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『勇者ですが、勇気しかありません』  作者: asnt2026


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第三十二話 噛まない方が強い

 ミレイアが。


 喋らなくなった。


「明らかに変」


 ノアが囁く。


「聞こえてる」


 ミレイア。


「聞こえてた」


「私の前で内緒話しないで」


「じゃあ普通に言う」


 ノア。


「ミレイア、変」


「言い方!」


 小さな洞窟。


 六人は。


 セレネスから逃れた後。


 そこで休息していた。


 ガルド。


 肋骨。


 エルナが治療。


「痛みますか」


「少し」


「無理しましたね」


「必要だった」


「その言い方」


 エルナ。


 手。


 止まる。


 ガルドも。


 気づく。


「……職業らしかったか」


「少し」


 能力表示。


《戦士適合率――24%》


「上がっている」


 ガルド。


 苦い顔。


「庇えば上がるのか」


「戦士って面倒だね」


 ノア。


「勇者もだぞ」


 レオン。


「何しても上がる気がする」


 ミレイア。


 黙る。


「お前は?」


 レオン。


「何」


「適合率」


「二十三」


「上がってる?」


「……一」


「戦ったから?」


「多分」


 そして。


 ミレイア。


 自律率。


《4%》


 変わらない。


「セレネス」


 レオン。


「すごかったな」


「そうね」


「五属性同時」


「見れば分かる」


「何怒ってる?」


「怒ってない」


「怒ってる」


「怒ってない!」


「怒ってるじゃん」


「うるさい!」


 杖。


 レオン。


 頭。


 叩かれる。


「痛っ」


「少し黙って」


「はい」


 夜。


 皆。


 眠る。


 ミレイアだけ。


 外。


 一人。


 杖。


 構える。


「紅蓮を司りし灼熱の炎よ」


 噛まない。


「我が魔力に――」


 止まる。


 もう一度。


「紅蓮を司りし」


 噛まない。


「灼熱の炎よ」


 完璧。


 セレネス。


 思い出す。


 五つ。


 同時。


 正確。


 圧倒的。


「…………」


 ミレイア。


 詠唱。


 繰り返す。


 何度も。


 何度も。


 噛まないように。


「違う」


 失敗。


「もう一回」


「紅蓮を司りし――」


「しゃく……」


 噛む。


「くそ」


 唇。


 噛む。


「何してるの?」


 背後。


「うわっ!」


 炎。


 暴発。


 レオン。


「危な!」


「何でいるの!」


「トイレ」


「もっと遠く行って!」


「熊出そうで怖い」


「勇者!」


「暗い森怖いだろ!」


 ミレイア。


 ため息。


「見た?」


「何を」


「練習」


「見た」


「忘れて」


「無理」


「燃やす」


「忘れた」


 少し。


 沈黙。


「噛まない練習してる?」


「……悪い?」


「悪くない」


「だったら」


「でも」


 レオン。


 隣。


 座る。


「何で今?」


「…………」


「セレネス?」


 ミレイア。


 答えない。


「羨ましかった?」


「…………」


「俺は」


「何」


「ヴァレス、ちょっと羨ましかった」


 ミレイアが。


 見る。


「強いし」


「うん」


「剣も上手い」


「うん」


「俺より勇者っぽかった」


「勇将だけど」


「同じようなものだろ」


「違うと思う」


「でも」


 レオン。


 自分の手。


「俺があれだけ強かったら」


 誰も。


 傷つかないかもしれない。


 ガルドも。


 ノアも。


 ミレイアも。


「怖くないのも」


 少し。


 羨ましい。


「それでも」


 レオン。


「あいつになりたいとは思わない」


「…………」


「ミレイアは?」


 ミレイア。


 杖。


 握る。


「セレネスは」


 言葉。


「私がずっと欲しかったもの全部持ってた」


 詠唱。


 魔力。


 精度。


「一度も噛まなかった」


「うん」


「私が何年練習してもできなかったこと」


「うん」


「簡単そうに」


「…………」


「悔しい」


 初めて。


 言った。


「普通に悔しい」


「いいんじゃない?」


「何が」


「悔しがって」


「慰めになってない」


「俺、慰める職業じゃないし」


「シオンみたいなこと言わないで」


 少し。


 笑う。


「ねえ」


 レオン。


「何」


「噛まなくなりたい?」


 ミレイア。


 答え。


 すぐ出なかった。


「……なりたい」


「そっか」


「でも」


 一度。


 息。


「セレネスみたいにはなりたくない」


「じゃあ」


「何?」


「噛まなくなる方法を」


 レオン。


「自分で見つければいいんじゃない?」


 ミレイア。


 止まる。


「簡単に言うわね」


「お前天才なんだろ」


「……そうだけど」


「自分で言ってた」


「そこ覚えてるの」


「都合いいから」


 ミレイア。


 杖。


 見る。


 正しい呪文。


 正しい発音。


 それを。


 世界に直してもらう。


 必要はない。


「じゃあ」


 ミレイア。


 立つ。


「手伝って」


「何を」


「実験」


「俺魔力ゼロだよ?」


「だからいい」


「何が?」


「魔法使いじゃないから」


 翌朝。


 五人。


 目を覚ます。


 外。


 爆発。


 ドォン!


「何!?」


 ノア。


 飛び起きる。


 外。


 レオン。


 真っ黒。


 髪。


 逆立っている。


「……おはよう」


 ミレイア。


 笑顔。


「成功」


「どこが!?」


 レオン。


「俺燃えてる!」


「表面だけ!」


「表面ならいいと思ってる!?」


 ガルド。


 額。


 押さえる。


「何をした」


 ミレイア。


 杖。


「詠唱の音を」


 一度。


 振る。


「削る」


「削る?」


「正確に言うんじゃない」


「必要な意味だけ残す」


 短縮詠唱。


 さらに。


 その先。


「私は滑舌を直さない」


 ミレイア。


 笑う。


「魔法の方を」


 一言。


「私に合わせる」


 表示。


《魔法使い適合率――23%》


 揺れる。


《22%》


《自律率――5%》


「下がった」


 ノア。


「適合率」


 ミレイア。


 嬉しそうに。


「当然」


 レオン。


 まだ煙。


「その前に俺治して」


「エルナ」


「人に任せるな!」


「私は魔法の研究で忙しい」


「勝手!」


 洞窟。


 笑い。


 戻る。


 セレネス。


 完璧。


 確かに強い。


 でも。


 ミレイアは。


 初めて思った。


 完璧な魔法を。


 羨む必要はない。


 自分にしか使えない魔法を。


 作ればいい。

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