第二十七話 完璧な勇者のような男
速い。
そう思った時には。
ヴァレスは。
レオンの前にいた。
「え――」
剣。
横薙ぎ。
ガルド。
間へ。
大剣。
受ける。
ガァン!
「ぐっ!」
ガルドの身体が。
数メートル。
飛んだ。
「ガルド!」
「見るな!」
叫び。
「次が来る!」
ヴァレス。
踏み込む。
「ミレイア!」
「分かってる!」
杖。
「縛れ!」
地面から。
魔法の蔓。
ヴァレスの脚へ。
一瞬。
絡む。
剣。
一振り。
全部。
切れた。
「嘘でしょ」
ミレイア。
「短縮詠唱の構造を一瞬で見切った」
「そんなのあり?」
ノア。
シオン。
背後。
短剣。
首へ。
ヴァレス。
振り返らない。
剣の柄。
後ろ。
シオンの腹。
「ぐっ!」
倒れる。
「シオン!」
ポキッ。
「……無事?」
「今それで判断するな」
エルナ。
治癒。
「ガルド!」
ガルド。
立ち上がる。
「大丈夫だ」
「全然大丈夫に見えません」
「骨は?」
「二本」
「大丈夫じゃない!」
レオンは。
剣を抜いた。
怖い。
勝てるわけがない。
分かる。
ヴァレス。
剣。
立ち姿。
隙。
ない。
「勇者」
ヴァレス。
「何だよ」
「弱い」
「知ってる!」
踏み込む。
レオン。
剣。
構える。
ガキン!
一撃。
剣。
手から飛ぶ。
「あ」
地面。
転がる。
ヴァレスの剣先。
レオンの喉。
止まる。
「なぜ」
「……何が」
「お前が勇者だ」
レオンは。
息を呑む。
どこかで。
聞いたような問い。
いや。
ずっと。
自分自身が思っていた。
「筋力低位」
ヴァレス。
「魔力皆無」
「剣術未熟」
「恐怖反応過多」
「判断に感情混入」
「言い方!」
「勇者として不適切」
「だから知ってるって!」
ヴァレス。
無表情。
「なら」
剣。
「存在する理由がない」
その瞬間。
灰色の狼。
横から。
ヴァレスへ飛びついた。
「!」
初めて。
剣先がずれる。
「今!」
ガルド。
レオンを引っ張る。
逃れる。
狼。
地面へ叩きつけられる。
「やめろ!」
ノアが叫ぶ。
ヴァレスの剣。
狼へ。
ノア。
前へ。
「殺さないで!」
ヴァレス。
止まらない。
レオン。
身体。
勝手に動く。
「うわああっ!」
ノアを突き飛ばす。
剣。
レオンの肩。
切る。
「レオン!」
血。
「痛っ!」
でも。
狼。
逃げる。
ノア。
無事。
《勇者適合率――18%》
「今は気にしない!」
レオンが叫ぶ。
「誰に言ってるの!?」
ミレイア。
ヴァレス。
剣を構え直す。
「理解不能」
「何が」
「勝てないと判断した」
「うん」
「なぜ戻った」
「ノアが危なかったから」
「それは勇者の使命か」
「知らない!」
「ではなぜ」
レオンは。
肩を押さえる。
痛い。
怖い。
死にたくない。
「仲間だからだよ!」
ヴァレス。
目。
ほんのわずか。
揺れた。
だが。
すぐ戻る。
《自律率――0%》
「不要」
「何が」
「仲間という判断基準」
「……何言ってるんだ」
「目的達成に必要な者を残す」
ヴァレス。
「不要なら切る」
レオン。
矯正された自分。
思い出す。
仲間五人を切り離せば。
自分一人なら脱出できる。
「お前」
レオン。
「昔」
一言。
「俺みたいだった?」
ヴァレス。
止まる。
「質問の意味が不明」
「職業適合率が低かった時」
「記録なし」
「自律率は?」
「不要情報」
「家族」
「不要」
「好きだったもの」
「不要」
「怖かったもの」
「不要」
全部。
同じ。
アルベルト。
完成した勇者。
「こいつ」
ミレイアも気づく。
「完全に適合してる」
「百%」
エルナ。
「だから完璧なんですね」
勇将。
魔王軍第一将。
なのに。
目の前の男は。
魔物側の英雄というより。
世界が考えた。
理想の戦士。
理想の勇者。
そのものだった。
「ヴァレス!」
声。
遠く。
黒い鳥。
飛来。
足。
小さな筒。
ヴァレス。
手紙を取る。
読む。
無表情。
「魔王命令」
「ゼルディア?」
レオン。
「撤退せよ」
「……え?」
ヴァレス。
剣を収める。
「待て!」
「命令されたから帰るの?」
「魔王軍将として従う」
「さっき俺を殺すって」
「緊急職能命令を優先した」
「どっちが上なの?」
「現在は魔王命令」
レオン。
眉を寄せる。
「お前」
「何だ」
「自分で決めること、一個もないの?」
ヴァレス。
無言。
「今日俺を殺すのも」
レオン。
「帰るのも」
「全部誰かに決めてもらってるじゃん」
ヴァレスの目。
微動。
その瞬間。
表示。
《自律率――0%》
一瞬だけ。
《――》
ノイズ。
すぐ戻る。
ヴァレスは。
背を向けた。
「次は殺す」
「それも命令?」
足。
止まる。
「…………」
「自分で決めた?」
答えない。
森。
消える。
静寂。
「……生きてる?」
ノア。
レオン。
地面へ座る。
「多分」
「肩!」
エルナ。
「見せて」
「痛い」
「当たり前です」
治癒。
ミレイア。
ヴァレスが消えた方向。
見ている。
「あれが魔王軍の将軍」
「強すぎる」
ガルド。
「俺の攻撃がまったく通じなかった」
「でも」
シオン。
腹を押さえながら。
「変だった」
「何が?」
「俺たちを襲った魔物は、命令に逆らえた」
「うん」
「ヴァレスは」
一言。
「逆らわなかった」
ノアの顔。
曇る。
「人間の方が」
「……従順?」
レオン。
エルナ。
治療を終える。
「職業という檻を、自分から檻だと認識できないからでしょう」
レオン。
肩。
動かす。
「いてて」
「無理しない」
「でも」
森を見る。
「ゼルディアが助けた」
「結果的には」
ガルド。
「信用する?」
ノア。
レオンは。
少し考える。
「しない」
「早い」
「でも」
一度。
笑う。
「借りはできた」
「返すの?」
ミレイア。
「自分で決める」
《自律率――5%》
「また上がった」
「何言っても上がる時期に入ってない?」
「そんな成長期嫌だ」
その夜。
六人は。
森の奥。
焚き火を囲んだ。
誰も。
あまり喋らなかった。
ヴァレス。
強かった。
あれが一人。
魔王軍には。
まだ将がいる。
「ねえ」
ノア。
「何?」
レオン。
「私たち」
一瞬。
笑う。
「本当に世界救える?」
レオン。
焚き火を見る。
「知らない」
「そこ勇者っぽく『救える』って言わない?」
「言ったら嘘になる」
怖い。
分からない。
敵。
強い。
「でも」
五人を見る。
「まだ誰も帰るって言ってない」
ガルド。
「帰れると思うか?」
後ろ。
森。
世界中に追われている。
「それもそうだな」
少し。
笑った。
その夜遅く。
ノアだけが。
妙なことに気づいた。
焚き火の外。
灰色の狼。
座っている。
近づかない。
逃げない。
「……来たの?」
狼。
答えない。
ノアも。
呼ばなかった。
ただ。
隣に。
干し肉を一つ。
置いた。




