↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『勇者ですが、勇気しかありません』  作者: asnt2026


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/41

第一話 勇者なのに、勇気しかない

勇者になる人間というのは、もっとこう――見るからに勇者なのだと、レオン・アルヴァは思っていた。


 背が高いとか。


 剣を持っただけで周囲の空気が変わるとか。


 生まれた瞬間、空に七色の光が差したとか。


 少なくとも、朝食に食べた固いパンのせいで腹の調子を気にしているような人間ではないはずだ。


「次。レオン・アルヴァ」


「はい」


 呼ばれて、レオンは壇上へ向かった。


 王都中央神殿。


 年に一度行われる《天職選定の儀》。


 十六歳を超え、まだ正式な職業を授けられていない者の中から、特別な素質を持つ者だけがここへ集められる。


 そして今年は、例年とは事情が違った。


 魔王ゼルディアが復活して三年。


 北部の三都市が落ち、人類領と魔族領の境界では毎日のように戦闘が起きている。


 だから今年の選定には、もう一つの目的があった。


 ――次代の勇者を見つけること。


 そのため王国中から有望な若者が集められていた。


 王立騎士団長の息子。


 十二歳で上級魔法を習得した天才魔法剣士。


 竜種討伐経験を持つ傭兵。


 伝説の剣聖の血を引く青年。


 そして。


 田舎町の道具屋の息子、レオン・アルヴァ。


 自分でもなぜここにいるのか分からない。


「右手を聖晶石へ」


 白い法衣をまとった神官長に言われ、レオンは祭壇中央に置かれた水晶へ手を触れた。


 淡い光が広がる。


 空中に数字が浮かび上がった。


《レオン・アルヴァ》


 筋力――四十一。


 耐久――三十八。


 敏捷――四十三。


 知力――四十六。


 魔力――零。


 剣術適性――三十一。


 聖属性適性――零。


 会場が静まり返った。


 しばらくして、どこかから小さな笑い声が聞こえた。


「魔力ゼロ?」


「なんで呼ばれたんだ?」


「剣術三十一って、俺の弟より低いぞ」


 レオンは祭壇の前で顔を伏せた。


 知っていた。


 自分が普通なのは。


 むしろ数字にされると、改めて傷つく。


「帰っていいですか?」


 神官長が咳払いした。


「まだ一項目残っている」


「もう十分恥ずかしいんですけど」


 最後の文字が浮かぶ。


《勇気》


 数字が現れない。


 一。


 十。


 百。


 数字が目まぐるしく変化し、やがて水晶全体が激しく明滅した。


「……?」


 神官たちがざわついた。


 次の瞬間。


 表示が切り替わった。


《勇気――測定不能》


 ざわめきが消える。


「測定……不能?」


 誰かが呟いた。


 レオン自身も首を傾げる。


「壊れました?」


「触るな!」


 神官長が思わず声を荒らげた。


「いや、もう触ってますけど」


 さらに文字が浮かんだ。


《天職――勇者》


 今度こそ、神殿が完全な静寂に包まれた。


「…………」


 レオンは水晶を見る。


 神官長を見る。


 もう一度水晶を見る。


「これ、壊れてますよね?」


 誰も答えなかった。


「だって俺、魔力ゼロですよ?」


「……そうだな」


「剣術三十一です」


「……見れば分かる」


「筋力も普通です」


「だから見れば分かる!」


「じゃあ何で勇者なんですか!」


「こっちが聞きたい!」


 神官長がついに怒鳴った。


 荘厳な神殿の空気が一瞬で崩れた。


 候補者たちから笑い声が漏れる。


 レオンは思った。


 帰りたい。


 非常に帰りたい。


 魔王討伐とか以前に、今すぐ実家の道具屋へ帰りたい。


 だが神官長は笑っていなかった。


 聖晶石に浮かんだ《勇者》の文字を、青ざめた顔で見ていた。


 その隣にいた老神官が、小さく息を呑んだ。


「……またか」


「え?」


 レオンが振り返る。


 老神官は神官長に耳打ちした。


「また、不適合者が選ばれた」


 不適合者。


 確かにそう聞こえた。


「今、なんて――」


「勇者レオン・アルヴァ!」


 神官長が突然、両腕を広げた。


「神はあなたを選ばれた!」


「さっきまで壊れてるみたいな顔してませんでした?」


「神の御心は人智の及ばぬところにある!」


「便利な言葉だな、それ」


「勇者よ! 魔王ゼルディアを討ち、この世界に平和を!」


 拍手が起こった。


 半分ほどは戸惑いながら。


 残り半分は面白がりながら。


 レオンは壇上から降りる途中、もう一度だけ老神官を見た。


 だが老人は目を逸らした。


 不適合者。


 その言葉だけが妙に耳に残った。


 ――その日の午後。


「こちらが、勇者様に与えられる聖剣です」


 騎士が剣を差し出した。


「おお……」


 金色の装飾が施された、美しい長剣だった。


 レオンは受け取った。


「重っ」


 取り落とした。


 ガラン。


 床に聖剣が転がる。


 騎士が目を閉じた。


「……本当にこの方で合っていますか?」


「俺もそう思います」


 こうして。


 後に世界を救うことになる勇者は、


 最初の日に聖剣を持ち上げられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。