第三十九話 神を信じていた僧侶
最後に現れたのは。
聖女ルシアだった。
ただし。
襲ってはこなかった。
「待っています」
村の子供から。
一枚の紙を渡された。
「誰が?」
エルナ。
「金髪のお姉さん」
「場所は?」
「丘の教会」
六人。
顔を見合わせる。
「罠?」
レオン。
「でしょうね」
エルナ。
「行く?」
「行きます」
「即答」
「聞きたいことがあります」
丘。
小さな教会。
半分。
崩れている。
神像。
頭。
欠けていた。
その前。
ルシア。
祈っている。
背中。
美しい。
金髪。
白衣。
まさに。
聖女。
「来ましたね」
ルシア。
振り返る。
「エルナ・セレス」
「私だけ?」
「今日はあなたと話したい」
「私たちは?」
レオン。
「外で待っていてください」
「嫌」
「レオン」
エルナ。
「大丈夫です」
「でも」
「私は僧侶ですよ」
「神信じてないけど」
「それとこれとは別です」
「便利だな、その理屈」
「よく使います」
結局。
五人。
教会の外。
「大丈夫かな」
ノア。
「多分」
レオン。
「何かあったら入る」
「音で知らせる」
シオン。
ポキッ。
「頼りになる」
「複雑だ」
教会。
二人。
向かい合う。
「あなたは」
ルシア。
「なぜ神を信じないのですか」
「その質問をされるのは嫌いです」
「答えたくない?」
「答える必要を感じません」
「なら」
ルシア。
「私から話します」
祭壇。
座る。
「私には妹がいました」
エルナ。
黙る。
以前。
ルシア自身が。
短く語ったこと。
「病弱でした」
「治癒魔法は?」
「使いました」
「治らなかった」
「はい」
ルシア。
神像。
見る。
「毎日祈りました」
朝。
昼。
夜。
「私は当時、誰より神を信じていました」
神なら。
救ってくれる。
正しい。
慈悲深い。
そう。
信じていた。
「妹は死にました」
ルシア。
穏やか。
表情。
変わらない。
「私は神を憎みました」
エルナ。
目。
わずかに。
細くなる。
「それで不適合者に?」
「はい」
僧侶なのに。
神を憎む。
適合率。
八%。
「教会は言いました」
祈りが足りなかった。
信仰が足りなかった。
妹の死にも。
神の意味がある。
「私は」
ルシア。
小さく。
笑う。
「全員殴りました」
エルナ。
一瞬。
口元。
緩む。
「少し好きになりました」
「ありがとうございます」
「その後は?」
「矯正を受けました」
神。
信じる。
心。
戻る。
「楽でした」
ルシア。
「妹の死にも意味があると思えた」
「本当ですか」
「何が」
「楽だった?」
「はい」
「悲しくなくなっただけでは」
ルシア。
沈黙。
「あなたは」
逆に。
「なぜ神を信じない」
エルナ。
少し。
目を伏せる。
「私も」
初めて。
話す。
「昔は信じていました」
家族。
病気。
毎日。
祈った。
救われなかった。
神を。
嫌った。
存在を。
否定した。
「似ていますね」
「非常に不愉快です」
「なぜ」
「あなたが私の完成形のように見えるからです」
ルシア。
悲しそうに。
「私は完成しています」
「そうでしょうね」
《僧侶適合率――100%》
「だから」
エルナ。
「聞きたい」
「何を」
「今」
真っ直ぐ。
ルシアを見る。
「妹さんの名前は?」
ルシア。
口。
開く。
声。
出ない。
「名前」
「…………」
「覚えていますか?」
「妹は」
「名前は?」
ルシア。
眉。
寄る。
「必要のない――」
途中。
止まる。
自分の言葉。
気づく。
「…………」
エルナ。
立ち上がる。
「帰ります」
「待って」
「話は終わりました」
「私は」
ルシア。
初めて。
声。
震える。
「妹を愛していた」
「でしょうね」
「なのに」
「覚えていない」
「なぜ」
「神を信じるのに」
エルナ。
振り返る。
「邪魔だったからでしょう」
「何が」
「妹さんを救わなかった神を信じるためには」
一言。
「妹さんを愛していた記憶が邪魔だった」
ルシアの顔。
歪む。
「違う」
「そうかもしれません」
「神は正しい」
「そうかもしれません」
「神は」
「でも」
エルナ。
「あなたが今苦しいのは」
ルシアを見る。
「あなたの中に、まだ妹さんを好きだったあなたが残っているからです」
ルシアの瞳。
涙。
浮かぶ。
「やめて」
「なぜ」
「思い出させないで」
「思い出したい?」
「違う!」
「なら」
エルナ。
一歩。
近づく。
「自分で決めてください」
ルシア。
呼吸。
乱れる。
「神ではなく」
エルナ。
「聖女でもなく」
一言。
「ルシアとして」
《聖女適合率――100%》
数字。
揺れる。
《99%》
ルシア。
頭を抱える。
そして。
一つの名前。
唇。
「……フィア」
エルナ。
止まる。
「妹の名前?」
ルシア。
涙。
落ちる。
「フィア」
もう一度。
「私の」
声。
崩れる。
「妹……」
《聖女適合率――97%》
《自律率――2%》
教会。
外。
レオンたち。
中から。
泣き声。
「入る?」
ノア。
「待とう」
レオン。
「でも」
「今」
一度。
扉。
見る。
「エルナの仕事じゃないと思う」
「僧侶なのに?」
「エルナだから」
しばらく。
誰も。
何も言わなかった。
教会内。
ルシア。
泣き続けた。
エルナ。
隣。
座る。
祈らない。
神へ。
何も頼まない。
ただ。
隣にいる。
やがて。
ルシアが言った。
「なぜ」
「何でしょう」
「治癒魔法が使えるのですか」
「私が?」
「神を信じないのに」
「知りません」
「神聖魔法は神から与えられる」
「そう教えられていますね」
「なら」
「そこが間違っているのでしょう」
ルシア。
見る。
「そんな簡単に」
「では試しますか」
エルナ。
自分の指。
小さく切る。
「何を!」
「治します」
手。
かざす。
祈らない。
神名。
唱えない。
「治って」
光。
傷。
閉じる。
ルシア。
息。
止まる。
「今」
「神の名前を呼んでいません」
「どうして」
「私にも分かりません」
エルナ。
自分の手を見る。
「ただ」
昔から。
傷ついた人を見ると。
放っておけなかった。
「治したいと思った」
それだけ。
光は。
出る。
「神聖魔法って」
ルシア。
小さく。
「神の魔法ではない?」
エルナ。
答えない。
代わりに。
能力表示。
《僧侶適合率――14%》
《13%》
《職業解除条件進行――1/3》
そして。
《未分類治癒反応を確認》
その文字。
二人。
見ていた。
ルシアの顔から。
血の気が引く。
「エルナ」
「何です」
「神聖魔法の起源を」
一言。
「調べてはいけない」
「なぜ」
「それを調べた人間は」
ルシア。
震える声。
「全員、記録から消されている」
エルナ。
目。
細くなる。
「どこへ行けば分かります?」
「行くつもりですか」
「今の話で諦めると思います?」
ルシア。
しばらく。
エルナを見る。
やがて。
小さく。
笑った。
「やはり」
「何です」
「昔の私より」
一言。
「ずっと性格が悪い」
「ありがとうございます」
「褒めていません」
「そうですか」
ルシアは。
一つの地名を。
紙に書いた。




