が覚めた時から、ずっと怖かったんです。」
「二年間も覚えていないなんて。」
未来はそっと彬の手を握った。
「……ありがとうございます。」
「黒沼先輩がいてくれて、少し安心しました。」
その笑顔は、どこまでも無防備だった。
彬は握られた手を見つめる。
こんなふうに未来から触れられたことなど、
一度もなかった。
胸の奥が熱くなる。
「私。」
「ちゃんと思い出せるように頑張ります。
先輩と付き合ったキッカケとか、
どんな所が好きだったのかとか。」
「こんな私ですが、よろしくお願いします。」
未来は照れくさそうに笑った。
その笑顔を見ていると、胸の奥に押し込めていた感情が、不意にあふれそうになる。
「……未来。」
気づけば、彬は未来の前に立っていた。
未来が不思議そうに見上げる。
次の瞬間。
彬は未来の額へ、そっと唇を触れさせた。
ほんの一瞬。
触れるだけの優しいキス。
「……え?」
未来は目を丸くする。
彬自身も、何をしたのか理解できずに固まった。
(俺は……何をしてる。)
我に返ったように一歩下がる。
「悪い。」
ぶっきらぼうにそう言い残すと、視線を逸らした。
「今日はもう休め。」
「また……明日来る。」
それだけ言って背を向ける。
病室を出た瞬間、彬は額に手を当て、小さくため息をついた。
「……参ったな。」
自分でも、あんなことをするつもりはなかった。
ただ――。
無防備に笑う未来を見た瞬間、
守りたいという気持ちが、理性より先に動いてしまったのだった。
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