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『勇者ですが、勇気しかありません』  作者: asnt2026


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第二話 このパーティー、全員向いていません

勇者になった翌日。


 レオンは一つだけ希望を持っていた。


 ――仲間だ。


 自分が弱くても、仲間が強ければいい。


 歴代の勇者だって一人で魔王を倒したわけではない。


 大魔法使い。


 屈強な戦士。


 優秀な僧侶。


 そういう者たちが勇者を支えてきた。


「俺が駄目でも、仲間が強ければ何とかなる」


 そう自分に言い聞かせながら、レオンは王城の作戦室へ入った。


 すでに五人が待っていた。


 レオンの表情が明るくなる。


 ――強そうだ。


 最初に目に入ったのは、銀紫色の長い髪を持つ少女。


 紫紺の魔導服。


 知的な青紫の瞳。


 いかにも高位魔法使いという雰囲気だった。


 その隣には長身の黒髪の男。


 背中には巨大な大剣。


 さらに赤茶色の髪の小柄な少女。


 黒装束の男。


 そして最後に、金髪の美しい女性僧侶。


 完璧だ。


 昨日までの不安が一気に消えた。


「皆さんが勇者パーティーですね」


 王国軍の担当官が言った。


「まず自己紹介を」


 銀髪の少女が立ち上がった。


「ミレイア・ノルン。魔法使いです」


 声も綺麗だった。


「王立魔導学院を首席で卒業。火・水・風・雷の四属性を扱えます。特に得意なのは極大爆炎魔法です」


 レオンは感動した。


「すごい」


「ただし」


「はい」


「呪文が、うまく言えません」


「……はい?」


 ミレイアが杖を構えた。


「見た方が早いです」


 息を吸う。


「紅蓮を司りし灼熱の炎よ、我が呼びかけに応じ――」


 そこまでは完璧だった。


「しゃ、灼熱の……」


 一度言えていたのに戻った。


「しゃくねちゅ……」


「…………」


「しゃくねちゅの、ぐ、ぐれん……」


 レオンは担当官を見た。


 担当官は窓の外を見た。


 ミレイアの顔が真っ赤になる。


「今日は調子が悪いだけです!」


「普段は?」


「もう少し悪いです」


「今日いい方なの?」


 次。


 黒髪の男が立ち上がった。


「ガルド・レイン。戦士だ」


 落ち着いた声。


 レオンは期待する。


「武器は?」


「大剣」


 ガルドが背中の剣を示した。


「強そうですね」


「ああ」


「得意技は?」


「敵の動きを読むことだ」


「いいですね!」


「ただし筋力は二十八だ」


 レオンは固まった。


「俺より低いじゃないですか」


「ああ」


「その大剣は?」


「飾りだ」


「戦士なのに?」


「戦士だから持っている」


「使えないんですよね?」


「使えない」


 堂々としていた。


 次は赤茶色の少女。


「ノア・ベルグ! 魔物使いです!」


 明るい。


「魔物についてなら何でも聞いて! この大陸にいる六百二十三種の魔物の生態、弱点、繁殖期、好きな餌まで全部覚えてるから!」


「それは頼もしい」


「でしょ?」


「今は何を使役してるの?」


「ゼロ!」


 元気よく答えた。


「……ゼロ?」


「魔物に嫌われるの!」


「魔物使いなのに?」


「うん!」


「笑顔で言うことじゃないよね?」


「でも大好き!」


「片思いなんだ……」


 四人目。


 黒装束の男が音もなく立ち上がった。


 レオンは少し身構えた。


 本当に気配が薄い。


「シオン・カゲツ」


「忍者?」


「ああ」


「隠密は得意?」


「当然だ」


 シオンが一歩踏み出した。


 ポキッ。


 誰かの関節が鳴った。


 沈黙。


 シオンはさらに一歩。


 パキッ。


「…………」


 レオンが訊いた。


「今の」


「聞こえていない」


「いや」


「聞こえていない」


「二回鳴ったよね」


「お前の気のせいだ」


 座ろうとする。


 コキッ。


 シオンは動きを止めた。


「……今日は多いな」


「認めた」


 最後。


 金髪の女性が穏やかに微笑んだ。


「エルナ・セレス。僧侶です」


 レオンは身構えた。


「先に聞いていいですか?」


「どうぞ」


「何ができないんです?」


「失礼ですね」


「ここまで来ると怖いんですよ」


 エルナは少し考えた。


「治癒魔法は使えます」


「よかった!」


「解毒もできます」


「すごい!」


「結界術も少々」


「まともな人いた!」


「ただ」


 来た。


「私は神を信じていません」


 レオンは天井を見上げた。


「何で僧侶なんですか」


「職業と思想は別でしょう」


「別なのかなあ……」


 エルナは胸元の聖印を指で弾いた。


「少なくとも、私が祈らなくても傷は治ります」


「神様、怒らない?」


「いれば怒るでしょうね」


「いない前提なんだ」


 担当官が手を叩いた。


「以上です」


「以上じゃない!」


 レオンは机に両手をついた。


「何ですか、この人選!」


「神託に従った結果です」


「神、俺たちに何か恨みあります?」


 誰も答えない。


 その日の夕方。


 六人は王都の門の前に並んだ。


 市民たちが見送りに集まっている。


「勇者様!」


「魔王を倒してください!」


「世界をお願いします!」


 レオンは手を振った。


 横ではミレイアが杖を落とし、ガルドが荷物の重さに膝を震わせ、ノアは近くの馬に威嚇され、シオンの肩がポキッと鳴り、エルナは教会から渡された聖書を荷物の底へ押し込んでいた。


 レオンは思った。


 世界、終わったかもしれない。

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