第二十八話 誰にも命令されない逃げ道
翌朝。
灰色の狼はいなかった。
干し肉も。
なかった。
「食べてくれた!」
ノアが嬉しそうに言う。
「なついた?」
レオン。
「違う」
「じゃあ?」
「食べたかったから食べた」
「それだけ?」
「それがいいの」
ノアは。
妙に嬉しそうだった。
「魔物使いとしては失格ね」
ミレイア。
「うん!」
《魔物使い適合率――9%》
「また下がった!」
「喜ぶところなの?」
「今は!」
問題。
目的地。
「これからどこ行く?」
レオン。
全員。
黙る。
第七観測区へ来る。
ゼルディアに会う。
世界の正体の一部を知る。
そこまでは。
決めていた。
その先。
ない。
「魔王城?」
ノア。
「嫌だ」
レオン。
「即答?」
「ゼルディアに行けって言われてないけど」
「うん」
「今行ったら」
一度。
考える。
「何となく、魔王側についたみたいになる」
ミレイアが頷く。
「世界が用意した対立構造に入るってことね」
「たぶん」
ガルド。
地図。
「人間領へ戻るのも難しい」
「緊急命令」
シオン。
「どこへ行っても職業持ちは敵になる可能性がある」
「じゃあ」
エルナ。
「職業持ちが少ない場所」
「そんな場所ある?」
ノア。
全員。
考える。
レオン。
「子供」
「何?」
「天職って」
この世界。
正式な天職が定着するのは。
十六歳前後。
「子供には職業がない」
ミレイア。
目。
見開く。
「職業がなければ緊急職能命令も」
「流せない?」
ガルド。
「可能性はある」
エルナ。
「ただ」
「何?」
「子供だけの町などありません」
「そりゃそうだ」
レオン。
だが。
シオン。
地図の端。
「ある」
「何が?」
「ここ」
指。
南西。
山岳地帯。
《ネム村》
「村じゃん」
レオン。
「普通に大人いるだろ」
「六年前」
シオン。
「疫病で大人の大半を失った」
空気。
変わる。
「何で知ってるの?」
ノア。
「忍びの情報網」
「急に忍者っぽい」
ポキッ。
「取り消す?」
「やめろ」
「今はどうなってる?」
ガルド。
「孤児や若者を周辺の修道院が保護したはずだが」
シオン。
「教会管轄?」
エルナ。
「危険ですね」
「でも」
レオン。
「行ってみる価値はある」
「近い?」
「一日半」
「なら決まり」
ミレイア。
歩き出す。
「待って」
レオン。
「何?」
「今決めたの誰?」
「私」
「俺、勇者なのに」
「だから?」
ミレイア。
口元。
少し笑う。
「何でも勇者が決めるって、誰が決めたの?」
レオン。
止まる。
そして。
「……それ、俺が言いたかった」
「遅い」
六人。
山道へ。
途中。
世界補正。
何度も。
起きた。
橋。
突然。
通行止め。
橋守。
レオンたちを見る。
「秩序破壊対象」
「また!」
戦わず。
川を渡る。
「冷たい!」
ミレイア。
「この旅、水多くない!?」
「お前火魔法使いだろ、乾かして!」
「詠唱短縮で熱風作るから待って!」
次。
宿。
「犯罪者を泊めることはできません」
「犯罪してない!」
「世界秩序破壊罪」
「そんな罪いつできたの!?」
「本日です」
「出来たて!」
野宿。
次。
食料。
商人。
「販売禁止対象です」
「お金払うのに?」
「職務命令です」
その横。
十二歳ほどの少年。
露店。
「これ食べる?」
リンゴ。
「え?」
商人。
「おい! 渡すな!」
「何で?」
「犯罪者だ!」
少年。
レオンたちを見る。
「この人たちが?」
「そうだ!」
「何したの?」
商人。
止まる。
「世界秩序を」
「何したの?」
「…………」
答えられない。
少年。
「じゃあいいじゃん」
リンゴ。
レオンへ投げる。
「おお」
受け取る。
「ありがとう」
「一個銅貨一枚」
「金取るんだ」
「商売だから」
「職業は?」
「まだない」
少年。
笑う。
「親父の手伝い」
その言葉。
六人。
顔を見合わせる。
やっぱり。
職業のない子供には。
命令が届いていない。
レオン。
銅貨。
二枚渡す。
「一枚だよ」
「もう一個」
「ありがとう」
「ノア」
リンゴ。
投げる。
「わっ」
ノア。
受け取る。
商人。
困惑。
「やめなさい!」
「何で?」
息子。
「その人たちは敵だ」
「父ちゃんの?」
「世界の!」
「世界って誰?」
商人。
答えない。
少年。
首を傾げる。
「変なの」
六人。
その場を離れる。
ミレイア。
「確定ね」
「うん」
レオン。
「職業のない人には命令が効かない」
エルナ。
「逆に言えば」
一言。
「職業を得た瞬間から、世界との接続が始まる」
全員。
黙る。
自分たちも。
いつ。
そうなった?
子供だった頃。
好きだったもの。
なりたかったもの。
自分で決めたと思っていた。
でも。
本当に?
「急ごう」
レオン。
「ネム村へ」
その日の夕方。
山。
向こう。
村。
小さい。
煙。
家。
畑。
そして。
人影。
「子供ばっかり」
ノア。
十代前半。
もっと幼い子。
何人も。
大人。
ほとんど見えない。
「本当にあった」
六人。
近づく。
村の入口。
一人の少女。
十五歳くらい。
木槍。
構える。
「止まって!」
レオン。
両手。
上げる。
「怪しい者じゃない」
全員が見る。
「……今のは嘘ね」
ミレイア。
「確かに怪しい」
シオン。
「教会に追われています」
エルナ。
「言うの早い!」
「どうせ分かります」
少女。
じっと六人を見る。
「職業は?」
レオン。
一瞬。
迷う。
勇者。
その言葉。
言わず。
「レオン」
少女。
少し。
眉を上げる。
「名前じゃなくて」
「今は」
レオン。
「それでいいかなって」
少女。
しばらく。
見る。
そして。
「変な大人」
「よく言われる」
「入って」
木槍。
下げる。
「この村」
一言。
「職業を聞くのは禁止だから」
六人。
止まった。
「……何?」
少女。
背を向ける。
「聞いたら喧嘩になるから」
「どうして?」
彼女は。
振り返らない。
「みんな」
少しだけ。
声を落とす。
「もうすぐ決められちゃうから」
ネム村。
そこは。
六人が初めて訪れた。
誰も自分の職業を名乗らない場所だった。




