第四十話 魔王を殺せば勇者になれる
ルシアが教えた場所は、《聖源墓地》と呼ばれる地下遺跡だった。
神聖魔法が体系化される以前、治療術を研究していた者たちの施設跡。
教会の正式な地図からは、三百年以上前に削除されている。
「何で聖女がそんな場所知ってるの?」
ノアが聞いた。
「知らない方がいい情報まで与えられるのが、適合率百%なのかもしれません」
エルナ。
「便利ね」
ミレイア。
「便利だから怖いんでしょう」
聖源墓地までは二日。
しかし。
その途中。
レオンの能力表示に。
異変。
《職業解除条件進行――2/3》
その下。
これまで。
見えなかった項目。
《第三条件――解析中》
「解析中?」
レオン。
歩きながら。
何度も見る。
「今までそんなの出てなかったよね」
ノア。
「なかった」
「そろそろ分かるのかな」
「分からない」
「またそれ」
「最近これ言うと自律率上がるかなって」
「狙って言ったら駄目じゃない?」
「確かに」
夜。
山中。
野営。
レオンは。
一人。
焚き火。
見ていた。
ミレイア。
隣。
座る。
「眠れない?」
「うん」
「第三条件?」
「それも」
「他は?」
「六将」
ミレイア。
少し。
黙る。
「強かった」
「うん」
「みんな」
「うん」
「昔は俺たちみたいだった」
「そうね」
「それが」
レオン。
炎。
見る。
「怖い」
ミレイア。
答えない。
「俺たちも」
何か。
きっかけ。
一つ。
「誰かが死んだり」
「守れなかったり」
「どうしても力が必要になったら」
完成。
選ぶかもしれない。
「私は」
ミレイア。
「選ばない」
レオン。
見る。
「今はね」
ミレイア。
続ける。
「でも未来の私が絶対に選ばないなんて、言えない」
「……そっか」
「だから」
彼女。
杖。
膝。
「今のうちに」
「何を」
「忘れないようにする」
「何を?」
「私が何で魔法を好きなのか」
噛んでも。
失敗しても。
魔法。
面白かった。
「レオンは?」
「俺?」
「何で勇者やってるの」
「選ばれたから」
「それ以外」
レオン。
答え。
すぐ出ない。
「……誰かが」
一度。
考える。
「怖くて動けない時に」
自分も。
怖い。
「一人くらい」
立つ。
「先に行く奴がいた方がいいかなって」
「それ?」
「多分」
「弱いのに?」
「うるさい」
ミレイア。
笑う。
「忘れないでね」
「お前も」
二人。
焚き火。
見る。
翌朝。
事件。
起きる。
小さな村。
襲撃。
魔王軍ではない。
巨大な魔物。
黒角竜。
村。
炎。
「助けて!」
人。
逃げる。
レオンたち。
走る。
「ノア!」
「黒角竜は興奮状態! 多分子供とはぐれてる!」
「追い払える?」
「今は無理!」
竜。
炎。
吐く。
「結界!」
エルナ。
光。
人々。
守る。
ガルド。
倒れた柱。
支える。
「早く!」
村人。
逃がす。
シオン。
家。
中。
子供。
救出。
ポキッ。
「こっち!」
音。
暗闇。
目印。
ミレイア。
拒風。
竜の顔。
逸らす。
「レオン!」
竜。
目の前。
レオン。
剣。
握る。
倒せる?
無理。
でも。
逃げれば。
後ろ。
村。
人。
「くそ」
足。
震える。
「怖い」
それでも。
立つ。
黒角竜。
突進。
その時。
遠く。
巨大な黒い光。
竜。
吹き飛ぶ。
「何?」
ミレイア。
空。
一人。
浮かぶ。
ゼルディア。
「魔王!」
村人。
悲鳴。
ゼルディア。
地上。
降りる。
「久しぶりだな」
「何しに来た!」
レオン。
「竜を止めに」
「何で」
「理由が必要か?」
「あなた魔王だろ!」
「お前、まだそんなこと言うのか」
「いや、そうだけど!」
黒角竜。
立つ。
ゼルディア。
手。
向ける。
「殺すな!」
ノア。
叫ぶ。
ゼルディア。
止まる。
「子供探してるだけ!」
「分かった」
黒い魔力。
変化。
鎖。
竜。
拘束。
「……言うこと聞いた」
ノア。
「何だ」
ゼルディア。
「魔王なのに」
「俺にも話くらい聞く知性はある」
「ちょっと見直した」
「そうか」
六人。
村人を避難。
ノア。
竜の子。
探す。
やがて。
森。
一匹。
幼竜。
見つかる。
親。
解放。
二匹。
森へ。
去る。
被害。
建物。
多い。
しかし。
死者。
ゼロ。
「終わった」
レオン。
地面。
座る。
ゼルディア。
隣。
立つ。
「相変わらず弱いな」
「助けてもらった直後だけど腹立つ」
「事実だ」
「ヴァレスも同じこと言ってた」
「教育が行き届いている」
「そこ誇るなよ」
その時。
レオン。
能力表示。
光。
《職業解除条件――第三条件解析完了》
「出た」
レオン。
全員。
見る。
ゼルディア。
顔。
変わる。
「待て」
「何?」
「見るな」
「何で?」
「レオン!」
遅い。
表示。
《勇者職業解除・第三条件》
文字。
浮かぶ。
《魔王ゼルディアを殺害する》
静寂。
レオン。
意味。
理解。
できない。
「……え?」
ミレイア。
「魔王を殺せば」
「勇者をやめられる?」
ノア。
「おかしくない?」
ガルド。
顔。
険しい。
「勇者として最大の役割を果たした結果」
エルナ。
「勇者を解除する?」
ゼルディア。
目。
表示。
睨む。
「違う」
「何が?」
レオン。
「それは解除条件じゃない」
「でも」
「罠だ」
ゼルディア。
声。
低い。
「カイルだった頃」
同じ。
表示。
見た。
「俺にも出た」
「第三条件?」
「ああ」
「何だった?」
ゼルディア。
少し。
目を閉じる。
「当時の魔王を殺せ」
レオン。
胸。
冷える。
「殺した?」
「ああ」
「その後」
ゼルディア。
苦い笑い。
「勇者を解除できると思った」
結果。
逆。
「魔王を殺した瞬間」
世界。
次。
役割。
必要。
魔王。
不在。
「勇者だった俺に」
一言。
「《魔王》が上書きされた」
全員。
息。
止まる。
「じゃあ」
ミレイア。
「レオンがゼルディアを殺したら」
「同じことが起きる?」
「可能性は高い」
ゼルディア。
「勇者として完成し」
役割。
固定。
そして。
次。
空いた場所。
「魔王になるかもしれない」
レオン。
表示を見る。
《第三条件》
《魔王ゼルディアを殺害する》
解除条件。
そう。
書いている。
なのに。
解除させるためではない。
「世界が」
レオン。
「嘘ついてる?」
ゼルディア。
「世界は嘘をつかない」
「じゃあ」
「定義を変える」
「どういう意味?」
「勇者を解除する」
確かに。
勇者ではなくなる。
「代わりに魔王になる」
言葉。
正しい。
でも。
意味。
騙している。
「最悪」
ノア。
「詐欺じゃん」
「世界規模の」
ミレイア。
レオン。
しばらく。
黙る。
その後。
笑った。
「何がおかしい」
ゼルディア。
「いや」
レオン。
剣。
腰。
「ちょっと安心した」
「何が」
「条件分かったから」
「殺す気か」
「まだ決めてない」
ゼルディア。
呆れた顔。
「ここまで説明して?」
「あなたの言うことをそのまま信じるなって」
レオン。
「あなた自身が言っただろ」
「…………」
「だから調べる」
「何を」
「本当に殺したら魔王になるのか」
「俺が証拠だ」
「一人だけ」
「十分だろう」
「俺たち」
レオン。
五人を見る。
「普通じゃないらしいから」
自律率。
不適合。
世界の予測から。
外れている。
「別の方法があるかもしれない」
ゼルディア。
長い間。
レオンを見る。
そして。
小さく。
笑う。
「本当に」
「何」
「昔の俺と違うな」
「良い意味?」
「今のところは」
レオンの能力表示。
《職業解除条件進行――2/3》
その下。
《第三条件――未達成》
さらに。
今まで見たことのない。
小さな文字。
一瞬だけ。
浮かぶ。
《代替条件――検索不可》
「待って」
ミレイア。
「今何か」
「俺も見た」
レオン。
「代替条件?」
表示。
もう。
消えている。
ゼルディアの表情。
変わる。
「そんな表示」
「何?」
「俺の時にはなかった」
六人。
顔。
見合わせる。
正解は。
まだない。
魔王を殺せば。
勇者として完成する。
殺さなければ。
職業解除条件は満たせない。
世界が用意した。
二つの道。
でも。
そのどちらでもない道が。
一瞬だけ。
表示された。
「探そう」
レオンが言った。
「代替条件を?」
ミレイア。
「ああ」
「どこにあるか分からないよ」
「うん」
「存在するかも分からない」
「うん」
「見つからないかもしれない」
「怖いな」
「じゃあ?」
レオン。
少し。
笑う。
「だから行く」
ミレイアも。
笑った。
「それ」
「何」
「ちょっと勇者っぽい」
《勇者適合率――18%》
点滅。
レオン。
空を見る。
「今のなし!」
六人の笑い声が。
焼け残った村に。
久しぶりに響いた。
そして。
世界のさらに深い場所では。
一つの記録が。
静かに更新されていた。
《勇者個体》
《第三条件の欺瞞性を認識》
《代替条件探索行動を確認》
《予測不能率上昇》
続いて。
新しい命令。
《代替経路を封鎖》
《対象六名の分離を優先》
世界は。
理解し始めていた。
六人をまとめて相手にしてはいけない。
一人ずつなら。
迷わせられる。
誘惑できる。
完成させられる。
だから次に狙われるのは。
六人の中で。
最も強くなることを望んでいる者だった。




