第十一話 嘘の始まり
病室のドアが開いた。
「お待たせしました。」
未来が看護師とともに戻ってくる。
「検査はどうだった?」
真二がいつも通りの笑顔を作る。
未来は困ったように笑った。
「先生に聞いたんですけど……。」
「私、この二年くらいの記憶がないみたいなんです。」
ベッドへ腰掛ける未来。
不安そうに三人を見つめる。
「私、この二年間……何をしてたんですか?」
「就職は?」
「みんなとは、どういう関係だったんですか?」
誰もすぐには答えられなかった。
耐え切れなくなった真二が口を開く。
「未来。」
「落ち着いて聞いてくれ。」
未来は小さく頷く。
「お前は卒業してから、俺の会社で働いてる。」
「えっ?」
未来は驚いたように目を丸くする。
「私が……真二先輩の会社に?」
「ああ。」
「それから……。」
真二は一瞬だけ彬を見る。
「お前は、黒沼と付き合ってる。」
未来は固まった。
ゆっくりと彬へ視線を向ける。
「……え?」
「私が……黒沼先輩と?」
「ああ。」
真二は迷いなく頷いた。
「付き合って、もう二年になる。」
未来は何度も瞬きを繰り返した。
「でも……。」
「黒沼先輩って、私のこと嫌いでしたよね?」
「大学の頃、会うたびに嫌味ばっかり言われてたし……。」
「そんな私たちが、本当に付き合ってるんですか?」
病室が静まり返る。
未来は不安そうに彬を見つめる。
「黒沼先輩……。」
「本当なんですか?」
彬は答えられなかった。
否定すれば未来は混乱する。
肯定すれば未来を騙すことになる。
ゆっくりと目を閉じ、小さく息を吐く。
「……ああ。」
その一言だけが精一杯だった。
未来は少し照れたように笑う。
「そっか……。」
「なんだか全然思い出せないです。」
「ごめんなさい。」
彬は静かに首を振る。
「謝るな。」
「事故なんだから、お前は悪くない。」
未来はほっとしたように微笑んだ。
「ありがとうございます。」
その笑顔を見た彬は胸が締め付けられる。
(悪い。)
(本当に悪い。)
心の中で何度も謝ることしかできなかった。
その様子を見ていた真二は、どこか安心したように息を吐いた。
嘘によって、今まで築かれていた関係が変わっていってしまいます。
4人が、それぞれ。




