イレギュラー
気が付いたら俺たちは見渡す限り黄金色に輝く稲穂畑の中にいた。
「ここは……」
「召喚術の奥義に位置する技だろうです」
デュラハンが混乱する俺に説明をしてくれた。
召喚?
幻覚とか幻術とかじゃなくてこれが召喚のスキルなのか?
「意味が分からない」
「私も説明されましたけど全然でした」
「まぁだろうな」
腰の高さまである頭を下げた稲穂を一つ手に取ってみた。
「本物のようだ」
「すべては偽物・紛い物でありんすよ」
猫の獣人が俺たちの方に歩み寄ってきた。
「心象風景の具現化であるんすが、やはり詠唱が長すぎるのが厄介なところでありんす」
「心象風景。これはお前が思い描いた世界ってことか?」
「少し正解でありんす。……これですべて終わりであるんすよ」
どういうことだ?
「ぎゃあああああああーーーーーー!!」
そう質問する前に原型を失った九尾が悲鳴を上げてどこに逃げて行く。
「どうしたんだ?」
「大将はこの世界をどう感じるでありんすか?」
「ん? きれいな稲穂畑だな」
地平線まで稲穂畑だ。
一度でいいからこういう風景を見たかったんだよな。
「心象風景の具現化とは言いなんしたが、皆が同じ風景を見てはいないでありんす」
「え? そうなのか?」
俺の驚いた表情にしてやったりと笑顔になる猫の獣人。
「わらわには満月がキレイな夜でありんす」
夜?
「俺は夕方だぞ?」
「それぞれの見たい風景が見えるでありんす」
なるほど?
理屈が分からないがそういうスキルなのだと理解しておこう。
「それであいつは何を見ているんだ?」
「おそらく見たかった世界を見ているのありんす」
何でそれであんなに絶叫をしながら逃げているんだ?
「悪霊が満たされれば成仏してしまうからでありんすよ。母さんにはこの世界は悪夢そのものでありんす」
優しさなのだろうな。
最後に満たされて成仏してほしいと思ってこのスキルを使ったのだろう。
「ん?」
何かかから逃げている九尾がいきなり動きを止めた。
肉塊の身体が液体のように溶けてしまった。
「何だ?」
「それでもあらがうんでありんすな」
「え?」
あらがう?
「母さんは肉体を崩壊させこの世界と自身を融合しようとしているでありんす」
「さすがに化け物過ぎるだろ」
「気が付ておると思うのだが、わらわ達のように強い獣人はたくさんいたでありんす」
「お前ら以外は融合されたか」
「そうでありんす」
それがあの姿か。
「それであの狐は倒せるのか?」
「所有権が移る前にここを破壊すればいいでありんす」
そう言うと指を鳴らす。
その瞬間、世界が崩落し始める。
手に持っていた稲穂もいつの間にか消えていた。
そして元居た場所に戻った。
周囲にあの化け物はいない。
『モンスターを倒しました』
『経験値を取得しました』
『レベルが上昇しました』
『レベルが上昇しました』
『レベルが上昇しました』
……etc
レベルアップのアナウンスが行われたってことは彼女は死んだのだな。
「あっけない最後だな」
もう少し戦闘があると思ったのだけど。
『警告。新種の魔物の出現を確認』
今まで一度も行われなかったアナウンスがされた。
その瞬間、空間に亀裂が入った。
斜めに入ったその亀裂は徐々に放射線へと伸びていく。
そしてその亀裂から腕が飛び出し、強引に亀裂を引き裂いた。
『イレギュラー発生。空間亀裂が発生。このダンジョンは1時間後に閉鎖されます』
マジかよ!?
いや、でも大丈夫だ。
俺には移動スキルがあるからもしもの時は逃げる事は可能だ。
『イレギュラー排除の為、ダンジョンの外に出るスキルに制限がかかります』
「ふざけんな!」
何でこっちが迷惑を掛られなきゃいけないんだ!
そんなこんなをしていると亀裂から一人の女性が現れた。
「私を殺すとは随分と親不孝な娘と息子だ。躾が必要だな」
先ほど殺したと思われた九尾だった。
だが、残念ならが元の彼女ではない。
人の特性を無くし、顔は完全に動物となっていた。
全身が黒く変色していて綺麗だった尻尾の毛はボロボロだ。
「貴様らは皆殺しだーー!!」
咆哮のような大声を放つ彼女からはとても勝てるよに思えない魔力とオーラが沸き上がっている。
「全員で行くぞ!」
「「「はっ!」」」
もう楽になって良いだろうに。




