これから……
香奈が眠っているテントから関係者以外全員退出させた。
今、ここにいるのは俺、緑紅、翔、セバスチャン、デュラハン、蟻の女王。
それと香奈の家族だ。
俺は香奈を合成すると決めて最初に家族に説明をした。
殴られる覚悟は当然として最悪は刺されると思った。
だが彼らは涙を流して俺にお願いしてきた。
「あの子が生きられるのなら何でも構いません。あの子に嫌われて親子の縁を切られても生きてさえいてくれれば私たちは……。お願いです。あの子を助けてください」
枯れたと思っていた涙が頬を伝っていた。
涙ながら俺は責任を取る事を約束し、合成する場を見るかどうかを確認した。
彼らは迷うことなく見る決断をした。
この場にいる者はこれから起こる事を今後忘れることはないだろう。
最悪、俺は死ぬまで悪夢をみる羽目になる。
だが、その覚悟はできている。
「始めるぞ」
現在、香奈は意識はない。
もはや起きれるような体力はない。
呼吸も浅く、時々呼吸が止まりかけている。
彼女に時間はない。
「はい」
緑紅が前にでる。
他の者たちはテントの壁に寄っている。
俺はスマホを取り出し、合成を行う。
合成で香奈を主体として緑紅を触媒に指定した。
『緑紅を香奈に合成します。 YES/NO』
これでYESを押せば合成は始まる。
「緑紅……」
「主様。長いようで短い時間をご一緒に過ごせて私は幸せでした。これからは香奈の中から見守ることにいたします」
「……ご苦労だった」
押せ!
YESを押すんだ!
今の状況を作ったのは誰でもない俺なんだ。
ケジメと責任と覚悟を背負うんだ。
……もう二度と。
もう二度とこんな事にならないように動け。
俺はもう止まる事なんてできないんだ。
震える指先がスマホの画面のYESを押した。
「うぐぅ……」
緑紅が苦しそうな声を上げる。
「……フフッ」
緑紅の身体が黒いモヤとなる直前に彼女は笑みを浮かべた。
肉体が崩壊する痛みは想像を絶するだろうに、最後の最後まで彼女に気を使わせてしまった。
全ては俺が弱いからだ。
弱いから周りが犠牲になるんだ。
弱いことがこんなにも悔しくてやるせないなんて思いもしなかった。
緑紅の肉体が黒いモヤとなり寝ている香奈の肉体に纏わり、香奈の身体に馴染んだ。
モヤは両腕を形成し、彼女の両腕は元に戻った。
だが、肌の色が赤茶に変わり髪も白くなってしまった。
合成によって彼女の種族が変更されている。
彼女は【人】から【鬼】となってしまったようだ。
俺は彼女を人ならざるモノに変えてしまった。
「合成は成功した。香奈は助かった」
「「「……」」」
誰も喜ぶことなどしなかった。
蟻の女王も含め、全員が暗い顔をしている。
「彼女が目を覚ますまで俺はここに居る。お前たちは休め」
「黒井沢さん……」
翔が俺に目線で『大丈夫ですか?』と尋ねてきたので俺は無言で頷いた。
翔が先頭となり全員がテントを出て行った。
「……私に緑紅さんを合成したの?」
「起きてたのか」
全員が外に出たタイミングで寝ていた香奈が俺に話をかけてきた。
「あなたが命令したの?」
「……そうだ」
命令してようがしてまいが、俺がYESを押したことに変わりはない。
「混ざり合う時に緑紅さんと話したよ。『あなたはあなたらしく生きなさい』って言ってた」
「……」
緑紅、お前ってヤツはどこまで……。
「私はあなたを恨まないよ。こうなったのは私が弱かったから。こうなったのは私の責任」
「肯定も否定もしない。俺はこうなった責任を取るつもりだ」
「何するの?」
「仲間を殺したヤツを殺す」
せめてもの償いだ。
それで帰ってくる訳でもないが。
「香奈、お前の心の剣はもう折れてしまったか?」
「折れたよ。……けど、緑紅さんが直してくれた」
恐怖がない訳でもないだろうに……。
「私はもう2度と負けない。剣聖の剣はもう……折れはしない」
香奈の目から涙が流れている。
弱い自分が悔しいんだな。
俺も同じだ。
弱くて小さくてそんな自分が悔しくて、悔しくて……。
「強くなろう。香奈」
「うん」
泣くのはもう終わりだ。
弱いことを悔いてももう遅いんだ。
強くなるために思考を巡らすんだ。
意識を変えろ。
使えるモノは何でも使うんだ。
もうこれ以上奪われてなるものか!




