第十三話 思い出さなくて大丈夫
真二は腕時計に目を落とし、小さく息をついた。
「もう遅い時間だな。」
そう言って美香へ視線を向ける。
「俺たちは、そろそろ帰るよ。」
それから彬を見る。
「彬はどうする?」
彬は未来へ目を向けた。
「俺は……少し未来と話してから帰る。」
真二は安心したように笑う。
「悪いな。」
「じゃあ、頼んだ。」
そう言って病室を出ようとした真二は、ふと思い出したように振り返った。
「未来。」
「はい?」
真二はベッドのそばまで歩み寄る。
「先生の話、聞いただろ?」
「記憶のことは、焦らなくていい。」
「思い出そうと無理しなくても大丈夫だ。」
未来は不安そうに頷く。
「……でも。」
「みんなのことを忘れちゃってるなんて……。」
真二は優しく笑った。
「思い出せなくてもいい。」
「これからまた、新しい思い出を作っていけばいいんだから。」
そう言って、未来の手にそっと自分の手を重ねようとした。
しかし、その瞬間――。
「真二。」
低い声が病室に響く。
彬だった。
真二の手が止まる。
「……。」
彬は真二をまっすぐ見つめる。
「帰るんだろ。」
短い一言だった。
その意味を察した真二は、小さく笑って手を引っ込めた。
「そうだったな。」
「じゃあ、また来る。」
そう言い残し、美香とともに病室を後にした。
ドアが静かに閉まる。
病室には、彬と未来だけが残った。
読んで下さって、ありがとうございます。
少しづつ物語が進み始めています。
ブクマやリアクションして貰えると励みになりますので
宜しくお願い致します。




