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『勇者ですが、勇気しかありません』  作者: asnt2026


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第五話 強くなった戦士

 次の依頼は、街道を塞いでいるオーク一匹の討伐だった。


「ゴブリン三匹の次がオーク?」


 レオンは依頼書を見た。


「急に強くない?」


「今の私なら大丈夫」


 ミレイアが即答する。


 最近、彼女は自信に満ちていた。


 実際、魔法の成功率は急激に上がっている。


 ガルドにも変化があった。


「見ろ」


 彼は背中の大剣を抜いた。


 以前なら二人がかりだった。


 今は一人で持てている。


「すげえ!」


「まだ重いが、使えないことはない」


 ガルドは少し笑った。


 嬉しそうだった。


 誰よりも。


 レオンはその顔を見て、自分の心配が馬鹿らしくなった。


 強くなる。


 できなかったことができる。


 それは良いことに決まっている。


 森の街道で、オークはすぐに見つかった。


 身長二メートルを超える巨体。


 巨大な斧を持っている。


「来るぞ!」


 レオンが剣を抜いた。


 オークが突進する。


「右へ二歩」


 ガルド。


 レオンが右へ避ける。


 斧が地面を砕いた。


「ミレイア」


「分かってる」


 魔法陣。


「烈火よ、敵を穿て――フレイムランス!」


 炎の槍が飛ぶ。


 オークの肩を焼いた。


「一発で!?」


 以前とは比較にならない。


 ノアが叫んだ。


「オークは左目の視力が弱い! 左から回って!」


「シオン!」


「もういる」


 オークの背後。


「いつの間に!」


 ポキッ。


 オークが振り向く。


「惜しい!」


「言うな!」


 戦いは以前とは違った。


 連携できている。


 そして。


 ガルドが真正面からオークへ向かった。


「待て!」


 レオンが叫ぶ。


 巨大な斧が振り下ろされる。


 以前のガルドなら避けていた。


 攻撃を読み、最小限の動きで受け流す。


 それが彼の戦い方だった。


 しかし。


 ガルドは大剣で受け止めた。


 ガァン!


 金属音。


「ガルド!」


「問題ない」


 彼は笑っていた。


 力と力。


 そのまま押し返す。


「うおおっ!」


 大剣を振る。


 オークが倒れた。


 勝った。


「やった!」


 ノアが跳ねる。


 レオンも駆け寄った。


「ガルド! すげえじゃん!」


「ああ」


「本当に戦士っぽくなってきたな」


「当然だ」


 その時。


 森の奥から声がした。


「助けて!」


 少女だった。


 別の小型魔物に追われている。


 距離は百メートルほど。


「行くぞ!」


 レオンが走り出す。


 しかしガルドは動かなかった。


「ガルド?」


「放っておけ」


 一瞬、意味が分からなかった。


「……何?」


「あの魔物は大した脅威ではない。少女一人を救うために隊列を崩す必要はない」


「何言ってるんだよ」


「依頼はオーク討伐だ」


「だからって――」


「任務外だ」


 レオンはガルドの顔を見た。


 冗談ではない。


「お前……」


 エルナも黙っていた。


 ガルドは淡々と続ける。


「勇者一行の目的は魔王討伐だ。途中のすべての人間を救うことはできない。優先順位を決めるべきだ」


 正論だった。


 おそらく。


 でも。


「前のお前なら行っただろ」


 ガルドの眉が動いた。


「何?」


「ゴブリンの時」


 レオンは覚えている。


 ガルドは自分が弱いと知っていた。


 それでも誰かが狙われるたびに間へ入った。


 敵を倒せなくても。


 守ろうとしていた。


「俺が?」


「そうだよ」


「……そうだったか?」


 その言葉。


 ミレイアと同じだった。


 レオンの背中に冷たいものが走る。


「レオン!」


 少女の叫び。


「くそ!」


 レオンは走った。


 結局、ノアとシオンも続いた。


 小型魔物を追い払い、少女を助けた。


 戻ってくると。


 ガルドは一人、倒れたオークを見下ろしていた。


 その身体が光に包まれる。


《経験値を獲得しました》


《レベルが上昇しました》


《戦士適性が上昇しました》


 レオンの前にも同じ文字が浮かぶ。


 これまでなら嬉しかったはずだった。


 なのに。


 初めて。


 その光が気味悪く見えた。


 エルナが静かにガルドを見ていた。


「ガルド」


「何だ」


「あなた、本当に何も感じない?」


「何についてだ」


「さっきの子」


「助かったのだろう。問題ない」


「そう」


 エルナはそれ以上言わなかった。


 帰り道。


 ガルドは以前より軽々と大剣を担いでいた。


 確実に強くなっている。


 立派な戦士に近づいている。


 その背中を見ながら、レオンは思った。


 ――強くなるって、こんな感じだったか?


 夜。


 一人になったレオンは、自分の能力表示を開いた。


《レベル3》


《天職――勇者》


 筋力も剣術も、少し上がっている。


 そして。


 これまで気づかなかった文字が、一番下にぼんやりと浮かんでいた。


《職業適合率――12%》


「職業……適合率?」


 指で触れる。


 説明は出ない。


 十二%。


 低い。


 普通なら、もっと上げなければならない数字に見える。


 なのに。


 昼間のガルドを思い出す。


 レオンは独り言を漏らした。


「……これ、高い方がいいんだよな?」


 誰も答えない。


 ただ数字だけが、


《12%》


 と静かに光っていた。

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