彼の覚悟
香奈の体力まで回復してはいなかったので彼女はそのまま寝かせてテントを後にした。
基地の外にある香奈と魔物が戦った跡地に生き残った戦闘組と戦う意思のある自衛隊が集まっていた。
俺が翔に頼んで皆を集めさせた。
【救済プログラム】について話すためだ。
そして今後の方針だ。
「香奈は……」
翔が近寄って来て口を開いた。
「休ませている。流石に体力まではすぐに戻らなかった」
「そうですか」
納得したような安心したような表情を浮かべる。
合成を人で行ったことは無い為、何があるか分からないから不安なのだろう。
その後、翔と少し会話して皆の前にたった。
「話を始める前に戦いで死んだ者たちに黙とうをしよう」
目を瞑り、散っていった仲間の魂の鎮魂と安寧を願う。
彼らの魂が無事に天国に昇りますように。
1分程度で俺は目を開け、皆に話をする。
「まず、【救済プログラム】について分かった事を話す」
俺は皆に蟻のダンジョンを制覇したことを伝えた。
現在も蟻は蟻塚から湧いてはいるが、経験値を稼がせるのはちょうどいい。
卵を産む蟻は別にいるので蟻が尽きる事はない。
俺たちが蟻のダンジョンを制覇した事を伝えると笑顔を浮かべて喜んだ。
そして蟻の女王を紹介した。
容姿や体形など子供にしか見えないが、指を変形させてカギ爪にしたことで信じた。
戦闘組には彼女を殺すことを意見する者が現れたが、俺が却下した。
もちろん不服そうにしていたが、彼女の口から説明された【救済プログラム】の全貌を聞いたことで意見を変えたのだった。
獣型のダンジョンのランキングは現在5位。
このランキングの基準が何なのか分からないが、恐らく強さだと思われる。
蟻のダンジョンでデュラハンが戦った幹部クラスの強さは今の翔を軽く超えていた。
そんな強さを持っていた彼らが敗北したのだ。
しかも彼らのランキングは10位。
ランキング最下位だった。
獣型のダンジョンはあの蟻よりも格上であると予想される。
確実なのは今の俺達では彼らに太刀打ちできないってことだけだ。
「そこで今後の方針を伝える」
皆が息を飲んだ。
「1週間後に獣型ダンジョンを攻め落とす」
ガヤガヤとし始める中、翔が手を上げた。
「戦うのは賛成ですが、死にに行くのは賛成できません」
「もちろん今のまま攻めるつもりはない。レベルを上げて臨むつもりだ」
納得のいかない者が多い。
それもそうだろう。
レア職の香奈が殺されかけた程の相手を倒しに行くってことだ。
今の彼らは香奈よりも弱い。
その彼らが一週間で香奈よりも強くなるなんて通常では無理だ。
「レベルを上げる事と併用して、希望者に限っては合成をすることを認める」
時が止まったように静かになった。
「俺たちは弱い。人間のままではいつか限界が来るのは明白だった」
皆、俺の話を聞いている。
「成長限界がいつになるか分からないが、成長するまで奴らが待ってくれるとは限らない。いや、むしろ成長する前に叩くのがこの世界の普通だ」
俺たちも立場が変われば同様のことをするだろう。
「俺は甘かった。少し自分の力に自惚れていた。そして実感した。……俺は少しも強くなんてなかった」
俺の話に暗い顔をする者たちが大半を占めた。
その他の者は怒りに震えていた。
「もはや手段を選んでいられなくなった。だが、これは希望者だけだ。俺が勝手に行うことはもう絶対にしない」
話は以上だ。
「5日後に蟻塚を潰す。それまで蟻塚から湧いてくる蟻を頼む」
そう言葉を残して俺は基地へ向かった。
向かった先は重体者が寝かされている区画のテントだ。
先の戦闘で最早戦うことが無理となった者達だ。
テントの中に入るとアルコールの匂いがする。
薬品の匂いも微かにする。
「どうなされましたか?」
彼らの状態を見ていた医師が俺に声をかけてきた。
「彼らに聞きたいことがありまして足を運びました」
「ほう?」
「あなたたちは外にお願いできますか?」
「そうしましょう」
付き添っていた看護師を連れて外に出ていく。
そして俺だけになった。
「お前たちに問いたい。戦う意思はあるか?」
ダメも声は出さない。
もはや彼らに生きる望みはないのだ。
「生きるだけならそのままでいる方が楽だろう。だが、戦う意思のある者なら俺が希望となろう」
数人が涙を流している。
その涙の意味を俺は知らない。
「人を捨てる覚悟があれば俺に伝えろ。もう一度、戦える身体と今まで以上の身体をやる」
戦力は1人でも大いに越したことはない。
合成は戦えなくなった彼らさえ戦力に出来うる力だ。
伝える事は全て伝てたのでテントを後にした。




