再戦・決着
セバスが腕が6本ある化け物と対峙している。
「あなた達は何位なのかしら?」
九尾の獣人は優雅に尻尾を靡かせて俺に質問をしてきた。
「ランキングには乗ってはいない」
「ほう。それでその強さか。興味深いな」
笑みを深めた彼女は不気味な雰囲気がある。
整った顔をしているのに、とても怖いのだ。
「よかろう。仲間にしてやっても良いぞ?」
「断る。俺たちがここに居るのはお前たちを殺すためだ」
「残念だ」
残念そうな顔をしていない。
むしろ笑みが零れている。
対峙して分かる。
このボスは仲間に出来ない。
可能なら戦力状況の為に仲間にしようとしたが、根本が違い過ぎる。
彼女は生き物として動物としての本能が強く、理性は飾りでしかない。
欲求に忠実で何を犠牲にしても自分を優先する。
ここまで分かるのは俺の『テイマー』と『使役者』のレベルが上がったのと、彼女に隠す気が無いってことだ。
「行け。お前の実力を見せてやれ」
腕が6本ある化け物が前に出た。
「私の出番ですか」
優雅に歩き、化け物と対峙するセバス。
まるで野原を散歩しているかと錯覚するほど清々しい空気を纏っている。
「お名前は?」
セバスチが化け物に名を訪ねた。
「名などありはしない。そもそも声を出すことも出来はしない」
「そうでしたか」
九尾の獣人が代わりに答え、その返答に納得したように思えるセバスは彼女に一礼をした。
「お前も私の仲間になる気はないか?」
「私の主様は彼以外あり得ません」
「フフフ。そうか」
分かりました。
とか言って裏切られたらマジで死ぬけど良かった。
「その男を殺せ」
彼女がそう言うと化け物が動き出す。
6本の腕全てに武器を出現させた。
鎧も装着し、完全武装状態だ。
セバスは何もしない。
優雅に立つのみ。
「来なさい。ワルツを楽しみましょうか」
化け物はセバスに肉薄し、腕を器用に動かし連続攻撃を行う。
熟練度が相当高くないと、6本の腕をあそこまで動かすことはできない。
人間でさえ2本の腕を完全に使いこなせているかと問われれば怪しいところだ。
そんな猛攻をセバスは踊るように避けている。
ステップを刻み、ジャンプやターンを華麗に決めて楽しんでいるようにも見えるほどだ。
「全力で向かってきなさい」
挑発気味に九尾に対し声をかけたセバス。
「よかろう。全力でそいつを殺せ」
化け物は一旦、セバスから距離を取った。
そして全身かモヤが出始めた。
「オーラか?」
「いえ、闘気の部類だと思います」
俺の疑問をすぐさま解決してくれたセバス。
化け物はモヤを更に出して再びセバスに肉薄した。
1撃目の上段からの振り下ろしを華麗に避けるセバズ。
だが、その振り下ろした武器が地面に触れると地面が割れた。
「おっと」
衝撃が俺に向かって飛んできたが、避けて躱した。
衝撃は壁にぶつかり、壁には綺麗な斬撃の跡が残っていた。
「威力は高いですが、スピードがその程度では」
確かにそうだな。
俺でさえ見てから避けられるほどの遅さだ。
セバスならワルツを踊れるか。
「下がれ」
セバスが攻勢に出る前に九尾の獣人が化け物を下げた。
「なるほどのう。攻撃だけを重視し過ぎたか。やはりバランスが重要と言うことだな」
スタスタと化け物に近づく彼女は手の平を化け物に向けた。
「作り直しだな」
化け物が彼女に吸収されたのだ。
「良い素体もいる事だし、次は良いのが作れそうだ」
真打登場と言わんばかりに彼女の身体からオーラが漏れ出した。
――――――――――――― 香奈 視点
互いに決め手に欠ける状況。
だが、優位性は私に傾きかけている。
「ハァハァハァ……」
彼のスタミナの底が見えだしたからだ。
「休む時間は与えないよ。秘剣『八岐大蛇』」
武器を8本空中に投げた。
武器はそれぞれの属性の魔法を纏い、まとまって8つの頭を持った巨大な蛇の形に形成される。
8本の頭はそれぞが別々の動きをして彼を攻撃する。
この技は速さが足りないけど威力は高い。
彼のトップスピードでは簡単に避けられてしまうけど、ダメージと疲労を蓄積した今なら捕らえられる。
「負けてたまるかー!!」
その咆哮は空気を強く振動させた。
気合と意思の籠ったその咆哮にはまだそんな体力が残っていたのかと思えるほどの力が込められていた。
一度戦ったから分かる。
一瞬でも気を抜いたら彼の牙は私の首を簡単に噛み切ることを。
優位であることは必ずしもプラスに作用するとは限らない。
決めきれずに戦闘を続けさせられたら今度は私が劣勢になる。
無限に魔力が続くはずがないからだ。
私は攻め続けなくてはいけない。
「なめるなー!」
刀身が依り代になっていることを看破してすぐさま破壊し始める。
八岐大蛇が瞬く間に破壊されてしまった。
だが、彼の戦闘スタイルは接近戦。
依り代を破壊するためには多少なりとも魔法にさらされなくてはいけない。
彼の拳はもう使い物にならないだろう。
今度は足を止める。
刀を何本も取り出し、彼に対して投げる。
彼は器用に避ける。
とても満身創痍とは思えないほどの身体のキレだ。
そんな中、一本の刀が地面に刺さると彼の動きが縫い付けられたようにその場に固定された。
「なに!?」
彼も動きを止められるとは思っていないようで、驚きの表情を浮かべていた。
「秘剣『影縫い』」
彼の動きが止まるやいなや、私は新しい刀を取り出して構えに入っていた。
「ま、まず……」
彼の言葉は最後まで発せられることはなかった。
「秘剣『煌軌螺羅』
防御を一切考えずにただ攻撃のみに全身神経を傾ける、一歩間違えば優勢は逆転されかねない大技。
彼の首は完全に飛んだ。
『モンスターを倒しました』
『経験値が入りました』
『レベルが入りました』
『レベルが入りました』
『レベルが入りました』
『レベルが入りました』
『レベルが入りました』
『レベルが入りました』
経験値が入ったってことは彼を倒すことが出来たってことだ。
私は全身の力が抜けてその場に倒れる。
ギリギリだった。
魔力も体力もオーラもすべてがギリギリだった。
オーラは秘剣を使う際に大量に使用し、同時に体力を消費する。
魔力は言わずもがな、大量に消費した。
戦闘中に回復薬を飲んでいなかったら煌軌螺羅を使うことが出来なった。
「でも、勝てた……」
その事を実感すると涙が溢れてきた。
何の涙か分からないけど、止めどなく溢れるそれはしばらく止むことはなかった。




