第三十三話 世界にない魔法
ミレイアの研究は。
ひどかった。
「また!?」
レオンが叫ぶ。
「動かないで!」
「動いてない!」
「動いてる!」
「火が来たから!」
木。
燃える。
ノア。
水。
かける。
「森燃やさないで!」
「計算上は燃えないはずだった!」
「燃えてる!」
「現実が計算に従いなさいよ!」
「無茶言うな!」
三日。
街道を避け。
山中。
進みながら。
実験。
ミレイアは。
これまでの魔法理論を。
根本から。
疑い始めていた。
「普通の魔法って」
ミレイア。
地面。
図。
「詠唱が命令文なの」
「命令?」
ノア。
「火を出せ」
「凍れ」
「吹き飛ばせ」
「そういう意味を、決められた言葉でアニマへ伝える」
「じゃあ短縮すると?」
ガルド。
「普通は不完全になる」
「でもお前はできた」
「うん」
「なぜ」
ミレイア。
地面へ。
二つ。
円。
「多分」
片方。
《言葉》
もう片方。
《意思》
「魔法が反応してるのは、言葉だけじゃない」
「意思?」
レオン。
「私が噛んでも」
ミレイア。
「魔法が少し発動することはあった」
「そうだな」
「本当に発音が絶対なら」
一言。
「噛んだ時点で何も起きないはず」
全員。
少し。
黙る。
「つまり」
エルナ。
「詠唱は補助?」
「そう思う」
ミレイア。
「人間が意思を正確な形にするための」
「じゃあ」
レオン。
「しゃべらなくても魔法使える?」
「理論上は」
「無詠唱!」
ノア。
「かっこいい!」
「簡単なら千年前に誰かやってる」
「だよね」
「問題は」
ミレイア。
自分の胸。
「意思を完全に整える必要がある」
「お前できそう?」
レオン。
「無理」
「早い!」
「私、考え事多いから」
「確かに」
「レオンよりは」
「比較いる?」
その日の午後。
問題。
魔物。
岩熊。
巨大。
「どうする!」
レオン。
「倒さない!」
ガルド。
「追い払う!」
ノア。
「怒ってる!」
「何で!」
「巣の近く!」
「またそれ!?」
岩熊。
突進。
ガルド。
盾。
受ける。
「ぐっ!」
「ガルド!」
「重い!」
岩熊。
前脚。
振る。
レオン。
ノア。
引っ張る。
「ミレイア!」
「考えてる!」
「早く!」
「急かすな!」
従来魔法なら。
炎。
威力。
強すぎる。
熊を殺す。
氷。
同じ。
眠り。
岩熊には効きにくい。
「なら」
ミレイア。
杖。
「作る」
「今!?」
レオン。
「最近それ多い!」
ミレイア。
岩熊。
見る。
欲しい結果。
傷つけない。
止める。
押す。
追い返す。
言葉。
必要?
「…………」
杖。
振る。
「帰って!」
全員。
止まる。
「それ呪文?」
レオン。
「黙って!」
風。
爆発。
ではない。
強い。
でも。
柔らかい。
壁。
岩熊。
押される。
一歩。
二歩。
十歩。
「グォォ!」
熊。
踏ん張る。
「もう一回!」
ミレイア。
「帰って!」
風。
さらに。
押す。
岩熊。
巣。
方向。
戻っていく。
最後。
唸る。
去る。
静寂。
「…………」
レオン。
ミレイアを見る。
「今の」
「うん」
「魔法?」
「多分」
「名前は?」
「ない」
「詠唱は?」
「帰って」
「それだけ?」
「それだけ」
ノア。
目。
輝く。
「世界初?」
「知らない」
ミレイア。
でも。
口元。
上がる。
「少なくとも」
自分の杖。
見る。
「教科書にはない」
その瞬間。
能力表示。
《新規魔法構築を確認》
全員。
固まる。
「表示出た」
レオン。
さらに。
《既存職能体系との不一致》
《分類不能》
《魔法使い適合率――22%》
点滅。
《21%》
《自律率――6%》
そして。
《職業解除条件進行――1/3》
「え」
ミレイア。
「進んだ!」
ノア。
「何した?」
ガルド。
「新しい魔法」
ミレイア。
表示。
見る。
「既存職能体系との不一致」
「つまり」
エルナ。
「魔法使いという職業の範囲外の魔法を作った」
「それで解除条件?」
レオン。
「じゃあ」
一つ。
仮説。
「職業ができることを超える?」
ガルド。
「職業を捨てる条件が?」
「逆かも」
エルナ。
皆。
見る。
「職業が」
一言。
「その人を定義できなくなること」
静か。
風。
「魔法使いなのに」
エルナ。
「既存の魔法使いにはできないことをする」
「勇者なのに?」
レオン。
「勇者という枠では説明できない選択をする」
ガルド。
「戦士なら」
「力以外で守る」
ノア。
「魔物使いなら」
「従わせない」
シオン。
「忍者なら」
全員。
見る。
ポキッ。
「これは違うぞ」
「分かってる」
笑う。
その時。
遠く。
拍手。
パチ。
パチ。
パチ。
全員。
武器。
構える。
木の上。
セレネス。
座っている。
「素晴らしい」
ミレイア。
顔。
硬くなる。
「いつから」
「最初から」
「気持ち悪い」
「褒め言葉として受け取ろう」
セレネス。
飛び降りる。
「新規魔法」
ミレイア。
見る。
「粗い」
「うるさい」
「出力効率三十一%」
「うるさい」
「魔力損耗率四十二%」
「うるさい!」
「だが」
セレネス。
初めて。
少し。
笑う。
「興味深い」
ミレイア。
杖。
「戦う?」
「今日は違う」
「じゃあ何」
「確認」
「何を」
セレネス。
一言。
「お前が」
目。
「私になる資格があるか」
「……は?」
ミレイア。
「何言ってるの」
「まだ知らないか」
セレネス。
周囲。
六人。
見る。
「ヴァレス」
レオンを見る。
「私」
ミレイア。
「そして」
一度。
笑う。
「残り四人」
六人。
表情。
変わる。
「まさか」
ガルド。
「魔王軍六将は」
セレネス。
答えない。
「次に会う時」
魔法陣。
足元。
「教えてやる」
「待って!」
ミレイア。
「逃げるの!?」
「転移だ」
「同じ!」
光。
「最後に」
セレネス。
ミレイア。
見る。
「その魔法」
「何」
「名前をつけろ」
「どうして」
「名前のない魔法は記録されない」
光。
「世界にないなら」
笑う。
「お前が世界へ残せ」
消える。
沈黙。
「……何あれ」
ノア。
「敵だよね?」
「多分」
レオン。
ミレイア。
悔しそう。
「腹立つ」
「でも」
レオン。
「名前つける?」
「つけない」
「即答」
「絶対あいつの言う通りにはしない」
《自律率――7%》
「上がった」
ノア。
ミレイア。
表示を見る。
「……じゃあ」
一度。
考える。
「自分でつける」
「結局つけるんだ」
「意味が違う!」
その魔法。
後に。
ミレイアは。
《拒風》と名づけた。
敵を倒すためではなく。
「そこにいてほしくない」という。
自分の意思だけで生まれた。
世界に。
まだ存在しなかった魔法だった。




