第三十五話 六人の完成形
翌日。
空。
黒い鳥。
六羽。
六人の頭上。
旋回。
「嫌な感じ」
ノア。
「魔王軍?」
ガルド。
「多分」
シオン。
「一羽降りる」
黒鳥。
地面。
足。
筒。
「また手紙?」
レオン。
取る。
中。
一枚。
《勇者レオン・アルヴァ一行へ》
《北西、旧エルヴァ砦》
《来い》
「短い」
ノア。
「誰から?」
最後。
署名。
《ヴァレス》
「罠」
ミレイア。
「絶対罠」
「行く?」
レオン。
「何で聞くの!」
「俺たち罠って分かってても行くこと多いし」
「否定できない」
ガルド。
「理由がない」
シオン。
「無視する」
「賛成」
レオン。
手紙。
折る。
その瞬間。
裏。
文字。
《六将全員が待つ》
全員。
固まる。
「……行く?」
ノア。
「罠」
ミレイア。
「でも」
セレネス。
言った。
ヴァレス。
私。
残り四人。
「知りたい」
ガルド。
「俺もだ」
エルナ。
「危険ですが」
「行くの?」
レオン。
「ええ」
シオン。
「賛成」
ノア。
「私も」
ミレイア。
ため息。
「全員行くなら」
レオン。
少し。
嬉しくなる。
「じゃあ」
「レオン」
ガルド。
「何だ」
「お前が決めた顔をするな」
「してない!」
旧エルヴァ砦。
夕方。
崩れた城壁。
元は。
人間側の国境砦。
今。
誰もいない。
中央。
広場。
六人。
いた。
ヴァレス。
セレネス。
そして。
初めて見る四人。
巨大な男。
身長二メートル半。
鎧。
筋肉。
《天職――闘将》
《職業適合率――100%》
ガルドの目。
止まる。
次。
小柄な女性。
周囲。
魔物。
狼。
鳥。
竜の幼体まで。
全て。
彼女へ従っている。
《天職――獣王》
《職業適合率――100%》
ノア。
顔。
強張る。
三人目。
黒装束。
男。
いる。
のに。
気配。
ない。
見失いそうになる。
《天職――影王》
《職業適合率――100%》
シオン。
肩。
ポキッ。
影王。
目だけ。
動く。
最後。
白い衣。
女性。
美しい。
背後。
淡い光。
祈るだけで。
周囲の草花。
咲く。
《天職――聖女》
《職業適合率――100%》
エルナ。
小さく。
「最悪ですね」
「何が?」
レオン。
「完璧な僧侶です」
「嫉妬?」
「違います」
ヴァレス。
一歩。
「揃ったか」
レオンたち。
六人。
向こうも。
六人。
勇者と勇将。
魔法使いと大魔導師。
戦士と闘将。
魔物使いと獣王。
忍者と影王。
僧侶と聖女。
「やっぱり」
ミレイア。
声。
低い。
「私たちと対応してる」
「なぜ?」
ガルド。
ヴァレス。
答えない。
代わり。
セレネス。
「見せた方が早い」
魔導書。
開く。
光。
六将。
能力表示。
変わる。
新しい項目。
《初期適合率》
ヴァレス。
《勇将適合率――7%》
レオン。
「……え?」
セレネス。
《魔法使い適合率――11%》
ミレイア。
息。
止まる。
闘将。
《戦士適合率――9%》
獣王。
《魔物使い適合率――6%》
影王。
《忍者適合率――13%》
聖女。
《僧侶適合率――8%》
ノア。
一歩。
後ろ。
「嘘」
全員。
低い。
自分たちと。
同じ。
「昔」
セレネス。
「我々も不適合者だった」
ミレイア。
杖。
握る。
「あなたも」
「発声障害ではない」
セレネス。
「私は」
一度。
間。
「魔法を使うと吐いていた」
「……何それ」
「魔力感覚への過敏反応」
セレネス。
淡々。
「一回魔法を使うたび、数時間動けなかった」
闘将。
ガルドを見る。
「俺は」
声。
低い。
「筋肉がつかなかった」
ガルド。
目。
見開く。
今。
目の前。
巨大な身体。
「お前と同じ」
獣王。
ノアへ。
「私は」
周囲の魔物。
撫でる。
「触るだけで魔物に噛まれた」
ノア。
息。
浅くなる。
影王。
シオン。
「俺は」
わずかに。
口元。
「寝言がうるさかった」
全員。
一瞬。
止まる。
「そこ?」
レオン。
シオンも。
少し。
顔。
「俺よりマシでは?」
「潜入任務中に寝れば全員死ぬ」
「確かに」
聖女。
エルナ。
「私は神を憎んでいた」
エルナ。
初めて。
目。
変わる。
「なぜ」
「妹を」
聖女。
「救わなかったから」
エルナ。
何も言わない。
六人。
かつて。
自分たちと。
同じ。
不適合者。
「じゃあ」
レオン。
「どうして百%に」
ヴァレス。
答える。
「選んだ」
「何を」
「強さを」
一言。
「不完全な自分より」
剣。
握る。
「完成された役割を」
ガルド。
「自分で?」
「ああ」
「矯正されたのではなく?」
「最初は」
ヴァレス。
「自分から望んだ」
空気。
重くなる。
「強くなりたかった」
セレネス。
「馬鹿にされたくなかった」
闘将。
「守りたかった」
獣王。
「魔物に愛されたかった」
影王。
「任務を失敗したくなかった」
聖女。
「神に答えてほしかった」
全部。
分かる。
だから。
怖い。
「適合率が上がるほど」
ミレイア。
「どうなった」
セレネス。
少し。
笑う。
「楽になった」
「…………」
「噛まない」
「失敗しない」
「迷わない」
「傷つかない」
「自分を嫌わなくて済む」
ミレイア。
唇。
噛む。
その言葉。
刺さる。
「代わりに?」
エルナ。
聖女。
答える。
「何かを失った」
「何を」
「分からない」
エルナ。
目。
細くなる。
「分からないことが」
一言。
「失った証拠では?」
聖女。
沈黙。
ヴァレス。
レオンを見る。
「お前たちには」
「何」
「今なら戻れる」
「どこに?」
「世界へ」
ヴァレス。
「適合を受け入れろ」
「嫌」
レオン。
即答。
「まだ話は終わっていない」
「でも結論は出てる」
「弱いままでいいのか」
「よくない」
「なら」
「強くなりたい」
レオン。
言う。
「でも」
剣。
握る。
「俺じゃなくなる方法は嫌だ」
ヴァレス。
目。
揺れる。
「綺麗事だ」
「そうかも」
「仲間が死んでも?」
レオン。
止まる。
「お前が弱いせいで」
ヴァレス。
一歩。
「ミレイアが死ぬ」
「ガルドが死ぬ」
「ノアが」
「シオンが」
「エルナが」
「それでも」
レオンの手。
震える。
怖い。
「弱い自分を選ぶか」
答え。
簡単ではない。
強くなりたい。
守りたい。
誰も。
失いたくない。
「レオン」
ミレイア。
隣。
立つ。
「私が決めることを」
レオンを見る。
「勝手にあなたの責任にしないで」
「え」
「私が弱いまま進むか」
杖。
「完成するか」
一言。
「私が決める」
ガルド。
一歩。
「俺もだ」
ノア。
「私も」
シオン。
「当然」
エルナ。
最後。
「あなた一人に背負わせるつもりはありません」
レオン。
五人。
見る。
「……そっか」
ヴァレス。
「仲間が死んでも同じことを言えるか」
レオン。
分からない。
本当に。
分からない。
「その時」
一言。
「また考える」
ヴァレス。
眉。
動く。
「答えになっていない」
「俺」
レオン。
少し。
笑う。
「最初から正解持ってないから」
《自律率――6%》
表示。
光る。
向こう。
六将。
一斉に。
それを見る。
セレネス。
「六」
聖女。
「早い」
「何が?」
ミレイア。
ヴァレス。
レオンを見る。
表情。
変わる。
「我々は」
一言。
「六%へ到達する前に」
声。
低い。
「一人目を失った」
静寂。
「何?」
レオン。
「誰を」
ヴァレス。
答えない。
セレネス。
「だから呼んだ」
「何のために」
「確認するためだ」
「何を」
六将。
互い。
見る。
聖女。
口を開く。
「お前たちが」
声。
どこか。
悲しい。
「私たちと同じところで」
一言。
「壊れるのかどうか」
レオン。
胸。
冷える。
ヴァレス。
背を向ける。
「次に会う時」
「待て!」
「今度は」
ヴァレス。
「我々も命令では動かない」
レオン。
止まる。
「……何?」
ヴァレス。
能力表示。
《自律率――0%》
その数字。
一瞬。
揺れる。
《自律率――1%》
レオン。
息。
止まる。
ヴァレス自身も。
表示を見る。
初めて。
完全な無表情が。
崩れた。
「……何だ」
セレネス。
目。
見開く。
「ヴァレス」
「これは」
ヴァレス。
自分の胸。
見る。
「何だ」
レオンは。
答えなかった。
でも。
少しだけ。
笑った。
「自分で考えたんじゃない?」
ヴァレス。
レオンを見る。
誰にも命令されず。
初めて。
自分の意思で。
六将は。
その場を去った。
残された六人。
ノア。
座り込む。
「怖かった」
「俺も」
レオン。
「でも」
ミレイア。
ヴァレスたちの背中が消えた方向を見る。
「敵じゃないかもしれない」
「味方でもない」
ガルド。
「うん」
エルナ。
「それでいいのでは」
「何が?」
「最初から」
彼女。
少し笑う。
「敵か味方かの二つしかない方がおかしかったのです」
勇者。
魔王。
人間。
魔物。
正しい。
間違い。
世界は。
何でも二つへ分けたがる。
レオンは。
その日。
初めて思った。
どちらでもない場所。
そこにこそ。
自分たちが進む道があるのかもしれない。
そして。
遠く離れた世界の地下。
誰も到達していない場所。
巨大な光の中で。
一つの声が。
静かに記録していた。
《魔王軍六将》
《自律反応再発》
《原因》
《不適合個体群との接触》
一拍。
《対策を変更》
《勇者個体レオン・アルヴァ》
《職業解除進行――2/3》
《第三条件》
文字。
浮かぶ。
《魔王殺害》
そして。
《達成時》
《勇者職を完全固定する》
世界は。
レオンが。
まだ知らないところで。
最後の罠を。
用意していた。




