翔
デュラハンと別れてしばらくして新たな敵と対峙した。
「めんどくせ~。あの猫娘、敵をスルーしやがって」
猿の獣人であり、身長がライオンの獣人よりも高い。
だが身体の線が細いのでひょろ長い印象を受ける。
「ここは俺ですかね」
そう言って翔が前に出た。
敵の強さはライオンの獣人以上だ。
「まとめて相手してやるよ」
そう言うと体毛を毟り、息を吹きかけばら撒いた。
「スキル『従者創造』」
広い部屋に20~30の小さな猿が現れた。
「『威圧』」
翔は全身から威圧を放った。
すると小さな猿たちが泡を吹いて気を失い、煙となって消えてしまった。
「めんどくせ~な」
「誉め言葉として受け取っておきます」
翔の顔つきが変わっている。
爽やかな笑みを浮かべた優しそうな顔ではなく、威圧する如く鋭い視線を相手にぶつけている。
彼から放たれる緊張感は隙を一切含まず、味方のはずの俺でさえ少し怖さを感じるほどだ。
「……他の奴らは先に進んで良いぜ。めんどくせーし」
「さっきまとめて戦うって言ってなかったか?」
「言うなよ、めんどくせ~」
俺と話しているのに視線を翔から一切外さない。
警戒しているのか。
「行ってください」
「……分かった」
俺とセバスチャンは警戒して猿の獣人の横を通り過ぎる。
何もされることはなく、先に進めた。
―――――――――――――― 翔 視点
この獣人、隙が無いな。
「お前、分かってんのか?」
二人の姿が見えなくなったころに話をかけてきた。
「何がですか?」
「お前じゃ俺には勝てないってことだよ」
「まぁそんなところでしょうね」
かなり強くなったと言っても僕は香奈さんよりも弱い。
この猿の獣人はあのライオンの獣人よりも強い。
おそらく僕は勝てない。
「何で勝てない相手に挑む? あの若い奴なら俺に勝てそうだったのに」
おそらくセバスさんを言ってるんだろうな。
「これからはこんな戦いばっかりだと思ったからですよ」
俺たちは弱い。
黒井沢さんが良く言う言葉だ。
俺はそんなことは無いと思っていた。
けど、弱かった。
力もそうだけど、心が依然とまったく変わっていなかった。
勇者になっても俺は俺だった。
そのことがかなり悔しかった。
根暗で世界を斜に見ていてそれがカッコイイとか思っている自分に。
俺は周りの連中とは違うとか思って心の中で下に見ていた自分に。
確かに周りに連中とは違っていたよ。
俺が下で周りの連中が上だったってこと以外は。
世界が変わって勇者の職業になった俺はこの世界の主人公は自分なのだと錯覚した。
馬鹿な話だ。
与えられた力を自分の力だと錯覚したんだから。
香奈さんが死にかけた時、俺は自分の過ちに気が付いた。
俺は何も強くなっていなかった。
強烈な虚無感が俺を襲った。
俺は一体今まで何をやっていたのか、どう生きていたのか全く分からなくなった。
自分とは、力とは、勇者とは、この世界とは。
考えれば考える程自分の底の浅さに呆れた。
戦う意思が折れかけてしまった。
そんな時にデュラハンさんが良く分からないけど励ましてくれた。
『翔くんは翔くんで良いんですよ。本人は本人にしかなれず、他人にはなれないんですからね!』
自分、良いこと言いましたよね?
って感じの顔が非常にイラっとしかけど、その通りだと思った。
いろいろ考えていたのが吹っ切れた。
心の弱い俺に勇者は憧れに等しい。
俺にとって勇者とは誰にも負けない強い存在だ。
だったらそれを目指そうと思った。
俺の勇者。
勇者の俺。
決して諦めない勇者になろうと俺は再び戦う意思を固めた。
俺は決して主人公ではないけど、脇役を認める訳にはいかない。
一人になっても戦う意思を。
勇者なら強者に勝ってこそ勇者だろう。
「あなたに勝ちます」
「めんどくせ~な」
猿の獣人はどこから出したか分からないけど、こん棒を構えた。
「孫悟空かよ」
こん棒をまるで生き物ように操る様はそれだけで彼の戦闘力の高さが伺える。
まずは小手調べだ。
「魔法剣!」
剣に炎を纏わせ、相手にぶつけた。
「めんどくせ~な」
避けもせずに炎をこん棒に絡ませ、俺に返して来た。
「クッソ!」
まさか返されるとは思っていなかった。
急いでその場を離れる。
「伸びろ」
態勢を崩したのを見逃さず、こん棒を伸ばして俺を攻撃してきた。
「グクッ」
態勢を無理やし戻して何とか捌く。
「『転身』」
その声がした瞬間、ヤツの気配が後ろからした。
咄嗟に剣ではなく、盾を構えて気配から遠ざかるように距離を取った。
「鉄拳」
「グハァ!」
まるでトラックが激突したかと錯覚する程の衝撃を盾に感じ、耐える事も出来ずに盾ごと吹っ飛ばされた。
地面を数度バンドし、壁に激突してやっと止まった。
「防御とかすんなよ、めんどくせ~」
ふざけんな。
強すぎだろ。
腕の骨は折れてはいないけど、しばらくは動かすことが出来ないな。
盾に拳の後がクッキリ付いている。
せかっく生産職の親方に作ってもらった特注なのに。
「そこまでダメージ無いとかめんどくせ~」
いやいや、ダメージあるわ。
あんな攻撃食らって無事なのはデュラハンさんぐらいなものだよ。
「『自己回復』『回復力上昇』『自然治癒力上昇』」
今の攻撃で分かったのは『転身』というスキルと『鉄拳』というスキルか。
『転身』のスキルはこん棒を軸に位置を反転させる移動スキルで鉄拳は拳を固くして威力を上げるスキルのようだな。
この獣人の特徴のひょろ長い印象の一つに腕の長さもあるんだ。
腕が長いってことは拳のリーチがないく、威力が高い。
後、コイツ以外に力が強いな。
魔法はダメか。
「魔法剣!」
剣に雷が纏わる。
俺はそのまま獣人に肉薄する。
「『旋風万来』」
肉薄する俺をこん棒に纏わせた風によって足を止められた。
凄い速さでこん棒を振り回すことによって更に風が強くなる。
「っくっそ……」
踏ん張っているのに徐々に後ろに戻される。
「『フリーズ』」
「なに!?」
身体一瞬が固まる。
「『一転突破』」
風を纏わせたこん棒は先に力を貯めて真っすぐ俺の身体を目掛けて伸びてきた。
動かせたのは腕だけで、盾を構える程度しか出来なかった。
「グハァ!」
盾を貫通し、腕を貫き、身体を貫いた。
「めんどくさい奴だった」
こん棒が引き戻され、身体から血が大量に溢れる。
「ま、まだだ」
俺はまだ倒れる訳にはいかない。
「めんどくせ~な。『鉄拳』」
獣人の拳が眼前に迫った。




