第二十九話 十五歳までの自由
「この村には三つだけ決まりがある」
少女は言った。
「一つ。職業を聞かない」
レオンたちは。
村中央。
古い集会所へ案内されていた。
「二つ。十六歳になる子に、なりたいものを聞かない」
「何で?」
ノア。
「聞いたら迷うから」
「迷ったら駄目?」
「駄目じゃない」
少女。
「だから聞かない」
「……なるほど」
エルナ。
少し微笑む。
「三つ目は?」
少女。
六人を見る。
「教会の人を信用しない」
「それは気が合いそう」
エルナ。
「お前嬉しそうだな」
レオン。
「嬉しくありません」
少女。
名前。
リタ。
十五歳。
この村では。
年長者の一人だった。
六年前。
流行病。
多くの大人が亡くなった。
残った大人も。
数人。
その後。
教会が。
子供たちを別の施設へ移そうとした。
「みんな嫌がった」
リタ。
「どうして?」
「知らない人のところ行きたくなかったから」
「それだけ?」
「それで十分でしょ」
レオン。
少し笑う。
「うん」
子供たちは。
村に残った。
農作業。
料理。
修理。
年上が年下へ教えた。
誰が何をするか。
毎日変わった。
「今日は私が門番」
リタ。
「昨日は?」
「パン焼いた」
「その前は?」
「畑」
「得意なのは?」
「知らない」
「知らない?」
「得意だからやるんじゃなくて」
リタ。
「必要だから誰かがやる」
ガルド。
黙って聞いている。
「役割は?」
「その日だけ」
「固定しないのか」
「何で?」
リタ。
逆に不思議そう。
「明日やりたくなくなるかもしれないじゃん」
六人。
誰も。
すぐには答えられなかった。
職業。
人生。
そういうものだと思っていた。
一度与えられたら。
ずっと。
「ここ」
ミレイア。
小声。
「すごい場所かも」
「うん」
ノア。
「でも」
リタ。
顔。
暗くなる。
「もう終わる」
「何が?」
「来月」
十六歳。
最初の三人が。
天職選定を受ける。
教会から。
通知が来ている。
「行かなきゃ駄目?」
レオン。
「行かなかったら?」
「成人として認められない」
土地。
所有できない。
売買契約。
できない。
町へ入るための身分証も発行されない。
「そんな」
ノア。
「職業がないと大人になれないの?」
「この世界では」
エルナ。
「そういう制度なのでしょう」
夜。
六人は。
空き家を借りた。
「ねえ」
ミレイア。
「職業がなくても普通に生きられてる」
「子供だからな」
ガルド。
「でも実際」
ミレイア。
「農作業もできてる。料理も。建築も」
「専門職ほど上手ではない」
「当然」
「でも」
レオン。
窓。
外。
子供たち。
「世界は回ってる」
「小さい村だけどね」
ノア。
「それでも」
エルナ。
「神や職業がなければ、人間社会が成立しないという教会の主張への反例にはなります」
「だったら」
レオン。
「職業って必要ない?」
「そこまで単純ではない」
ガルド。
「専門技能の恩恵は大きい」
「魔法も」
ミレイア。
「職業補正があるから高度な術を使える人が増えた」
「治療も」
エルナ。
「多くの命を救っています」
「魔物使いも」
ノア。
一瞬。
考える。
「……魔物側は迷惑かも」
「忍者は」
全員。
シオンを見る。
「何だ」
ポキッ。
「お前の場合、職業補正ちゃんと働いてる?」
「殺すぞ」
少し。
笑う。
その時。
扉。
叩かれる。
リタ。
「来て」
「どうした?」
「一人」
一言。
「変になった」
村外れ。
少年。
十五歳。
名前。
ディン。
地面。
座っている。
頭。
抱えている。
「聞こえる」
「何が?」
エルナがしゃがむ。
「声」
「どんな?」
「選べって」
全員。
表情。
変わる。
「何を?」
「職業」
まだ。
選定前。
「表示見せられる?」
ディン。
開く。
《天職――未確定》
その下。
今までなかった。
《候補》
《戦士》
《衛兵》
《狩人》
「何これ」
ノア。
ディンの呼吸。
荒い。
「頭の中で」
「一番適性が高いものを選択してくださいって」
「選ぶな」
レオン。
即答。
ディン。
見る。
「でも」
「今は」
レオン。
「決めなくていい」
「でも声が」
「俺たちがいる」
エルナ。
「他のことを考えましょう」
「何を」
「好きな食べ物」
「え?」
「何でも」
エルナ。
「職業と関係ないこと」
「……芋」
「好きな遊び」
ノア。
「木登り」
「嫌いなもの」
ミレイア。
「虫」
「将来やりたいこと」
ガルド。
ディン。
止まる。
「それ」
リタ。
「聞いちゃ駄目って」
「今は必要だ」
ガルド。
ディン。
苦しそう。
「分からない」
「それでいい」
レオン。
「決めなくていい」
《候補選択を要求》
表示。
点滅。
《戦士》
《衛兵》
《狩人》
「消えない!」
ディン。
「なら」
シオン。
前へ。
「全部断れ」
「そんな選択肢ない」
「選択肢がなければ」
シオン。
「作れ」
「どうやって?」
シオン。
少し。
考える。
「分からん」
「格好つけたのに!」
レオン。
「お前が続けろ」
「俺!?」
「勇者だろ」
「今それ言う!?」
ディン。
少し。
笑った。
その瞬間。
表示。
揺れる。
《候補選択を――》
ノイズ。
レオンは。
ディンを見る。
「名前は?」
「ディン」
「職業は?」
少年。
迷う。
「……ない」
「じゃあ今は?」
「ディン」
「それでいい」
表示。
《戦士》
《衛兵》
《狩人》
消える。
代わりに。
《天職――未確定》
そして。
《自律率――1%》
「出た」
ミレイア。
リタ。
「何?」
六人。
顔を見合わせる。
普通の人。
通常値。
ゼロ。
だが。
職業を与えられる前でも。
自分で選ぶことはできる。
「リタ」
レオン。
「この村」
「何?」
「教会に見つかったら危ない」
「知ってる」
「違う」
表示。
見る。
「今までより」
その時。
村中央。
鐘。
鳴る。
教会の鐘ではない。
非常用の。
手鐘。
「誰か来た!」
外。
子供の声。
六人。
走る。
村の入口。
馬車。
三台。
白い法衣。
教会。
先頭。
ロデス。
「……しつこい」
レオン。
ロデス。
馬車から降りる。
顔。
いつもの笑顔。
だが。
以前より。
疲れている。
「勇者レオン」
「今度は何?」
ロデスは。
六人ではなく。
村の子供たちを見る。
「天職未付与者に異常反応を確認しました」
レオン。
前へ。
「子供に何する気?」
「何もしません」
「信用できない」
「予定を」
ロデス。
「早めるだけです」
「何を」
馬車。
後ろ。
大量の。
聖晶石。
「この村の全員に」
ロデス。
「今夜」
静かに。
「天職を与えます」




