第三話 ゴブリン三匹は強敵です
勇者パーティー結成三日目。
レオンたちは最初の依頼を受けた。
街道沿いに現れたゴブリンの討伐。
数は三匹。
「ちょうどいいじゃない」
ミレイアが言った。
「私たちの初戦として」
レオンもそう思った。
勇者パーティーなのだから、いきなりドラゴンとはいかなくても、それなりの敵と戦うのだろうと覚悟していた。
ゴブリン三匹。
いくら自分たちでも大丈夫だろう。
一時間後。
「全然大丈夫じゃない!」
レオンは叫びながら木の陰へ飛び込んだ。
棍棒が頭上を通過する。
「ミレイア! 魔法!」
「やってる!」
ミレイアが杖を構えた。
「爆ぜよ、紅蓮の――ぐれ、ぐりぇ……」
「来てる!」
「分かってる!」
「ゴブリン来てるって!」
「急かすから余計言えないの!」
一匹がミレイアへ突進する。
「ガルド!」
「任せろ」
ガルドが大剣へ手をかける。
抜こうとする。
動かない。
「…………」
「何してる!」
「予想より鞘に食い込んでいる」
「飾りって言ってたじゃん!」
ガルドは大剣を諦め、腰の小剣を抜いた。
ゴブリンが棍棒を振り下ろす。
その瞬間。
「右」
ガルドが半歩ずれた。
棍棒が空を切る。
「次は左」
また避ける。
「すごい!」
「動きは読める」
「じゃあ倒して!」
「それは別問題だ」
小剣を振る。
ゴブリンの皮膚で弾かれた。
「硬い」
「お前が弱いんだよ!」
別の一匹がノアへ向かった。
ノアが両手を広げる。
「待って!」
ゴブリンが止まる。
「ゴブリンは本来、臆病で群れを大切にする魔物なの。争う必要なんてない!」
「グギャアア!」
「私は敵じゃないよ!」
「グギャ!」
「ほら、怖くないから!」
「ギャアアアアア!」
殺意が増した。
「なんで!?」
「嫌われるって言ってたよね!」
最後の一匹が森へ逃げた。
「シオン!」
「任せろ」
シオンの姿が消える。
「おお!」
レオンは初めて感心した。
完全に見失った。
茂みの奥。
ポキッ。
ゴブリンが振り返った。
「ギャ?」
パキッ。
「ギャア!」
「場所教えてるじゃん!」
結局。
三匹のゴブリンを相手に、六人は追い回された。
その中で、ゴブリンの一匹が近くの荷馬車へ向かった。
そこには母親と小さな男の子がいた。
「いや!」
母親が子供を抱く。
レオンの足が止まった。
怖い。
はっきりそう思った。
手が震えている。
剣を握っているのに、自分が勝てる映像がまったく浮かばない。
逃げたい。
でも。
ゴブリンと親子の間には、誰もいなかった。
「……くそ」
レオンは走った。
「レオン!」
棍棒が振り上げられる。
レオンは親子の前へ飛び込んだ。
剣を構える。
格好よくはなかった。
腰は引けていたし、歯も少し震えていた。
「こ、来い!」
声も裏返った。
ゴブリンが棍棒を振る。
「左!」
ガルドが叫んだ。
レオンは反射的に身体をずらす。
棍棒が外れた。
「今!」
「煉――れ、れん……」
ミレイアが噛んだ。
「もう短いやつでいい!」
「火球!」
小さな火の玉が飛んだ。
ゴブリンの足元で爆ぜる。
体勢が崩れた。
「シオン!」
ポキッ。
「分かっている!」
背後からシオンが蹴りを入れた。
ゴブリンが前へ倒れる。
「ノア!」
「ゴブリンは耳を引っ張られるのが大嫌い!」
「それ知識として役立つの今!?」
ノアが耳を掴む。
「ギャアア!」
「ほんとだ!」
レオンは剣の腹でゴブリンを殴り、気絶させた。
残り二匹も逃げていった。
六人は地面に座り込んだ。
誰も喋らない。
しばらくしてミレイアが言った。
「……勝った?」
「一応」
「ゴブリン三匹に?」
「一応」
ガルドが真剣な顔で言う。
「魔王まで何年かかると思う?」
「考えたくない」
その時だった。
六人の身体を光が包んだ。
《経験値を獲得しました》
《レベルが上昇しました》
レオンの前に文字が浮かぶ。
《レベル1→2》
「おお!」
初めてのレベルアップ。
少しだけ力が湧いてくる感覚。
レオンは拳を握った。
「これなら、少しずつ強くなれるかもな」
誰も反対しなかった。
その時は。
それが危険なことだなんて。
六人の誰も知らなかった。




